見出し画像

【百合小説感想】性悪天才幼馴染との勝負に負けて初体験を全部奪われる話


著者:犬甘あんず イラスト:ねいび

☆どんな作品?
・大嫌い×好きが入り混じる、ぐちゃぐちゃ巨大感情ガールズラブ!
・百合キス特盛! トップクラスでキスの多い百合ラノベかも!?
・「大嫌い」って百合なんだよな・・・

☆こんな人にオススメ!
・女の子が女の子にぐちゃぐちゃな感情をぶつけるシチュが大好きな人
・身長差どころじゃない、体格差百合が好きな人
・傍若無人ヒロインが好きな人

百合度  :高
百合タイプ:幼馴染百合(変化球)

男性キャラ:あり
邪魔度  :低

近くて遠い幼馴染。大嫌いなのに、それでも好きな女。


 大嫌いなのに、好き。女の子が女の子へ相反する思いを抱えて心がぐちゃぐちゃになる、極上の百合ラノベが出ました。主人公・わかば(表紙の左の子)は本作のヒロイン・小牧(表紙の右の子)とは幼馴染。この幼馴染が実にイイ性格をしていまして、クラスのその他大勢には良い子ちゃんな顔をしながらわかばに対してはイジワルやりたい放題の傍若無人な振る舞いをします。「わかばの尊厳は私のものだから」と言いながらキスをしたり服を脱がせたり、きわどいところにキスマークを付けたり。
 どうしてそんなことになっているのか。わかばと小牧は事あるごとに「勝負」をします。テストの点からカラオケの点数、はてはゲーセンのゲームのスコアまで。ありとあらゆることで勝負をして、そしていずれも天才少女の小牧が全勝します。「負けた方が勝った方に尊厳を捧げる」というなんともアレなルールのもと、わかばは小牧にキスやら何やらをされて尊厳を奪われ続ける、というわけです。
 なぜ勝負をするのか。わかばは小牧のことが大嫌いで、なんでも出来る天才少女な彼女のことを真正面から負かしてやりたいと思っているから。だけど全敗。そして尊厳を幼馴染の女に奪われ続けます。ちなみに身長は小牧の方がずっと大きく、わかばはちっちゃいです。高校生で同学年なのに大人と子供くらいの体格差があるので、挿絵の背徳感がなんかすごい。
 主人公がヒロインに抱く感情が「大嫌い」から始まる百合ラノベ。しかも筋金入りで、ちょっとしたイベントが起こったくらいじゃデレそうにない。そのうえ「大嫌い」のはずなのに「好き」という気持ちも同時にある。それは小牧への「大嫌い」と両立するものであり、わかばの中で矛盾なく存在している。大嫌いだけど、好き。複雑な乙女ゴコロがぐちゃぐちゃになるサマを緻密にこれでもかと描き切った、読み応えのある百合ラノベです。

百合キス多め!


 「わかばの尊厳を奪う」シーンでイチバン多いのが小牧とのキスです。ただ百合キスというだけでもテンション爆上げシチュエーションですが、そこに「大嫌いな女とのキス」なる変化球も加わってくるものだからさァ大変。巨大感情が入り混じる極上の百合キスシーンの完成です。しかも、頻度が多い。プロローグからキスシーンですし、ガチめの恋愛百合といい勝負なぐらい、ことあるごとにキスします。お風呂場で、学校で、デート先で。大嫌いな女と何回も唇を重ねる。極上のシチュエーションをこれでもかと楽しめる作品です。

百合としてのジャンルは?


 キスシーンがありますが、ふたりの間にあるのは今のところ恋愛感情とは別の巨大感情といった感じですね。それでも、いつでも恋愛百合(ガールズラブ)に出来るポテンシャルを秘めています。これからの展開で本格的な恋愛百合が始まる可能性は十分にありますね(カクヨムで先の展開を読めば分かるのでしょうが、私は本で読みたいのであえて先は読みません)。あえてジャンルを付けるなら「大嫌いな幼馴染と日常的にキスをする百合ラノベ」でしょうか。ジャンル名が長い。二人は恋人同士ではなく、「嫌い」という感情で繋がる関係なので恋愛関係とは別物、と私は思いました。
 しかし、それが百合ラノベとしてマイナスになっているかというと、否。むしろ百合的においしい関係性といえるでしょう。大嫌いって、百合。本作にしかできない女同士の関係性を見守っていきましょう。
 もちろん先述の通り、これから恋愛百合になる可能性も大いにあります。作品のプロモーションでも「ガールズラブ」と大いに銘打っているので、これで恋愛百合にならなかったらウソでしょう。今後の展開で恋愛百合(ガールズラブ)へ移り行く展開も大いに期待できます。わかばと小牧、ふたりの前途多難な恋路のはじまりを見守っていこうではありませんか。
 百合キス多め、巨大感情が特盛、そんな極上の百合ラノベ。読んで損はさせません。


特設サイト:性悪天才幼馴染との勝負に負けて初体験を全部奪われる話




備考 ※ネタバレあり

 留意点を2つ。
 ひとつ目。本編から2年ほど前、わかばは中学生のころに男の先輩に憧れを抱いていた、という過去エピソードがあります。その先輩と小牧が付き合って、1ヵ月もしないうちに小牧が先輩をこっぴどく捨てた、という顛末です。
 百合好き歴10余年の勘にかけて言いますが、この男の先輩と小牧はキスもしていないです、たぶん。キスなどをしたという描写は一切ないですし。まあ「無かった」という描写も無いわけですが、おそらく性的な接触は一切無いままこの二人は別れているでしょう。
 そしてわかばが男の先輩に憧れを抱いていたという点ですが、わかばがノンケスタートであることが物語に必要な要素となっている、という理由があります。念のために言うとノンケスタートだから物語の中でヘテロ展開があるとか、そういうわけではありません。そこは本編を読んで確かめていただきたいです。百合的な欠点になっているわけではありません。この中学時代のエピソードはわかばが小牧のことを決定的に嫌いになるきっかけとなるエピソードなので、本作に入れるには必然的な要素と言えます。
 ふたつ目。終盤で「わかばがもし、これから先誰かを好きになって、結婚して、子供を産んでも、わかばが最初にキスしたのは私だし、(中略)それを、ずっと忘れないでいてほしい」という小牧視点の地の文があります。
 百合好き歴10余年の勘にかけて言いますが、わかばは小牧以外の人間と結婚しませんし、子供も産みません。
 この一文の文脈としては「小牧のわかばに対する想い」を1巻の最後で明らかにして「あの傍若無人な小牧が、内心ではこんな切ない想いを抱えていたの!?」という読者を驚かせるポイントになっているのだと思います。そして半年で100冊読んだ本好きの勘として言いますが、こういう1巻ラストで明かされる秘密の想いはだいたいが続巻で報われるもの。すなわち、小牧の想いは報われて、どうであれ、わかばと結ばれるでしょう。という私の予想を今のうちに立てておきます。
 ・・・いや、カクヨム連載作品なんだからカクヨムで続きを読めば済む話でしょ、という声が聞こえてきそうですが。私は書籍派なので、書籍版刊行のペースに従って読もうと思います。でも先の展開が気になるし、もしかしたら読むかも。
 以上、2点ほど「ん?」となった点がありましたがよくよく考えればいずれも杞憂だった、というお話でした。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?