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「人気の保育園」が人気の理由は、人気だからだった。

都内某所。待機児童てんこもりの「ザ・保活激戦区」で暮らしている。

わたしもかつて0歳児の息子(かわいい)を抱いて、
連日、思いつく限りあちらこちらの保育園へ見学に行った。

最寄りにあるA園は、この地域でもっとも人気の保育園だ。
園庭が広く、大きな体育館とプールもある。改築したばかりで施設もきれい。
南向きの窓から入り込む日差しがとてもあたたかくて、
息子もこの保育園に通えたらいいなあと思った。

B園は園舎や園庭は狭いけれど、園長がとても親切な方だった。
C園は施設も古いし、生活指導も厳しいみたいだからパスかな。
D園は広くてきれいな建物だけれど、大通りに面しているのが気になる。

毎日毎日、悩んでばかりいた。どこの保育園へ入ればいいのか。
息子も、わたしたち夫婦も心地よくいられるのはどこの園なのか。

結局、「保育を必要とする指数」とやらで、区から息子が入園を許可されたのは、事前に見学に行くことができなかった、いまの保育園だ。

歩いて通える距離ではあるけれど、駅とは反対方向だし、園庭もあまり広くない。
建物の外観も趣味じゃない(?)し、この保育園で大丈夫なのかな?

そんなことを思いながら入園説明会に出かけていったのを覚えている。
だけど、わたしはこの日、この園の園長に完全に惚れ込むことになる。

「みなさまたくさんの保育園を見学してこられたと思います。きっとどこも立派な保育理念を掲げていたことでしょう。けれど、言葉では何とでも言えるのです。その立派な保育理念を実現するために、具体的にどういった保育をしているのか。どういったことが実践されているかこそが重要なのです」

ぎゃふーーーーん!!!!!!

保活なんて体のいいこと言って、わたしは何ひとつ「現実」を見てこなかったんじゃないだろうか。園長の言葉で、完全に目が覚めた。おはよう!リアルワールド!

結果的に、息子もわたしたち夫婦も「当たりくじ」を引いたと思っている。

園長がドヤっただけのことはあって、息子が通うことになった園は、保育士さんのこどもに対する声かけや保育に対する姿勢はもちろん、保護者への対応もすばらしいし、おもちゃのひとつひとつにまでこだわりがあったり、狭い園舎や園庭も工夫をこらして有効に活用している。

結局、どうしようもない「ハード」の部分は、それをうまく利用できるだけの発想をもった「人材」さえいればクリアできる問題なのだ。

とくにこのコロナ禍で、さまざまな保育園でのイベントが中止されるなか、息子の保育園ではすこしでもこどもたちを喜ばせようと、次々にアイデアを出して実行してくれている。
条件や空間が制限されていていも、できることはある。それをちゃんと探して見つけて、そして行動してくれる保育士さんたちには頭が上がらないし、こういう保育士さんたちがいる、ということこそが、この保育園の強みなのだと思う。

だけど実際、「保活」のときに、保育士さんの人となりや、園内の実情、ましてほかの保護者の雰囲気まではチェックできるはずもなくて。
せいぜい見学程度で得られる情報って、「保育理念」を具体的に、どういったかたちで実現しようとしているのかを聞き出すことくらいじゃないかなと思うけれど、それだって「本当のこと」が聞き出せるかどうかはわからない。

息子の入園後、A園にお子さんが入園したママ友に会った。
A園は、あの、地域でもっとも人気とされている保育園だ。

ママ友はA園に不満があるようだった。
紛失物が多いとか、こどもがきつく叱られているみたいだとか、
園庭が広いからと言って散歩に出る回数が少ないとか。

ひとつひとつはささいなことかもしれないけれど、保育園に不満らしい不満を一切抱いたことがなかったわたしには、それなりに衝撃だった。

だけど、そういう不満を並べたあとで、ママ友が言った。

「でもね、うちは人気の園だから。入れてラッキーだったよ。」

ああ、そうか。

このときはじめて、なぜA園が人気の保育園なのかがわかった。

それは「人気の保育園」と呼ばれているからだ。

行列ができている店は、おいしい料理が食べられるのかもしれないと思って、実際のところはわからなくても、自分もその列に並んでみたくなる。
その結果、おいしい料理が食べられれば満足するし、果たして料理がおいしくなかったとしても、他の店でどんな料理が出されているかを知らなければ、「こんなものかな」とか「他の店はもっとおいしくないはずだ」と思い込んで納得してしまうのだろう。

きっと、「保育園」に求めるものはひとによって違う。
料理の味に好みがあるように、同じ保育園に在籍していても、それを気に入る人と気に入らない人がいるのは当然のことだろう。

だから、結局は入園してみなければその保育園が自分たちに合うか合わないかは判断できない。どれだけ保育理念に感銘を受けても、それがどれだけ守られているかどうかを保育園の見学だけで見抜くのは難しい。その結果、わたしたち「親」は、その園の見た目や「人気かどうか」という噂だけで保育園を選ばなければならない。

もちろん「噂」と「実情」がぴったりと一致している素晴らしい保育園もきっとある。
だけど、それと「自分たち」が合うかどうかもまた別の話なのだ。

腑には落ちたけれど、釈然としない。
これはそんなひとつの「保活経験談」。

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