島に移住した
最近生活が変わった。
最初は何かが変わることもないだろうと思ってた。ニュースで諸外国がロックダウンしてる様子をみてもわたしがいる業界はお休みになってないようだったしリモートで出来るというものでもなかったので、国が限界突破な政策を打ち出してもわたしは今までとなんら変わらない生活を送れるだろうと、ある種思い上がりに似たような感覚を抱いていた。
でもそれは違ってた。
確かに社会的な面ではそれほど変化があったわけではない。解雇されることもなくお休みになることもなくむしろ労働環境がまともになったな、と思うくらいで特に煽りを受けてる感じはない。問題は仕事をしていない日だった。
とにかくつらい。なにがって言われると何とは言えない。状況としてはおでかけできなくて静かにしてることがストレスになってるんだろうということは分かる、でもこの感情はなんだ、この気持ちに名前がつけられない。
失ったものばかりが目について、得たものと言えば「自粛」という文字がなにも見ずに書けるようになったことくらいで、そんなことに喜べるはずもなく陰鬱とした気持ちで日々を過ごしていた。
そんな中で自由に家の外に出て近所の人とお話をしたり、海に行ってみたり、博物館に行ってみたり、お買い物をしたりできる夢のような環境をつくるという偉業をニンテンドーが成し遂げた。
どうぶつの森の新作リリースである。
まだコロナのコの字もなかった頃から新作が出るという話は知っていた。でも今この状況で!わたしの世界一大好きなゲームが!あの頃の自由を引っ提げて帰ってくる…!!本当に本当に嬉しくて、わたしは初日にスイッチ本体とカセットを手に入れた。無人島移住計画の始まりである。
それからわたしは毎日毎日無人島を走り回った。最初の頃は拾った木の枝であみを作って虫を捕ったり、伐採した木材でまだ見ぬ住人に家具を作り新居の建設予定地に配置した。
しばらくそんなことを繰り返していくうちに無人島とは名ばかりの、そこそこ住んでいけそうな島が出来上がった。その頃、今度は崖を削ったり川を埋め立てられるライセンスを取得した。
もうそこからは今だかつてないくらいゲームソフトを起動させた。大人の力で空いてる時間は島の環境整備に尽力した。別に崖を削ろうが川を埋め立てようが誰からも感謝されない。前はやったことがバーチャルとは言えども誰かの役に立っていた。住人が増えれば無人島移住計画の主催者は喜んでくれた、家具を贈った住人も移住の準備に対する感謝の意を述べてくれた。でも今はもうそんなことはない。慈善にもならない、狂ったような環境破壊に勤しんだ。
今ではある程度の整備も終わり、かっこいい島を作るために邪魔だと木を切り倒し、坊さんの頭の如くすってんてんになった島にも緑が戻りつつある。歴史をなぞるようだ。人は過ちを繰り返す。歴史を学ぶということは人が愚かであることの証明だ。
外出の機会を与えてもらったことでわたしは何とか人に迷惑をかけつつも生きてる。楽しみがあるということも人生にとっていい。雨が降った次の日に店では買えない珍しい色の花が咲いていることがあって、それをわたしは本当に楽しみにしている。今までの人生で花の色にこんなに思いを馳せることがあっただろうか。
ありがとうニンテンドー。
どうぶつの森はいいぞ。みんなでやろう。