最近読んだ本『僕は僕のままで』 タン・フランス

この本はすごく面白かった。パキスタンからイギリスに渡ったイスラム教徒の移民を両親に持ち、そして同性愛者として男性の夫と同性婚をしている『クィア・アイ』のファッション担当、タン・フランス。彼の半生記には二重三重に背負ったマイノリティ属性との葛藤が否応なく顔を出す。だがそれは単純なものではない。イスラム教移民という属性と同性愛者という属性、南アジア系と中東系、複雑に絡みあうそれらが彼の発言ひとつで大きな火種になりかねない、『クィア・アイ』の世界的大成功によって、社会の中で彼の影響力と知名度はそれほど大きくなっている。

だからこの本は、ある意味では薄氷を踏むように繊細に描かれている。でもその一方でやはり、これはとてもアナーキーで自由な、そして毒の利いた半生記でもある。「宗教の問題はこれまでも触れたくなかったし、これからも触れるつもりはない」と念を押しながら、厳格なイスラムコミュニティで親の目をあざむいて同じ南アジア系の少年たちと夜遊びに明け暮れた青春を語る彼の記憶はとても美しい。優しい善意とキツいジョークが共存する彼の英語を訳す、それもフィーリングを生かして訳すのはとても大変な仕事だったと思うのだが、安達眞弓氏(ブルース・スプリングスティーンの自伝『都会で聖者になるのはたいへんだ』の翻訳も素晴らしかった。『ジミ・ヘンドリクスかく語りき』など多くの翻訳を手掛けている方である)の翻訳は、まるで動画で見る彼、タン・フランスの肉声が吹き替えでそのまま聞こえてくるような絶妙の日本語になっている。既成のイメージに固定されず、それでいてしなやかで自由なタン・フランスの人柄、タイトルの通り「NATURALLY」な彼の姿が伝わってくる。『クィア・アイ in Japan』に出演した水原希子さんが帯の推薦文を書いているけど、番組のファンもそれ以外も読む価値のある一冊だと思う。

https://www.youtube.com/watch?v=GEeEJmc9cvM

僕は僕のままで タン・フランス https://www.amazon.co.jp/dp/4087735028/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_pfxWDbSF5SHJ7 @amazonJPさんから

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