キャリーバッグに躓き流血したら、となりのオヤジに助けられた話

友人とビールフェスタで待ち合わせをしていたが、遅れるとの事で先に飲む事にした。

グラスを片手に歩き出すと、混んでいた為に外国の女性が引いていたキャリーバッグに気が付かず転倒し、割れたグラスの破片で掌を切り、大量に出血した。

その女性が今にも泣きそうな顔をして何かを必死に話しかけているが、言語の壁に隔たれ必死に謝りこちらを心配している事以外は全く分からない。
とりあえずこちらは日本人で英語が喋れない旨を伝えようとしたのだが

「アイ アム ジャパン」

と、「我こそが日本である」と何かに開眼した発言をしてしまい、血を流しながら血迷い事を発している危ない奴となってしまった。

すぐに、スタッフが来て私は控室のトイレに連れて行かれ傷口を洗った。
血が多く抜けた為か異常に喉が渇き、水をくれとお願いすると

「すぐに……戻ります……!」

と、途中敵に襲われて戻って来なそうなフラグを立ててスタッフはその場を後にした。

待つ時間はおそらくものの数分の事であったと思うが、渇きに加え更に視界までもが暗くなっていき、すぐさま水分を補給せねば危ないと判断した。
背に腹は変えられぬと、私は手洗い場の蛇口の下に顔を入れ、口を開けた。
しかし、その最悪のタイミングでスタッフが水を持って現れた。

スタッフは、髪を乱しへばり付くようにして水道に顔を傾けている血だらけの補水シーンを直視してしまった。
事情を知らぬ者が見たら三日三晩はうなされる事だろう。
映画ならばこの後襲い掛かり、スタッフの体中の水分を吸い尽くすシーンが映るに違いない。

スタッフとの衝撃の再会後、トイレから移動し、休憩室のベットに寝かされると視界は更に暗く狭くなり、不自然な強い眠気が襲ってきた。

このまま眠れば「気絶」になると確信し、私は頭をフル回転させ何でも良いので思考を巡らせ意識を保つ事にした。

その結果「となりのトトロ」の歌の「トトロ」の部分を「オヤジ」に置き換えると大変不穏な歌詞なると気が付いた。
もっと有意義な事を考えろと思われるかもしれないが、必死だった故お許し願いたい。

脳内で歌を再生していると微妙に口に出ていたのかスタッフが

「ご家族もいらしてるんですか?連絡とりますか?」

と、「オヤジ」を「親父」と変換し聞いてきた。
流血し、目が虚ろな人間が「森の中に昔から住んでいて、月夜の夜にオカリナ吹いてるオヤジ」についてうわ言を言い出す様はさぞかし不気味だった事だろう。
しかし、そんなオヤジと連絡が取れたとしても、オカリナを吹き鳴らすだけなので、触らぬ方が無難だろう。

少しすると、友人が駆けつけ合流を果たした。
視界がいよいよ暗くなる前に、スマホで友人の連絡画面を開き、治療にあたってくれたスタッフにお願いして一報入れてもらったのだ。
暫く休むと大分回復したので、友人が付き添ってくれ病院へ向かった。

医師が私の手からガラスの破片を取り除きながら、出血後の状態を訊いてきたので、
意識を失いそうになり、オヤジ置き換えトトロの歌で凌いだが、あのスタッフに月が昇るとオカリナを吹きだすオヤジが身内にいると誤解されていないか心配だと告げた。

医師は手を止め、暫く目頭を抑えたのち

「手元狂うから、変なこと言わないで…」

と、絞り出すように言葉を発した。
訊かれたので答えたまでだが、この世の不条理を体感した。

病院を出る頃には日は沈んでいた。 
オヤジがそろそろオカリナを構える時間帯である。
食事を取る事にし、何が食べたいか聞いてきた友人に、私は失った分の血液を取り戻す為にも、血肉滴る肉を食べたいと話した。
先ほどの恐ろしい補水シーンをから考えると、段々とウィルスに侵され新鮮な肉しか受け付けない体質へと変貌していく過程のようであった。

友人は「沢山食え!」と肉を奢ってくれた。

この友人からすれば、ビールも飲めず、空腹の中病院に付き添った一日となった。

友人が駆けつけてくれた時、ぐったりと横になっている私を見て悪くもないのに
「私が遅れたせいで……」
と、いらぬ責任を感じていた。
友人のせいな訳がない。

その時、なんとなく私はこの友人とは何があっても一生友達だろうなぁと何故か思った。

しかし、こちらは一方的に「一生友人だろう」などと思っていたが、友人からすればとんでもない巻き込み事故にあった一日である。
今だに仲良くしてくれていて、非常に有難い。


【夏に向けて】
これは浮き足立って歩いていた私と、キャリーバッグとの運命的な出会いが招いた物語である。
私が人混みで歩くときは普段以上気をつけねばならない事が分かったように、彼女も人混みでのキャリーバッグの扱いに注意が必要だと、身に染みて学んだ事だろうと思う。

ちなみに「キャリーバッグに躓いて流血した話」というタイトルにしようとしたが、あまりに注意喚起色が強くなりすぎるため、オヤジにタイトル参戦して貰った。

もうすぐ夏休みシーズンに入るので、私はミニストップのハロハロ消費量の限界に挑むので、皆さんは移動の際はこのような事故に気をつけて、思いっきり楽しんだり、休んだりして欲しいと思う。

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