強姦致傷罪は性行為に至らなくても成立します

令和電子瓦版というサイトに、本物のレイプ被害者が伊藤詩織さんの言動のおかしな点を指摘する記事が掲載されました。
冒頭部分を引用させていただきます。

令和電子瓦版
2021年2月6日
伊藤詩織さんへ強姦致傷被害者から(前)
松田 隆
https://reiwa-kawaraban.com/society/202100206/
『性暴力被害に遭ったとするジャーナリストの伊藤詩織氏(31)に対し、強姦致傷の被害にあった女性が疑問と怒りの声を上げた。性犯罪被害者にはあり得ない反応・言動をしており意に沿わない性行為をされた人間とは思えないこと、性犯罪被害者の立場を利用するかのような行為は、結果として性犯罪被害者の社会からの理解を阻害するものであることを強調した。前後編に分けてお届けする。

■2010年代初頭の強姦致傷事件

 首都圏に住む40代の木村陽子さん(仮名)は、2010年代初頭に強姦致傷(当時、刑法181条2項、現強制性交等致傷)の被害に遭った。宿泊先で寝ているところに侵入してきた男に下着を脱がされ、性器に指を入れられているところで目が覚めた。

 抵抗すると頭を殴られ、カッターナイフで切りつけられ、性行為を強要された。隙を見て逃げ出そうとして格闘になり、何とか性行為は避けられたが、殴られて頭を4針縫う裂傷を負い、胸部はカッターで切られたために10cm以上の傷が残った(強姦致傷罪は既遂となる)。』

これについて、大学で政治学を教えてらっしゃるインテリ女性からこんなイチャモンが。

青地イザンベール まみ
https://twitter.com/aojimami1/status/1360377573214015488(←削除されたみたいです)
『あと、記事を書いた人は「匿名の証言者」のためにも正確な記述にすべきだ。文中で本人が性行為は免れたと言っているのに、なぜタイトルが「強姦致傷被害者から」なのだ。
午前8:57 · 2021年2月13日·Twitter Web App』

     *     *     *

これは令和電子瓦版の表現『強姦致傷被害者』が正しいのです。
強姦致傷罪は、性行為に至らなくても(つまり強姦の目的を達しなくても)、加害者が被害者に傷を負わせてしまったら成立するのです。

はびきの未来法律事務所
強姦致傷罪での逮捕と処分
2016年8月24日
https://habikino-law.com/blog/694/
『また、強姦「致傷」の場合、姦淫行為が既遂の場合だけでなく、未遂の場合でも成立します。』

だから令和電子瓦版の木村さんの被害は強姦致傷罪なのです。
そして、詩織さんが「Black Box」で描写したような次の出来事も強姦致傷罪に該当するのです。

P50 レイプから逃れてトイレに入ったと主張する詩織さんは……
『トイレに駆け込んで鍵をかけたが、パニックで頭は混乱するばかりだった。バスルームは清潔で大きな鏡があり、そこには何も身につけていない、体のところどころが赤くなり、血も滲んで傷ついた自分の姿が映っていた。』

P51 再びベッドに引きずり戻されレイプされかけたと主張する詩織さんは……
『抵抗できないほどの強い力で体と頭をベッドに押さえつけられ、再び犯されそうになった。(中略)
 体と頭は押さえつけられ、覆い被さられていた状態だったため、息ができなくなり、窒息しそうになった私は、この瞬間、「殺される」と思った。(中略)
 必死に体を硬くし体を丸め、足を閉じて必死で抵抗し続けた。頭を押さえつけていた手が離れ、やっと呼吸ができた。
「痛い。止めて下さい」
 山口氏は、「痛いの?」などと言いながら、無理やり膝をこじ開けようとした。膝の関節がひどく痛んだ。』

P55-56
『都内に借りていた部屋へ戻ると(中略)。
 シャワーを浴びたが、あざや出血している部分もあり、胸はシャワーをあてることもできないほど痛んだ。』

P66
『月曜日、Kの勧める近所の整形外科を訪ねた。ここでも私は医師に、知人にレイプされた、とは言えなかった。「仕事でヘンな体勢になったので。昔、バスケをやっていたから古傷かもしれません」と曖昧に説明した。
凄い衝撃を受けて、膝がズレている。手術は大変なことだし、完治まで長い時間がかかる
 診察した男性の医師は、そう言った。
 痛みが治まらなかったら手術の可能性もあると言われ、その日は電気を当ててもらっただけで治療は終わった。
 それから数ヶ月間、サポーターをはめて過ごすことになった。今でもこの膝が痛む時があり、そのたびに悪夢を思い出す。』

すなわち、
1.意識不明中にレイプされ、体に傷やアザをつけられた
2.避難したトイレから引きずり戻され、膝を大怪我させられたが、2回目のレイプは免れた
・・・という内容です。
どちらも強姦致傷です。

     *     *     *

「Black Box」や民事訴訟では強姦致傷を主張した詩織さんですが、事件当時、高輪署に提出した告訴状の内容は時間不詳の準強姦罪となっています。
(準強姦の典型は、アルコールや薬物等で意識不明状態の女性をレイプすることです)

警察も検察も検察審査会もこの事件を準強姦事件として処理しました。

これについては過去のnoteで書いています。

「Black Box」P51の強姦致傷の描写は致命的失敗
紅而note
2020/07/04
https://note.com/774weco/n/nb7ee59bf7ecf?magazine_key=m7cd024e1209d

     *     *     *

要するに「Black Box」に書かれている強姦致傷の話は嘘なのです。

不思議なのは、なぜ詩織さんは絶対にバレる嘘を書いたのか、ということです。
そして、なぜ「Black Box」編集担当だった文藝春秋の安藤泉さんは、これを通してしまったのでしょうか。

最も説得力のある答えは、詩織さんも安藤泉さんも、強姦致傷罪が性行為の目的を達しなくても成立するということを知らなかったということです。
何しろ、大学で政治学を教えてらっしゃる青地イザンベールまみ先生さえ知らなかったのですから、詩織さんや安藤泉さんに知識が無かったとしても無理はありません。

強姦致傷という字面から想像力を働かせて、「強姦致傷罪は強姦の既遂が要件になっているに違いない」と早合点してしまったのでしょう。
そして、「膝をこじ開けられそうになっても2回目のレイプは免れたのだから、これは強姦致傷にならない」と勘違いしたのではないでしょうか。
(1回目の準強姦の際の体の傷やアザについては「意識不明中のことだから、うやむやになる」とでも考えたのかもしれません)

安藤泉さんも、文藝春秋の資料室に行って、「刑法各論」の専門書を開きさえすれば、強姦致傷罪はレイプが未遂でも成立する上に、強姦罪・準強姦罪より刑が重い、非親告罪であることが分かったはずなのですが。

     *     *     *

ちなみに、詩織さんが高輪署に時間不詳の準強姦を訴えたのか、あるいは「Black Box」にあるような壮絶な強姦致傷の被害を訴えたのかは、公共の利害に関わる非常に重要な論点です。

世の中には「Black Box」の描写を真に受けている人が少なからず存在するのです。
深刻なレイプ被害を受けたのに、「膝を大怪我させられて体中傷だらけにされた詩織さんでさえ警察に冷たくあしらわれたのだから、私が相談に行っても追い返されるだけだ」と思い込んで、泣き寝入りしてしまう女性が出てくるかもしれません。
「Black Box」のデタラメさが、善良な被害者から法による救済の機会を奪ってしまうことになりかねないのです。

だから、「Black Box」の内容が本当か嘘か、公的に確定させなければならないのです。

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文藝春秋の安藤泉さん。アナタ、詩織さんがブラジャーに隠して秘密録音した警察とのやり取りを知っているのでしょ?

BBC Two
Japan's Secret Shame
Shiori Ito: Japan’s attitudes to allegations of sexual violence are locked in the past
https://www.bbc.co.uk/programmes/articles/3z44Njyr5wzm3wbVMGZ7tFr/shiori-ito-japan-s-attitudes-to-allegations-of-sexual-violence-are-locked-in-the-past
『Since then I have set a digital recorder going in my bra just before entering any police station.』
『The recordings that I had collected over two years finally became a book, that published last year - my journalistic training, and the fact that I had recordings of so many conversations meant that the publisher’s lawyers could be satisfied that my account of my treatment after I made the rape allegation was fair and accurate.』

普通に考えれば、担当編集者なんだから、伊藤さんの秘密録音を隈なくチェックしているはずです。
その内容を是非とも公表していただきたいものです。
あるいは、「『Black Box』の内容は、詩織さんが秘密録音した音声ファイルと合致しています。詩織さんは当初から朝5時からの強姦致傷を警察に訴えていました」的なことでも言っていただきたいものです。

他人にはあれだけ「ブラックボックスを開けろ、開けろ」と言っていたのだから、自分たちのブラックボックスも少しは開けてください。

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肝心なことを書き忘れるところでした。

詩織さんが当初、強姦致傷の被害を申告していたのか準強姦のみだったのかで、警察の態度が消極的だったこと、および、逮捕が中止になったことの意味が変わってきます。
詩織さんが訴えている刑法改正についても同様です。

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