あるセミナーに参加させられ窮地を迎えた話


仕事の関係の社員必須のセミナーでも気をつけて頂きたい。
私はバイトの関係で不安と向き合うメンタルケアセミナーに参加し、窮地を迎えていた。

遡ること1時間前、同じセミナーを選んだ当たりのキツい先輩に
「アンタにはこのセミナー絶対必要ないだろ」
などと言われつつも
「私も涙で枕を濡らし眠れぬ夜が来るかもしれないので出ます」
と言い張りセミナーへ向かう道中、毎年春先に現れる半裸オヤジが今年は服を着ているのを目撃した。
いつも半裸なのに今日は体調でも悪いのだろうか……と、不安を抱き横目で通過した。

ややあってセミナーが始まると講師は記入用のプリントを配り
「今不安な事と言われて真っ先に思いついた事を必ず正直に書いてください。そして、思いつく限りの解決方法も書いてください」
と参加者に告げた。

私の頭に先程の半裸のオヤジがよぎった。

書き終えると講師に指された何名かが発表させられるという恐ろしい事態となった。
発表するのならば事前に告知して欲しかった。
参加者の不安を講師がホワイトボードに書き記す中、講師は最後に私を指名した。
私は逃げ場を失い
「毎年春先に現れる半裸のオヤジが、今年は服を着ていたので不安です」
と正直に告げた。
不安の前に「体調が」という言葉が抜けた為にオヤジに生肌で生きる事を強いる手厳しい人間だと誤解された事だろう。
早速涙で枕を濡らす眠れぬ夜が訪れそうである。

ホワイトボードに
「親の介護が不安」
「環境問題が不安」
と、記されている中
「いつも半裸のオヤジが服を着てて不安」
と書き足され、深刻な社会問題の中に突如半裸のオヤジが混ざり込んでしまった。

そもそも春先に現れる半裸のオヤジなど、ヤバめな妖精の類いに近い。
周囲からは「むしろ、服を着だして人間界に適応しだしたなら良かったじゃねえか」という雰囲気すら感じられた。

講師もここで見逃してくれれば良いものの、私にまともな「不安」を求め、二番目に思い浮かんだものは何かと更に問いかけてきた。
しかし半裸オヤジの次にまともな物が思い浮かぶ筈もなく、事実出てきたのは
「近所でいつも果物のバナナを振り回しているジジイのバナナ捌きに最近キレがない」
という碌でもない事であった。
変人から変人が連想されるという負の連想ゲームが、今私と講師を苦しめている。
だがこれについては講師の判断ミスともいえよう。
仮に亜熱帯でラフレシアを見たとして、次にたんぽぽが連想されるだろうか。
今後は1日の始まりには何か綺麗なものを見るように心掛けようと私は決意した。

更に解決策まで発表させられる事となり、私は地獄を見る事となった。
「オヤジの服を剥ぐ」
などと、書いてしまった為、このままでは追い剥ぎとして周囲に認知される事だろう。
前の者が発表している間に別の回答を導き出そうとした結果、苦肉の策として出た答えは
「バナナを渡し半裸オヤジの健康面をサポートをする」
であった。
半裸オヤジとバナナじじいが私の中でコラボを果たした。
「何でおじさんとバナナのお爺さんを引き合わせちゃったの……」
と、講師は言葉を漏らした。
両者の出没地域は対極に位置する為、その存在が交じり合う事はないと伝えようとしたところ

「西の半裸、東のバナナと管轄が違います」

などと言葉を発した為、東西南北に配置された四天王の風格がオヤジ達から滲み出てしまった。

メンタルケアセミナーに行き、私のメンタルは破壊される結果となった。

【追記】
今後セミナーに出る方は、発表するかもしれぬ事を念頭に置いて挑んだ方が良い。 

数日後、オヤジを見かけると半裸に戻っていた。
オヤジはどうやら無事持ち直したようであった。
因みに「バナナじじい」もとい「バナじい」は私が中学生の頃くらいから目撃されている。
近隣ではバナじい不老不死説が囁かれている。
バナナの可能性は底知れない。


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