共同生活者の裏切り
【これまでのあらすじ】
わが家の庭に出現した見ず知らずのアオムシ。息子の提案で、突然の共同生活をはじめることに!?虫が大の苦手な母(わたし)は、息子のためにと、アオムシとの同居を受け入れるが、そこに待ち受けていたのは…
(前回のおはなしはこちら↓)
まったく納得いかないんだけど。
共同生活が決まったときは、青々としていて、
モンシロチョウの幼虫かな?って思ったのに。
一夜明けて、飼育ケースを覗いたら、
なぜか昨日とまったく人相(虫相?)の違う、黒いのがいた。
え、だれ?
寄生虫にやられた?何かの病気?って心配したけど、
めちゃくちゃ元気。めちゃくちゃ食べる。
YOU、もしかして、脱皮した?
蛾、じゃん。
絶対、蛾、じゃん。蛾になるやつじゃん。
息子の気に入った子だから、よくしてやったのに!
世話してもらえるとわかった途端、本性現すなんて!
血も涙もない!親の顔が見てみたい(見たくない)!
ああ、こんな古典的詐欺にひっかかるなんて。情けない。
暗い気持ちになっていたら、息子が飼育ケースを覗いて、
「アオムシさん、キャベツ食べてるううう♡」なんて言う。
アオムシじゃねえけどな。
よく見て。青くない、黒い。青黒い。
これ、どうしたらいいの、マジで。マジで。
息子にもちゃんと説明した。
このアオムシはチョウチョにならないよ。蛾になるんだよ、って。
息子、「ふーん」だって。
ふーん、そうなんだーって。
博愛主義者かよ。虫に対しての差別感情がゼロだな。
息子かナウシカかくらいの勢いで虫に対して慈悲深いな。
これ、昨日のおさらいになるけど。
息子が飼育放棄する気がない以上、わたしはそれに従うしかない。
だって、わたしは息子の従順な下僕。わたしに決定権はない。
息子が生まれたあの日、わたしたちの主従関係は決まった。
この家の主人は息子で、彼は「愛」でわたしたちを支配している。
虫がきらいすぎて都会暮らししてるわたしが、
まさか蛾を育てることになるなんて、運命って残酷。
わたし、前世でよっぽどやばいことしちゃったんだ。
そうじゃなきゃ、こんな仕打ち、ひどすぎる。
捨てたい。
幼虫ってだけでもいやなのに、蛾になるなんていやすぎる。
羽化したところできっと何の感慨もないよ。
と言うか、その日を想像するだけで目眩がする。
何を目的に、こいつに餌やり続けるべきなの?
つらい。
息子を産んでから、いまがいちばんつらい。
神はなぜこの試練をわたしに与えたもうた。
虫を飼うのはじめてなんでびっくりしてるんだけど。
まあ、よく食べる。そして、よく排泄する。
憎たらしいくらい、生きることにまっすぐ。
かわいくない、まったくかわいくない。
でも、息子が飼うって言うから。
息子が、わたしの、わたしの大好きな息子が、
息子が!飼うって!言うから!!
地獄だ…と、つぶやきながら、
飼育ケースを掃除して、新しい餌をやる。
これが、隣人の隣人を愛するということか…。
一青窈が歌ってたよね。
「君と君の好きな人が百年続きますように」って。
こ・の・こ・と・な・の・か!!!!
無理して受け入れた共同生活が、さらに苦行となった。
これはもう意地でもちゃんと世話して、立派に羽化させて。
いつか生活に困窮したときにでも、
「あのとき育てていただいだ蛾ですぅ(ぺこり)」って
恩返しをしにきてくれるのを期待するしかない。
それくらいのワンチャンあっていいと思う。いいと思う!
そんでもって、そのときは必ず佐藤健の姿になって登場してほしい。
小脇に札束抱えた佐藤健として、訪れてほしい。
そういう未来が待ってるんだとすれば、
こいつが蛾になろうがモスラになろうが育てていける。
それくらいの妄想させて!じゃなきゃ無理!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?