小説「シュレディンガー美少女、西へ!」5

「てい、とう、えーい。」高いんだか低いんだかわからないテンションで、リルシュは魚を捌いていく。「ノイン様、次のページお願いします!」一方のノインは魚の捌き方の図解を開いて彼女の前に示していた。「はいはい。」彼女の多芸さに半ば呆れながらパラリとページをめくる。「ありがとうございます。こうかな?」サクサクと魚を切り刻み、綺麗な身だけが残る。ここは水上城"ピュアリー・キス"の地下港。全てを捌き終えるとリルシュはテクテクとテーブルを離れ、波打ち際に魚の切り屑やら何やらを捨てる。ついでに切り身も海水で綺麗にゆすいだ。「前回の陳情品でバターと小麦粉をもらっていたのでそれで焼いてみますねっ!」彼女はニコニコと笑うと階段を登る。辿り着いた城の裏手の中庭で火を起こす。「さっかな〜♪やっきやき〜♪バターの匂いがふぅんわり〜♪」上機嫌で魚の切り身を焼いていく。彼女の楽しそうな姿に思わずノインもニコニコしてしまう。「いい匂いだね。」「はい♪は、は、ハーブっ!」言いながら彼女は踊るように手元の小瓶からハーブを振りまく。そしてドヤ顔でノインに振り向いた。「えへへ!もうすぐできますよ〜!」ハーブの小瓶を顔脇に抱えてノインに語りかける。出来上がった料理は見事な物だった。ちょうど時間ぴったりに城の入り口の鐘が鳴る。「ご飯、きましたね!」テトテトとその小さな体で城の入り口の脇にある、小さな部屋にリルシュは入っていく。その小部屋は城の外とつながっており、どちらかのドアが開いている間はもう片方のドアは絶対に開かない仕掛けになっている。しばらくするとリルシュは小部屋から台車を押して食堂に向かう。「ノイン様〜はやくはやく〜!私お腹すいてしまった!」ノインは後に続く。「今日はどうかな?」ノインもご馳走を前にワクワクする。しかしこのごはんタイムがなかなかの曲者なのだ。リルシュは台車の上のたくさんのお皿を食卓に並べていく。そして見渡しながら、長いスプーンで小皿に取り分けてノインに渡してくれる。リルシュが取ってくれたものは大丈夫なもの。それ以外の料理は"危険な"ものだ。「このお肉は今日もたっぷりアブナイスパイスがかかっていますね〜。」リルシュはマジマジと観察する。「男の子が食べると、なんか元気になっちゃうやつです。キケン。」彼女はため息をつく。ノインも汗を垂らした。流石は"神降りの儀"と言ったところだろうか。ノインらにとっては二重の意味で危険だ。そう言った感じにデリバリーされた料理を安心できる食材を吟味すると、自然とヘルシーなものに偏ってしまう。「そこでさっきのお魚ですね!」リルシュはコトリとお皿を中央に置いた。美味しそうな匂いが漂ってくる。「いただきましょうか」2人で料理に短く祈りを捧げると、リルシュは魚をお箸で取り分けて小皿とともにノインの顔に近づける。「うふふ、それでは早速。あ〜ん?」ノインは差し出されたお箸に一瞬戸惑い顔を赤くしたが、結局言われるがままに口を開いた。もぐもぐと味わう。絶妙な焼き加減で身はふわりとほぐれ、バターの香りがそれを包み込む。「美味しい。良い焼き加減だね。」思わずニコリと笑う。「えへへ。美味しいお魚を釣ってもらえましたから〜!」リルシュもニコニコと笑った。

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