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並行して楽しむ、浜崎あゆみとTRF


2020/06/03

 昨年発売された浜崎あゆみの書籍「M 愛すべき人がいて」はTVドラマ化に至るほど、大きな話題となった。また、自身の歌声のアカペラを100曲以上もインターネット上に公開し、これを用いた作品も公募して注目を集める。今回は、そんな浜崎あゆみのレパートリーと、僕自身のリスナーとしてのルーツを織り交ぜながら音楽鑑賞をしていきたい。

浜崎あゆみ「my name's WOMEN」

 2004年発売「MY STORY」および2007年発売「A BEST 2 -WHITE-」の両アルバムに収録。デビュー当初のきらびやかな曲調とは少し趣を変えた、ズッシリと重厚感のあるサウンド。従来の楽曲のアレンジは、高域のシンセサイザーの細かいフレーズが絶え間なくクルクルと動き回っているイメージがある。そこから比べると、随分と低域が強調されている。キャリアを重ねて威風堂々という言葉も似合うようになってきた頃の作品だ。
 ミュージックビデオの見どころは、やっぱりTRFの出演。僕は映像を初めて見たとき、「てぃ、てぃてぃてぃてぃ、TRF!」と何度も吃りながら驚いていた。この曲ではダンスに加えて小芝居も織り交ぜてくれる。90年代に出演したミュージカル「月は地球にKISSをする」の経験が活きているのかどうか分からないが、TRF本体とは別に、DJ KOOやボーカルのユーキのいない所で、ダンサーたちは独自の活動も展開している。後進の育成にも熱心だ。そこで得られたものをまたTRFにフィードバックしてくれたら、観ているこちらも楽しい。
 楽曲構成の特徴としては、Bメロの歌にきついエフェクトをかけた合いの手が交差する部分。終盤にも「忘れないで」と「分かったような顔して」の、前後のフレーズが交差する箇所がある。リスニング上は楽しいポイントだが、カラオケで歌うときにどう再現するかは、なかなか悩ましいのではないか。
 第一興商のDAM★ともでの録音機能を使えば、一度録ったテイクの上から新たなテイクを重ねて録れる。そこで1度目の歌唱では欠けてしまったピースを補うように、2度目の歌唱を行えば、通しても自然に聴けるテイクが完成する。
 この、1曲の歌唱を複数回に分けて録音する作業を障壁と感じるか醍醐味と感じるかは人それぞれだろうが、僕はメッチャ楽しい。
 一番良いのは上記の方法だと僕は思うが、皆が皆そうもいかない。重ね録りをしないとなると、どんな手を打てばいいのか。それは一部のフレーズを省略した歌唱だ。まずBメロのきついエフェクトがかかった部分をカットして歌う。そして、終盤のフレーズが交錯する部分の対処だが…
 「都合よく存在してるわけじゃないことを」までを歌い、「忘れないで」をカット。続いては「分かったような顔して」から歌い出す。僕はこういう連結方法が良いように思う。幹の部分と枝葉の部分を分類しながらメロディー全体を通して聴いた結果、こう感じた。この歌い方なら、「忘れないで」が欠けてはいても、この曲を知らない初耳なリスナーには「こういうバージョンなのか」と思わせることもできそうな気がする。ところが、「忘れないで」まで歌ってしまうと、その続きから再び入るときに、いかにも途中からやり直しました感がプンプン漂ってしまわないだろうか。
 前後のフレーズで声が重なる歌を、2回に分けて録音せずに再現する場合、重要なフレーズとカットできるフレーズを取捨選択しながら歌ってみよう。また一段とカラオケが楽しくなるのではないか。この他に例を挙げると、TRFの「寒い夜だから…」にも、終盤にフレーズが交錯する部分がある。ここも「街よ!伝えて欲しい」までを歌い、「変わらぬ想いを」はカット。続いて「寒い夜だから」と歌い始める。これなら、初耳のリスナーにもカットしたことを気づかれにくいように思う。「変わらぬ想いを」まで歌ってしまうと、次のフレーズの頭がなくなってしまうので、それよりはダメージをかなり軽減できる。
 余談だが、1994年発売のアルバム「WORLD GROOVE」に収録のバージョン「寒い夜だから…SEQ OVER DUB MIX」は、最初からフレーズが重ならない編集を施してある。これならば一度の歌唱だけでも、フレーズが欠けることなく再現可能だ。

TRF「Happening Here」

 シングルのミリオン・ヒットを連発した時期から趣旨変更し、いかにも売れ筋な曲調からは距離をとった一曲。デビュー時からTRFを追ってきた身としては、「寒い夜だから…」を初めて聴いたときに、売れるためにはこういう曲も出さなきゃいけないのかな、なんて勘繰りもしていた。大きな売り上げが出てTRFの名前が全国区になり、「トルフ」なんて読み間違えられることもなくなり出した頃、嬉しさの一方、世間で日の目が当たっている楽曲と、僕自身が好きなデビュー当初の曲やHyper Mixシリーズの曲との間で乖離を感じるモヤモヤも少しあった。「masquerade」だけは、本当に僕の好きなTRFの姿だったけど、その他のミリオン・シングルは枚数を叩き出すために味付けを甘くし過ぎている印象だった。
 そこで、この「Happening Here」のリリースである。やっと僕の好きなTRFが帰ってきてくれた!と思った。こういう曲でシングルを切ってくれるのは嬉しいね。DJ KOOのYou Tubeチャンネルでは、ヒャダインとの対談の際にこの曲も話題に上っていた。今となっては、その味付けを甘くし過ぎてでも大きな売り上げにこだわったその結果として、シングルでこんな冒険ができたのだと思える。
 サビで鳴っている高音シンセサイザーのリフは耳に残るし、イントロから登場する徐々に音量が上がっていく「シィ〜ッ」という効果音(おそらくシンバルの音を録音して逆回転再生したもの)の使い方も良い。Aメロからたたみかけてくるユーキのボーカルも肝を抜く。それまでのヒット曲から比べるとチャート・アクションは特別派手ではなかったが、僕は大好きだったな。
 当時の音楽番組にこの曲で出演するときも、片っ端から録画してなんども観ていたものだ。出だしの衣装を裂く演出に、椅子を飛び越えたり持ち上げたりする振り付けなど、見応え抜群。TVでしか観られなかったパフォーマンスを、後にライブで実際に目の当たりにしたときは感激だった。この曲はセットの都合上、広いスペースを必要とする。さらにサポートダンサーの人数もかさむ。単に人を集めれば良いわけではなく、この難易度の高い振り付けについてこれるダンサーがたくさん要る。いつでもどこでも披露できる楽曲ではないが、また生で観る機会が欲しい。映像とは違ってカメラマンの腕前に左右されずに、心おきなくパフォーマンスのすべてを味わいたいものだ。
 1998年発売のアルバム「WORKS The Best of TRF」にはDJ KOOのラップが入ったバージョンを収録。また2012年発売のアルバム「TRF 20th Anniversary COMPLETE SINGLE BEST」にはラップ・パートを切ったバージョンが収録されている。配信でバラ売り購入する際にはお好みで選ぶといいだろう。
 これとは別に、浜崎あゆみによる同曲カバーがあり、2コーラス目にちょっとした面白い仕掛けが施してある。TRF版は既に持っているという方も、今度はこちらでもう一度この曲を楽しんでみてはいかがだろうか。2012年発売のアルバム「A SUMMER BEST」に収録。これは僕も持っている。浜崎あゆみの作品は数があまりにも多いので、もし今、何もないところから揃えるとなると気が遠くなるけど、これは購入意欲をそそる曲が入っているなー!