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【SPORTSMEN IN TOIN CAMPUS】 古澤 拓也編1


桐蔭横浜大学2年 古澤拓也選手

2018年6月9日。
「車いすバスケットボール国際強化試合」の男子日本代表の大会二日目。
日本は初戦、強豪ドイツチームに勝利し、勢いに乗って第二戦オーストラリアとの試合に臨んだ。


オーストラリアは、前大会の優勝国である。選手たちは体格が良い上に腕も長く、圧倒的な力強さを誇っている。
シュート練習をしている両チームを交互に眺めていた観客席からは、「全然体格が違うじゃないの。こりゃあ、日本は苦戦しそうだな」という声も聞こえてきた。
古澤拓也選手は、この日、ベンチスタート選手だったので、味方を鼓舞するために、ボディアクションを交えながら大声で声援を送っていた。
試合は、オーストラリア勢の体格を生かしたパワープレーに、日本は機動力で対抗するという予想通りの展開になった。
試合開始直後から一進一退の攻防が続く。
タイムが要求され、選手交代のアナウンスが場内に響いて、古澤選手の名前がコールされた。
満を持して古澤拓也が出場すると、大きな拍手と歓声で迎えられた。
屈強な大男たちの中に入ると、彼のスリムな体つきが際立つ。
思わず、大丈夫なのか?と心配になる。もし、クラッシュされたら、かなりのダメージを受けてしまうのではないだろうか。
車いすバスケットでは、クラッシュして転倒という事態がよく起こる。
両サイドから複数の選手にクラッシュされてひっくり返り、身体の上に車いすが乗っかってしまう惨事も起こる。
そんな時は、選手たちだけでなく、観客席からも悲鳴が上がる。
転倒すると、当然の事だが、車いすごと起き上がらなければならない。
敵味方関係なく、選手同士で助け合って起き上がることもあるが、試合中は、自力で起き上がらなければいけないことも多い。
たいていの選手は仰向けにひっくり返ってしまった状態から、まずは体を捻ってうつぶせになる。そして腕立て伏せの状態から、体を反転させて元に戻る。
その様子はまるで、映画「トランスフォーマー」の中で、破壊された自らのボディーを復元させるロボットたちのようだ。
転倒して痛い思いをしている選手たちには申し訳ないが、折り重なるように転倒していた選手たちが次々と起き上がり、またプレーが再開される様子は感動的で、車いすバスケットボールの魅力の一つである。
勢いよくコートに飛び出した古澤は、マンツーマンで巨漢選手に張り付いて、自由にプレーできないように執拗にブロックを繰り返している。
しかし、勢いにまかせてやみくもに突っ込んでいる訳ではない。
不用意に大男たちの密集するゾーンには入っていかない。
戦況を冷静に見極めた上で、クレバーな動きをしている。
視野が広く、少し離れた場所で戦況を確認し、こぼれたボールに素早く反応している。
あるいは、プレー再開に有利なポジションを獲得するために、猛スピードで駈けぬけていく。
つい先ほどまで、ベンチで大きな声を上げて熱く声援を送っていた古澤だが、コートに入った途端に、一転してクールなプレイヤーに変貌している。


競技用車いすにはブレーキが無いので、車いすを停める時にはタイヤに手で触れながら、摩擦力でストップさせなければならない。
古澤はブレーキをかける時に大きく背中を反らせ、全身を使ってより強力な摩擦をかけようとする。
実は背中を大きく反らせるのはフェイクで、停まると見せかけてフェイントで相手を抜いていくプレーも得意としている。
その様子は、まるで、大型車の間を的確なブレーキングやハンドリングですり抜けるように疾走する高性能車を思わせる。
古澤選手は強引なシュートやドリブルはしない代わりに、瞬時に的確な判断をする。彼のパスはカットされることなく通るし、シュートミスもほとんどない。彼の3ポイントシュートは面白いように決まってしまう。
結局、この日、観客たちの不安をよそに、古澤は一度もクラッシュされなかったし、転倒することもなかった。
最後の最後までもつれたこの試合は、接戦の末、日本が勝利した。
また、翌日の決勝戦でも日本が勝利し、「国際強化試合大会」での初優勝を成し遂げた。
古澤拓也は、男子車いすバスケットボール、この大会の日本代表であり、東京オリンピック・パラリンピック2020の期待の星である。
2018年度、他大学から桐蔭横浜大学へ二年次編入してきた。

古澤は何を求めて桐蔭横浜大学にやってきたのだろう。
また、彼はこれまでどのような人生を歩んできたのだろう。
次回以降は、インタビューも交えて彼の思いを明らかにしていきたい。

                                続く
本稿は、桐蔭横浜大学の協力のもと配信しています。後日、桐蔭横浜大学出版会より電子書籍として出版する予定です。

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