2022年5月8日 明治安田生命J1リーグ第12節 ガンバ大阪vsヴィッセル神戸 〜Until the Blackout〜
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2022年5月8日 明治安田生命J1リーグ第12節 ガンバ大阪vsヴィッセル神戸 〜Until the Blackout〜

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相手チームの印象

※プレビューに掲載するはずだった文章を再利用しています

・大分で6年もの長期政権を築き、果敢にボールを繋ぐフットボールで多くの名声を得た片野坂氏を招聘したガンバ。心機一転、スタイルの構築とチームの再建に取り組んでいるものの、ここまでは上手く成績に結び付けられていないようです。まぁウチは1つも勝てていないのですが。
・素人目にこの原因を考察してみると、第一に考えつくのはやはりバックラインのスタイルへの適合度です。ポヤトス徳島でボール出しのセンスを発揮した福岡将太が負傷離脱してしまった現状、スタメンに名を連ねるのは三浦,昌子,クォン ギョンウォンら代表キャップ持ちの3人なのですが、ビルドアップへの貢献度の点では見劣りしてしまいます。
・エドゥアルド(結局マリノスへ移籍)や教え子の三竿など、左利きのDFを何とかして確保しようという動き自体は見せていたのですが、どちらも獲得できなかったのは不運でした。代役として獲得されたのが前述のクォンなのですが、ロングフィードの精度はともかく、運ぶドリブルの意識というのはあまり高くなさそうです。
・長期離脱中の東口の代役を務めているGKの一森,石川も高木駿ほどの”蛮勇”を持ち合わせてはいないので、どうしても安全なフィードを選択しがちではあります。ここ数試合を見る限り、一森は簡単にロングボールを蹴るだけでなく、中距離の正確なボールを出せる選手ではありそうなのですが。
・巷で話題になっていた“カタノサッカー”というのは後方からのビルドアップで相手を食いつかせ、作り出した貯金とスペースが尽きないうちに前へと運んでフィニッシュというのがお決まりのパターンであると私は認識しているのですが、現状このようなシーンが見られるのはわずか。十分に貯金とスペースを作り出せないままに後ろでボールを回し、最終的にターゲットマンに放り込んで解決とするのがここ数試合見られた形です。
・パトリックなりレアンドロペレイラなりの高さを使うのは相手ペナルティエリア内のほうが当然好ましいはずなので、その前にリソースを使い切ってしまっているのはあまり良い状況ではありません。
・ルーキーの山見や坂本など、9番の人選に関しては様々なチョイスを試しているガンバではありますが、リーグ戦ではこの2人のどちらかが必ず起用されているのも、ビルドアップの構築に苦しんでいる証左ではないでしょうか。
・大まかにチームとしてのゲームの進め方を見ていくと、大分時代同様に試合をスローテンポにすることは意識をしているように感じます。高い位置からのプレスで能動的に仕掛けることも稀ですし、カウンターマシンを擁してもいない分、前半のうちは打ち合いに持ち込むこともありません。
・理想としているのは、大分時代と同じようにボールを大事にして、後ろから前進を図るフットボール。ですが、各セクションのクオリティの問題でこれが実現できていないのは前述したとおりです。
・後半に交代策などを用いて、一気にゲームをオープンにすることをいとわないのは神戸のミステルとは異なるポイントです。事実、前節の札幌戦は前半のスローテンポな展開とは一変し、ボールが両ゴール間を行き来するハイテンポなゲームになりました。

スタメン


・神戸はスーパーマン・武藤が遂にスタメン復帰し、イニエスタもベンチ入り。ピポーテはACLでも起用された山口,扇原のコンビで、この2人がファーストチョイスになりつつあります。
・就任から様々なシステムを試していた片野坂ガンバですが、ここ数試合で4-4-2に布陣が固まってきているようです。この日は前節から4人を変更。右で起用されていた黒川を定位置の左に戻し、右には本職の柳澤をチョイス。最前線は、パトリックをトップ下的なキャラクターの中村仁郎と組ませます。

試合展開

「入り」を考察する

・試合後のインタビューでロティーナ監督はこのように語っていました。

この試合の入り方は、あまり良くなく、ボールを簡単な形で失ってしまっていました。

・個人的にこの分析は的を得ていると思います。実際、神戸はガンバのプレッシングの前に有効なボール出しを行うことができず、敵陣までスペースと時間の貯金を引き継げていませんでした。
・神戸はACLでも行っていたように、2人のセンターバックが幅を取り、ドブレピボーテが中央に陣取るオーソドックスな形でボール出しをスタートします。ピボーテの2人はあまり列落ちをせずに、あくまでセンターサークルを意識したポジショニングを行っていました。
・それに対し、ガンバは敵陣では人を意識したプレッシングを見せます。幅を取るセンターバックには2トップが比較的広い間隔でマンマーク的に対処し、後ろは人を捕まえてロングフィードを強いるように振る舞います。
・ガンバは札幌戦でも人基調のプレッシングは見せていたのですが、その開始位置を前進させ、よりアグレッシブにプレスを仕掛けていたのが印象的でした。実際、神戸は退場者が出ていない段階でも地上戦でのクリーンなビルドアップは数えるほどで、敵陣へうまく侵入することはできてなかったように思います。
・神戸は唯一フリーの前川からの展開を探ります。ガンバは神戸のセンターバックが持ったところからプレスを起動するので、バックラインではボールを持てないことはない。ですが、数的同数下でも苦にせずボールを運べるようなDFは神戸にいないので、そこから先の展開は封じられていました。

・神戸はピボーテの列落ちを規制しなるべく中央で我慢させていたので、例えば前川がロングフィードを選択したときなどにセカンドボールを回収する役割をある程度は果たせていたように思います。実際、神戸がガンバの1stラインを越えて、自陣への撤退を強いることができたのは大体がダイレクトなビルドアップか、トランジションで相手の陣形が整っていない場合でした。
・ですが、相手を押し込めて後方で時間が与えられたときに、神戸の後方部隊はうまく相手を引き付けて前進を継続することができていませんでした。
・扇原が典型なのですが、彼は2トップの裏で受けられたときなどに、ワンタッチではたくプレーを選択してしまいがちです。例えばこれがサンペールなら、まず前方向へターンしてガンバのピボーテに働きかけながらのドリブルを開始するのですが、扇原にそれを求めるのは酷なのか、GKに戻してしまったり、SBにアバウトに振ったりなどの優位性を放棄してしまうプレーが目立ちました。
・ロティーナの就任以降、ポジショニングの面では明らかに改善がみられる扇原なのですが、ACLならともかくJ1のチーム相手だとこうした余裕のないプレーが見受けられるのは厳しいところです。
・パスリリースを急いてしまっていたのは菊池も同様でした。前半の間、ガンバは左FWのパトリックを右サイドにも広範に動かしてロングフィードの的にしていたので、トランジションなどで神戸がそのボールを回収し、菊池が素早く幅を取れば彼にはある程度のスペースと時間が与えられます。

・ですが、彼はその貯金を有効活用できないまま酒井への早めのリリースを選択してしまうので、酒井は高い位置に上がることができず、結果的にワイドの井上がゴールから遠ざかった位置でボールを受けてしまうことになっていました。
・酒井高徳がこの試合で攻撃面で存在感を放てていなかったのはこれが原因です。これはチームとしてACLから取り組んでいる課題ではあるのですが、この日も有効なアンサーを示すことはできていませんでした。
・左の初瀬もトランジション以外では高い位置へ上がることができていなかったのですが、これは後方の大崎が利き足と逆の左足でのリリースを強いられていたことが大きいです。
・大崎はPA脇に張り出してパスコースを作り出す基本的な動きはさぼらずにこなせていたのですが、対面の中村仁郎の寄せが早く、ドリブルでの持ち上がりは阻止されていました。前述したように、ガンバの攻撃が神戸の左サイドを主体に人数をかけて行われていたことも一因であったかもしれません。
・件の菊池の退場シーンは、前進に苦労し、前川が初めて長いゴールキックを選択したところから始まりました。大迫へのロングフィードはダワンが2度ヘディングではじき返し、裏へ走ったパトとのデュエルに敗北した菊池が1発レッド。
・現地で見ていた限り、菊池はボールにアタックできていたのではないかと思わなくもなかったのですが、VARで下された判断はレッドカード。いずれにせよこのシーンに行きつくまでには、そこまでの30分で神戸がボール出しに苦しんでいたというバックグラウンドがあったことは忘れてはなりません。

緊急対策

・カードトラブルの後、神戸はやむなく調子のよさそうだった汰木を下げ、槙野を投入して4-4‐1へと布陣を変えるのですが、1stラインを削ったことでどうしてもプレスの開始点は下がり、自陣へと押し込まれてしまいます。
・まだピッチに11人の選手がいたころの神戸は、ガンバのクォン・昌子の2セントラルがあまり神戸の2ndラインに働きかけるドリブルを見せないこともあり、2列目4人が狭い間隔を保ちながら、ゲートを斜めに閉じて縦パスをかっさらう守備を見せられていました。
・ですが、前が大迫一人になったことで、ガンバはビルドアップを中央の4人だけで完遂する余地が生まれ、サイドバックがウイングポジションまで上がれるようになります。
・また、11人いたときは大迫,武藤が適宜プレスバックしてピボーテにリリースを強いていたのですが、それができなくなってしまったこともあって、ガンバは中央で余裕を得られるようになる。クォンのポスト直撃シュートが典型ですが、最後の15分ほどはラインを下げた神戸が最後の所で何とか耐え続けるというのが主な展開でした。

確固たる意志に則った再構築

・神戸は後半から井上を左ウイングバックに降ろし、5‐3-1のような形にします。単に後ろの枚数を増やして守りを固くした、という一般的なイメージとは異なって、この変更は保持,非保持面の両方において意図を感じられるものでした。

非保持面

・まず、後ろを5枚にしたことでウイングポジションで張るガンバのサイドバックに対し、神戸のワイドの選手が前に出てプレッシャーをかけられるようになります。酒井も話していましたが、ワイドの所のミスマッチはかなり気にかかっていたようなので、まずはそこを埋めに行きます。
・中盤の3枚は5バックの前でナローな城壁を築くのですが、適宜インテリオールがガンバのドブレピボーテに外側からプレスをかけることで、リリースを促します。また、1トップ脇で受ける選手への対応が定まるのも利点の一つです。
・ガンバは神戸が5-3-1になってもワイドに広げる工夫はあまり行うことなくそのブロックの中にボールをどんどん入れて勝負してくるので、中央をブロックアウトするこの手法はかなり有用でした。また、センターバックの3枚が制空権を握っているので、シンプルなクロスならはじき返せる状況を作り出せていました。
・中央の所でやらせまいとする意図は十分に伝わってきましたし、確かにシュートこそ打たれはしましたが、ドフリーでどうしようもないような場面は数える程だったように思います。

保持面

・サイドバックを高く押し上げられず、幅を作り出せなかった前半の反省を踏まえて、後方を3枚にしてウイングバックを上げ、高い位置でポイントを作っていこうとする意図はうかがえました。
・後半キックオフは右の酒井を前へ走らせてのロングボールから。防戦一方だったラスト10分間からの流れを変えるべく、前への推進力を出したかったのでしょう。
・前述したように、ガンバのハイプレッシングは噛み合わせの良さをシンプルに生かした人基調のものだったので、そこをズラしてしまうことには一定の効果がありました。
・一つ注文をつけるとするなら、リスク軽減という観点からロングフィードを多用したのは理解します。ですが、布陣変更後は多少なりとも後方からボールを運ぶ余地は生まれていたわけで、そこでもう少し地上戦を挑めていればなという思いはあります。
・ガンバは56分という早い段階で切り札のレアンドロ ペレイラを投入し、パトリックとの2トップに移行します。ゴール前までは来れているのだから後は決めるだけというガンバ側の思考もあって当然の考えなのですが、逆に神戸としてはこう考えることもできたのではないでしょうか。
・相手はプレスの起動に難を抱える2人を1stラインに起用してきたわけで、この交代策を逆手にとってさらに前進してしまおうという考え方があってもよかったのかなと思います。監督が変わり、ボールを大事にしてクローズなコントロールを図る方針に立ち戻ったのであれば尚更です。
・結局、神戸の前進は交代で入ってきたカピタン・アンドレスの個人能力に多くを依存する形になってしまいました。「ボールを保持するリスクを嫌うことが逆にリスクになり得る」という学びをぜひとも次からの試合に活かしてほしいものです。

選手起用,ゲームプラン面

・防戦一方では埒が明きません。どこかのタイミングでイニエスタを投入して、相手のエラーを突きたいというゲームプランを実行するなら、彼をどこか守備負担を最小限に抑えられる場所に置く必要があります。
・イニエスタに務まりそうなポジションはせいぜいインテリオールまでとなると、中盤は3枚にしたい。そう考えると、5-3-1という選択にある程度消極的な面があったのは事実だと思います。良し悪しの問題ではないですし、なんなら私個人としては肯定的なのですが。
・実際、後半唯一の枠内シュートはイニエスタのドリブル突破から、クォンのポジショニングエラーを突いた武藤が中央でフリーになったところから生まれました。

失点シーンについて

・1点目のCKに繋がるシーンは、ガンバ陣内でのトランジションから始まりました。中央でイニエスタがボールを失い、齋藤が持ち運んでシウバに広げ、イニエスタの戻りきれない背後のスペースに柳澤が侵入。小林を釣り出して、裏にペレイラを流し込んでCKを得ます。
・イニエスタをインテリオールで使う分、当然トランジション時にこのスペースが空くことは起こりうる事象です。小林はよく我慢してペレイラについて行ったと思いますが、結果は無情にもコーナーキックでした。
・得点シーンは、一度アウトスイングのキックを弾き返したところできちんとラインを上げきっていれば、クォンはオフサイドにできていたかもしれません。初瀬もきちんとシュートブロックに行けていたので、キーパー前川からするとどうしようもないディフレクションでの失点でした。

雑感

・「神戸は”間に合う”のか?」という記事がガンバ戦後にタイムラインを賑わせていましたが、フットボール的な観点から言えば”間に合う”のではないかと思っています。
・ボールを持たない時の動きは徐々に洗練されてきて、コンパクトにゲートを閉じる守備ができるようになってきています。ボール前進はまだまだ改善の余地がありますが、相手のエラーを突ける人材(イニエスタ,武藤,小田)は戦列に戻り始めてきました。
・ですが、内容と結果がいつも比例するとは限らないのがフットボールの難しさです。ここから残留に求められる勝ち点はどう少なく見積もっても30ポイント近く。苦しい状況は続きますが、最後の笛が鳴るまではトライ&エラーを繰り返し、戦い続けるしかないのでしょう。


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