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丘の上の向日葵 全12回 ドラマ感想

脚本  山田太一
演出  清弘誠、高橋一郎
出演者 小林薫、島田陽子、筒井道隆、葉月里緒奈、高畑淳子、大地康雄、
    野村宏伸、竹下景子 他
主題歌 ガース・ブルックス「想い出にゆれて」
放送年 1993年4月11日〜6月27日(全12回)
制作  TBS

 paraviで全話視聴。(TBSの昔のドラマが視聴できるのでめちゃくちゃおすすめです。)あらすじは、家庭を持つ男が突然知らない女に「あなたの子供を産んだ」と告白されて始まる恋愛物語だ。

 人生で一夜しか共にしたことがない女が、その夜の情事で子供を授かり、どこか自分の知らない土地で、自分の子供を育てているのではないか、と僕は恥ずかしながら想像したことがある。だから、僕はこのドラマの第1話を見てドキッとしてしまった。似たようなことを考える人がいるのだと。実は、世の中の男はそんなどうしようもないことを考えているのかもしれないが。

 この物語の主人公である柚原孝平(小林薫)も最初は疑心暗鬼だったが、次第に突然現れた女・矢部芙美(島田陽子)の魅力に惹かれていく。そしてお互いの家庭同士の付き合いとなり、二人が意識しつつもお互いの家庭を壊してはいけないと倫理が働く。最終的に二人が再び情事に及ぶのが第11話で、物語も終盤だ。この焦らし方が、実に見事だと思う。浮気をするのは主人公だけではなく、蓮谷(野村宏伸)・柚原智子(竹下景子)、東郷(大地康雄)・入江(大西智子)と、様々な形を示しているのも面白い。ただ、この物語に大きく深みを与えているのは、子供の存在だろう。孝平の娘・信江(葉月里緒奈)と芙美の息子・肇(筒井道隆)がお互いに惹かれあっていくわけだが、もしかすると兄弟の可能性があるという壁が、お互いを複雑な関係にさせるのだ。それにしても、出演者全員の演技が上手くてびっくりした。葉月里緒奈は新人らしいが、可愛い上に、大人顔負けの演技で見事に孝平の娘を演じていた。

 印象的だった場面は、やっぱり駅の場面。第1話の孝平と芙美が初めて出会う場面や、第9話の二人が電車を見送る場面。ここは、個人的には大好きだった。二人のもどかしい気持ちと駅のホームの映像はぴったりだ。駅は、人との出会いや別れの象徴でもあるから、こういうドラマには欠かせないよなあ。
 このドラマは単純な恋愛ドラマだけではなく、印刷会社の技術者と営業マンの仕事の話でもある。山田太一のドラマの良いところは、単なる恋愛ドラマではなく、社会で生きる人間の弱さや脆さも同様に描くことだ。第4話の孝平が会社の同期である東郷を見直す場面は、その象徴だ。営業マンとして、トップを走ってきた東郷の辛い描写があったからこそ、この場面が活きたと思う。そして、最終話で東郷が孝平に不倫を白状させる場面も良かったな。
 最後に挙げるとすれば、第10話の公園での孝平と老人の会話の場面。芙美に好きだと告白されても、芙美の元へと行けない自分に腹を立てる。老人に40代の頃の恋愛経験を尋ね、恋愛よりも仕事だと言われてしまい、嫌悪感を抱く場面は、山田太一らしさがあって印象的だった。

 山田太一の作品を初めて見たのは、「ありふれた奇跡」だったと思うけれど、それから昔の作品(ふぞろいの林檎たちⅠ・Ⅱ)を見たくらいで数多く見たわけではないが、セリフが特徴的だ。詩的な響きがあったり、ファンタジックなところがあり、かといって、リアリティがないわけではない。セリフを聞いていてどことなく気持ちよくなる瞬間があって、味わい深いのだ。
 このドラマでは、まどみちおの詩が多くセリフの中で使われていた。蓮谷が詩をよむキャラクターとして出るわけだけど、ドラマをファンタジックなものにするためだったのかなと思う。物語の前半では、孝平が会社で銃を乱射したり、会社を休んで温泉に行こうと妄想する描写もあったけれど、これもドラマ全体が暗くなりすぎないための工夫なのだと思う。

 ドラマの結末としては、二人は芙美が街を離れる形で別れるわけだけれど、二人の会話する場面が最終回に欲しかった気もする。最終回で二人が会うシーンはないわけだから。(孝平の想像するシーンでは会うが。)ホテルのシーンが最後になったわけで、孝平にとっては最後になるとは思っていなかったはずだ。芙美は孝平の家庭を壊すことを恐れて、街を離れたわけだけれど、現実としては、なかなかできることではない。そこで最後に出てくるのが、芙美の家に向日葵が二つ並ぶように咲いているシーンだ。タイトルが示す「丘の上の向日葵」である。向日葵には、花言葉として「あなただけを見つめる」「愛慕」「崇拝」「情熱」という意味があるらしい。向日葵は、それぞれ芙美と肇だ。

 総評としては、このドラマの主題歌を毎朝車で聴きながら出勤したくらいのめり込んでしまった作品で、非常に楽しめた。不倫が話題になる世の中だけど、日本のどこかで実在するのではと感じるくらいにリアルなドラマだった。


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