三題噺 32 こいよ

恋、鯉、来い

⚠︎ねいろ→あそぼ→こいよ

 アヤカが死んだという報せは中二の三月終盤、バスケ部の春休み合宿から帰ってすぐに、母さんから知らされた。
 俺とアヤカは家が隣り合わせで、いわゆる幼馴染だった。幼稚園からの付き合いで、そこから小学生、中学生の時間を共有し、いつの間にか、異性として意識し始めていた。

 「どんな事でも頑張れる、一生懸命な人が好き」

 その言葉を安直に受けて、苦手だった運動部に入り、スタメン入りが決まった。
 最後の試合で良い結果を出せたら告白しよう。そう思っていた。
 そのアヤカが死んだ⋯⋯
 母さんは明日葬式があると告げて、自分の部屋に引き込んでしまった。引き込む直前に、
 「マナト、気を落とさないでね」
そう付け足すのが精一杯だったようだ。
 親父は渋い顔で新聞を読んでいるが、目線が宙をさまよっている。
 家族ぐるみの付き合いだったので、二人とも気持ちのやり場に迷っているんだろう。
 特に母さんは、アヤカを実の娘のように可愛がっていた。
 俺は、喪失感に頭が真っ白になり、やがて渦巻く色んな感情に頭が内側から破裂しそうなほどの頭痛に襲われ、また真っ白になった。
 翌日葬式に行ったが、ほとんど何も覚えていない。ただ、遺影を前に泣き崩れるアヤカの両親と、俺の母さんの姿。それと対極的に俺は、真っ白な顔で、無表情だった事は覚えている。
 数日、家に引きこもって過ごしてしまった。
 俺とアヤカについて知っているバスケ部や中学の友人から、メッセージアプリでいくつも連絡や励ましの言葉が届いた。一部には目を通したが、ほとんど無視した。
 バスケ部の部長であり、中学に入って出来た親友のタカシからも連絡があった。

 『今は好きなだけ休め
 気持ちが落ち着いたらいつでも来い。
 が、あんまりのんびりしてるとスタメンの座を奪われるぞ』

 アイツらしい一言が、妙に心地よかった。
 一週間が過ぎ、ようやく落ち着いてきたので、俺は部活に復帰した。
 みんななにかを聞きたそうな顔をしていたが、顧問やタカシが言い含めたのか、ややぎこちなかっなが、普段通り接してくれた。
 その日、部活から帰ってすぐ、無視してしまっていたメッセージや連絡を整理していたら、不審なメールが届いていた。
 普通は右上あたりに表示されるはずの差出人の所は空白だった。
 なんとなく開いてみると、内容はこうだった。

 –––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

件名なし

20XX年3月XX日14:40
XX幼稚園から、
→→↑→↓←↓→↓←↑↑→→↓△
←←←↓→↑→↓←↑←↑→→↓←↓→→〇
〇ここに行けば、私に会えるよ。

                  アヤカ
 ––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 この日のこの時間は、アヤカの火葬が行われた時間–––––––
 俺は慌ててスマホの地図アプリを呼び出し、XX幼稚園を探した。ここはアヤカと初めて出会った場所だ、すぐ見つかる。
 そこから指で矢印の通りに道をなぞっていくと、〇印の場所は、緑地公園の池の前だということが分かった。
 そこなら家からすぐだ。幼稚園から行くにしてもすごい遠回りになるし、矢印の通りに行くとかなり時間がかかる。
 俺は居ても立ってもいられなくなり、すぐ家を飛び出し、まっすぐに緑地公園に向かって駆け出した。
 緑地公園にはすぐに着いた。
 辺りを見回したが、当然、そこにアヤカは居ない。
 池の前にベンチを見つけ、そこに座った。
 池を一匹のコイが泳いでいる。
 全身真っ白なその姿から、死装束を連想した。
 なんとなく目が離せなくなり、俺はそのコイをじっと見た。
 一瞬、目があったかと思うと、コイは水音も立てず身を翻し、遠くへ泳いで行った。
 なぜか、コイが俺を哀れんでいるように見えた。
 池に着いて三時間が過ぎたが、ときおり人が通り過ぎるだけで、アヤカには逢えない。
 いたずらだと思い始めていたが、それでも万が一、いやそれ以下の可能性でも…、そういう思いで池の前に居たが、母さんからメッセージアプリで家に帰るように促す文が送られてきた。
 時計を見ると、八時を過ぎていた。
 あのメールには時間の指定は無かった。
 これ以上ここに居ても意味がないかも知れない。
 必ずアヤカに会うぞ、そう心に決め、その日は家に帰った。

 それから数日が過ぎた。
 あのメールが頭に引っかかってバスケに集中できず、どこか上の空になっていた。
 やっぱりいたずらなのか、何か条件があるのか、あるとしたらそれはなんなのか––––––––
 「おい、よけろ!」
 思わぬ方向から飛んできたボールに顔を強打した、鼻血が出ている。
 「ボケッとしてるからだぞ!」
 顧問の怒声も飛んできた。
 「…十時三十分まで休憩だ。」
部長であるタカシの号令が、体育館に響いた。
 「気持ちは分からなくもないが、部活中は忘れろ」
 体育館に近い水道で鼻を押さえていると、タカシがやってきた。
 「ごめん、考え事してた」
 「考え事?」
 一人で考えても結局答えは出なさそうだ。誰かに話すとしたら、親友であるコイツかな。
 「聞いても俺を異常者扱いするなよ」
 そう前置きをし、俺は今までのことを話した。スマホを見せ、メールについても語り、俺の推測も聞いてもらった。
 「手の込んだいたずらだろ」
 中学に入って出来た親友は、予想通りの一言を言った。
 「と、切り捨ててもいいが、面白そうな話でもあるな」
 そう言って口の端を吊り上げた。
 彼がこういう顔をするときは、なにかを思い付いたときだ。
 それは遊びのアイデアだったり、試合相手の弱点だったり色々だ。
 「そのメール、もう一度見せてくれよ」
 俺はスマホを差し出した。
 タカシはしばらく画面とにらめっこした。
 「ん〜、こいつは多分パスワードかなにかだな」
 「どういうことだよ?」
 「こういうこと」
 タカシは勝手に俺のスマホの電源を切った。
 俺がムッとしたのは気付かないふりして、俺に差し出す。
 「このスマホを開いて、さっきと同じ画面を見せてくれ」
 言われたとおりにして、メール画面を開き、もう一度聞いた。
 「どういう事だ?」
 「メール画面を開くまでにお前は、電源を付けて、ロックを解除した。その後にアプリを開く。そういう手順が必要だ。
 メールにある矢印はそういう手順みたいなものじゃないのか?
 もっと言うなら、その道順でしか行けない場所へ案内している。
 僕はそう思うね。」
 言われてみてもピンと来ない。
 「なんでそう思うんだ?」
 なので、質問を重ねることにした。
 「そこに行けば会える場所を教えるなら、場所だけ書けばいいし、仮に緑地公園への道案内だとしても、無駄に回り道だ。
 だったら、その道順でしか行けないどこかへの案内だと僕は思うね。」
 言われて、あの矢印は幼稚園からものすごい遠回りだった事を思い出した。
 あのときは場所だけを考えていて、矢印の意味を一切考えていなかった。
 「とにかく、部活中はバスケに集中してくれよな。
 お前のスリーポイントが無いとチームが締まらないからな」
 そう言ってタカシは体育館へ駆け出した。
 いつの間にか、休憩時間は残り三分だ。
 ティッシュで鼻に詰め物をし、俺も体育館へ急いだ。
 タカシと話したその二日後は日曜日で、部活は休みだった。
 この日を逃せば、部活は休みが無く、そのまま新学期がやって来て、自由に身動きが取れなくなる。
 昨日のうちに印刷しておいた地図を片手に俺は、XX幼稚園にやってきた。
 一昨日タカシが言っていた、矢印の通りに行くのを試してみる事にした。
 地図には、緑地公園までの矢印に沿った道順を、油性ペンで番号も付けて書き込んである。
 まずは真っ直ぐに行き、一つ目の角を通り過ぎて二つ目の交差点を右に曲がる。
 突き当りの角を右に曲がり、もう一回右折–––さらに右⋯⋯
 ブロックをぐるっと一周したら今度は左だ。
 矢印に従って歩き、中間地点という意味なのか、△印を過ぎた頃、あたりを霧が覆い始めた。
 少し不安になったが、同時にタカシの推測が正しかったようだという、奇妙な安心感が胸に湧いた。
 さらに進むと霧が濃くなり、まだ昼なのに空が灰色に染まった。
 辺りが急に冷えてきて、さっきより不安感が大きくなってきた。
 住宅街には喧騒はなく、ときどき家の窓から微かな光が漏れているが、人の気配は無く、より不安を駆り立ててくる。
 何よりおかしいのは、地図と地形がまったく合わなくなっている事だった。
 郵便ポストや交番などの、目印になる場所にも印を入れていたのだが、それらがあるはずの場所に…無い。
 地図ではせいぜい五十メートルで交差点に差し掛かるはずの道が、何百メートルもの長いものへと変わっている。
 こうなってくると、地図に書いた矢印の番号だけが頼りだった。
 まるで、昔の自分に、引っ込み思案で友達の居なかったあの頃の「僕」に戻ってしまったようだ。
 時間が経つにつれて、弱音が胸に沸き上がってくる。
 先の見えない暗い視界、完全に辺りを包み込む霧、急激に冷えて行く気温は、そのまま僕の体温も奪って行く。
 僕は何処へ向かっているのだろうか、何か取り返しの付かない場所へ足を踏み入れてしまった。
 そんな恐怖心が沸いてきた。
 自分の頬を叩いてなんとか気を持ち直そうと試みたが、一瞬の痛みで思考が切り替わるが、直ぐに霧に塞がれた視界に怯えてしまう。
 不安と寒さは絶えること無く心と身体の体力を奪う。
 印を入れた地図と、霧の不気味な道は何度見返しても合わない。
 僕は何処に立っているんだ。
 視界がにじみ、目から涙が溢れた。
 寒さに震え、無意識で腕を擦り合わせると鳥肌が立っていた。
 寒さだけじゃない……怖い、ここは怖い。
 遂に歩けなくなってしまった。
 霧が僕を包み込むように濃さを増して行く。
 このまま霧に飲み込まれて消えてしまう。
 そう思った、嫌だ、嫌だ、助けて……だれか助けてよ。
 「頑張れ」
 霧しかない場所にそんな声がした。
 「アヤカ?」
 「マナト、頑張って」
 幻聴だ、だってアヤカは僕の事をどうとも思っていないはずだから。
 きっと霧が僕をよくない場所へ引き摺り込もうとしているんだ。
 「来て、マナト」
 「嫌だ、僕は…僕は……」
 怖い、もう嫌だ。帰りたい。
 「最後まで走って、マナト」
 「え?」
 何処かで聞いたような言葉だった。
 「最後まで走ったアヤカカッコよかったよ。
 私はその言葉で救われた。
 そして、最後まで走り続けられる人になろう。最後まで頑張れる人になろうと思ったし、そういう人に憧れた」
 「アヤ……カ?」
 霧の遠くに微かに光が差した。
 「マナト頑張れ!」
 その一言で歩けなくなっていた足が動き出した。
 よろよろと力のない歩みで、だけど確実に一歩一歩前へ進む。
 相変わらず霧が僕を包んでいるし、寒さと怖さで震えが止まらない。
 負けられない!
 もう一度、今度は思いっきり自分の頬を叩いた。
 アヤカの「頑張れ」の声がずっと続いている。
 声は霧の向こうの光から聞こえる。
 俺はその光だけを見て、アヤカの「頑張れ」を支えに歩いた。

 その場所は、両脇に大きな針葉樹が一本ずつ生えていて、来る者を拒むようだった。
 針葉樹からほわっとした光が放たれていて、明らかに雰囲気が変わったこの場所が恐らく〇印の場所だろう。
 地図も見ずにアヤカの声と光だけを頼りに歩いたので不安ではあるが……
 あのコイが居た池は無く、真っ白な地面が広がり、針葉樹の先は、より濃い霧が立ち込めており、その先はなにも見えない。
 不意に目の前の霧が濃さを増し、人の形を作り出した。
 全身白ずくめの和装姿で、顔も白い頭巾で覆われていて、肌の露出が一切ない。
 ちょうど人形劇の人形を操る黒子の服を白くつくりかえた様な感じだ。
 「アヤ?」
 その人は首を横に振ると、
 「ここに人が来るのはいつ以来でしょうか」
 と言った。
 水の中で響くような不思議な声だった。服装からも声からも、性別を推測することができない。
 「あなたも亡き人と言葉を交わすためにこの地へ来たのですね。」
 なんと言えばいいのか迷っていると、白ずくめの人は俺に背を向け、
 「付いてきなさい」
 と告げ、歩き出した。
 僕は慌てて後を追って歩いた。
 白い地面は、白い小石を敷き詰められたものだったようで、歩くたびにジャリジャリと音がしたが、白ずくめの人が歩いても音がしなかった。
 しばらく歩くと、霧の中に小さな小屋が見えてきた。
 「待っていなさい」
 そう告げると、一人で小屋に入っていった。
 そう待たされず、白ずくめの人が出てきた。
 手には一本の蝋燭が握られていた。
 「次の満月の夜、日付の変わる頃に、この蝋燭は火を灯します。
 そして火が消えるまでの間、黄泉と現世を繋ぎ、あなたの思う人と出逢うことが出来ます。」
 そういうと、懐から和紙を取り出し、蝋燭を包み、それを僕に差し出した。
 「この蝋燭は、現世の人間と、黄泉の亡き者をそれぞれ一人しか引き合わせる事が出来ません。
 一度火が消えてしまうと、二度とこの蝋燭に火が灯る事はありません。
 気を付けて下さい。」
 そう言って、和紙に包まれた蝋燭を僕に差し出した。
 それを受け取ろうとして、手が止まった。
 「あなたは迷っていますね。肉親でも恋仲でもない自分に、亡き者と逢う資格があるのか…と。
 もっと言えば、会う事を恐れていますね」
 「僕は…」
 その先が出てこない。僕はどうしたいんだ?
 「少し、失礼します。」
 そういうと、右手の人差し指と中指を俺の額に当てた。
 白い手甲と手袋に包まれた手は、水で出来た手に触れられるような、奇妙な感触がした。
 「この霧の世界では、普通の人間が正気を保つのは非常に困難です。
 黄泉からの知らせを受けた者の多くは、霧に怯え、霧に喰われてしまうのですが、よく耐えましたね。
 それだけで、もう資格は十分にありますよ。
 それに、黄泉からの知らせは、亡き者が真に会いたいと願う者にしか届かない物です。
 霧の道を歩いたとき、感じたでしょう。
 あなたが迷う必要はありません。」
 指先が触れている額から、霧の中で溢れ出た恐怖心が吸い取られていく。
 「私の役割は、黄泉の者が望む相手に道を教え、霧で試し、ここへ辿り着いた者を導く事です。」
 白ずくめの人が指を離す頃には不安や恐怖が一切なく、今はただ会いたいという気持ちが、胸に疼くようになった。
 「あと、これを亡き者から預かっています。
 会う前に読んでおくといいでしょう。
 私はもう行きます、あなたも帰りなさい。
 その針葉の巨木の間を抜けると現世へ帰れますよ。」
 今度は真っ白な封筒を渡された。
 後ろを振り返ると、霧が一直線に晴れ、道が出来ていた。
 「あ、あの」
 小屋と共に霧に溶けようとしている白ずくめの人を呼び止めた。
 こういうとき、なんと言えばいいだろう。
 さっきまで怖さでぐちゃぐちゃだった頭は、今はスッキリしてる。
 それでも、不可思議な現象だらけの状況を今更理解して、別の混乱が頭を襲う。
 だが、それ以上にアヤカに逢いたい。
 それは間違いない、その機会を与えてくれた相手に伝える言葉はこれしか思い浮かばない。
 「ありがとうございます」
 この一言を本気で誰かに伝えたいと思ったのは初めてかも知れない。
 俺はそのまま振り返り、針葉樹の間を通り抜けた。
 出た先は、あの緑地公園の池の前だった。
 ポチャン、と水音がして、足元を見た。
 あの日見た白いコイが泳いでいる。
 気のせいか、前に見たときより少し大きくなっている。
 目があったかと思うとコイは、池の向こう側へと泳ぎ去った。
 俺も反対方向へ歩き出した。

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 初めてあったのは幼稚園。
 大人しい子だなぁって思いながらいつも見てたよ。
 ある日、お隣さんだって気付いてから何となく気になり始めたの。
 みんなで鬼ごっこした日にマナトはずっと鬼で男の子に笑われた事があったね。
 確かにマナトは負けちゃったけど、もっと大切な物、周りの人に優しくするとか、他の人に迷惑を掛けないとかそういう部分では、私も他のどの子もマナトに負けていた。
 その日からどんどん気になって気になって……
 好きになったのは幼稚園最後の運動会の日。
 あの日、マナトがアンカーに決まったときから、私は絶対チームを一位してマナトはカッコいいんだってみんなに見てもらおうと必死に張り切ったのに、転んでビリになって、俯いてこのまま走るのをやめてしまおうと思ったら、マナトが「アヤカ頑張れ!」って声を掛けてくれた。
 その一言で私はもう一度立って走る事が出来た。
 結局ビリになってチームの子に意地悪を言われたときも、その後二人になったときもマナトは私を責めないで、寧ろスゴいって褒めてくれた。
 私本当に嬉しかったんだ。
 その日に私は決めたの。
 一生懸命頑張る人になろう。
 幼稚園児の癖にこれが恋なんだってお母さんに言って笑われちゃったなぁ。
 マナトはあんまり自分の事を話さないから分からないけど、「最後まで一生懸命頑張ったからスゴい」って言ったマナトの言葉は本物だと思った。
 だからマナトが好きなのはそういう子なんだ。
 だったらそうなろうって決めたの。
 小学生になって学年が上がるたびに段々話しにくくなってしまって……でもピアノを一生懸命練習したらまた話せるようになった。
 嬉しかった。
 六年生の三月のあの日からマナトが少しずつ身体を動かすようになって、中学生になってバスケットボール部に入ったときはビックリした。
 運動苦手だったのに、スゴい努力して背も伸びて、スタメン入りも決まって、スゴい、スゴかった。
 私の好きな人はこんなにもカッコいいんだって。胸の中で何回も何回も言ってた。
 話し方も変わったし、私の知らない友達と楽しそうに笑うようにもなったけど、でも夜になったら家の階段で本を読んで、私のピアノを聞いて、朝とか放課後に少しの時間でも一緒にお話しして……そんな時間がとても楽しかった。
 もっともっと色んな話をしたり、一緒にどこかに出かけたり、立ち止まりそうになったり苦しいときに「頑張れ」って言って励ましたり励まされたり、したい事がいっぱいあったのに……ごめんね。
 

 
 好きでした。
 ずっとずーっと前から本当に大好きでした。

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 満月の夜までの間に俺は手紙を書いた。
 なんて書いたかは、秘密だ。

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