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酔いどれシェヘラザードの小噺集 #短編小説

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何らかのアルコールを飲みながら、荒唐無稽な話をする男女の物語。 基本的に一話完結。「めでたしめでたし」で終わります。
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記事一覧

Confusion of Taka Tanaka #短編小説

Confusion of Taka Tanaka #短編小説

 スポーツ・バーというものを始めたのは誰なのか。テレビを設置し、何かスポーツの試合を放映して、お酒を提供してさえいれば、そこはスポーツ・バーだ。録画した試合だってかまわない。テーブル・サッカーが置いてあったりすれば、完璧だ。
 もともとは、ただ、スポーツファンの店主が、テレビで試合を観ていたのかもしれない。そこに同じチームのファンたちが集まって、みんなで試合を見るようになったことから、始まったのか

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Somewhere, under the rainbow(後編) #短編小説

Somewhere, under the rainbow(後編) #短編小説

 虹の根元には、金が埋まっている、という。

 この言い伝えは、元々、ある妖精に関するアイルランドのおとぎ話に由来するらしい。妖精が、虹の根元に金の入った壺を隠しているんだそうだ。
 ちなみに、妖精といっても可愛いやつではなく、帽子とコートを着た、ひげ面の小さいおっさんである。靴を作ったり修理をしたりして過ごしているそうだ。
 一方で「虹の根元」には、別の意味もある。虹というものは、見ている人間と

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Somewhere, under the rainbow(前編) #短編小説

Somewhere, under the rainbow(前編) #短編小説

 月並みなことというのは、得てして、正しい。
 家族や友人は大切にする方がいいし、コツコツした努力は実を結ぶことが多いし、部屋は毎日掃除した方がきれいだし、生きていくうえでは、健康が一番だ。

 そして、働いた後のビールは、美味い。
 冷たい風が吹く屋外から暖かい屋内の居酒屋に入ると、体が温まってほっとする。しかし、その体を再び冷やすように、「とりあえず、生で」と言って、冷えた黄金色の液体を頼み、

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A key will  lock you #短編小説

A key will  lock you #短編小説

 「いまから、とても素敵で退屈なラブストーリーを紹介するわ」
 彼女は言った。僕らは、休日の昼下がり、薄暗いカフェでホットワインを飲んでいる。外は良く晴れているが、北風が冷たい。薄着をしていた僕らは、風に追い立てられるようにカフェに入り、甘くてスパイシーなアルコールによって体を温めていた。貴重な11月の日光を浴びずに、薄暗い店で午後を過ごしていると、それだけで怠惰なぜいたくをしている気分になる。

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