見出し画像

2022.4.25 AFCチャンピオンズリーグ グループJ第4節 チェンライvsヴィッセル神戸〜誰がその鐘を鳴らすのか?〜

ゲームプランの一考察

ロティーナの思考

・勝てばGL突破が手中に収められ、かつ起用できるサブメンバーも限られている状況。これを加味してか、ロティーナは前節からあまり陣容を変えることなく、信用できるレギュラー組を送り出した。
・だが、高温多湿な気候やメンバーの疲労、GLの状況も加味してか、より慎重な姿勢を取っていたのも事実。後半のスコアレスの展開になっても、ゲームをオープンにする方向に舵を切るのではなく、あくまでクローズなコントロールを志向し、いわゆる塩試合も辞さない格好だったと思う。

ゲーム内容

生きるとは変わること?

・3日前の前節は5‐4‐1での撤退を選択したものの、まったくもって強度の感じられない守備の穴を次々と突かれ、文字通りのワンサイドゲームで滅多打ちにされてしまったチェンライ。同じ轍は踏まないとばかりに、この試合では非保持のやり方を変えてきた。
・前述したとおり全く機能していなかった5バック守備をあきらめ、4-4-2へと変更。神戸のウイングが走るスペースを消すことを主眼に、2トップをセンターサークルあたりに置いてブロックを組む守備へと切り替えてきた。
・曲がりなりにも守備の方針がはっきりしたからか、チェンライのブロックは中央でそれなりの強度を出せるようになる。少なくとも、中央でのプレー(Juego interior)を自由に許していた前節の面影は見当たらなかった。
・この変化により、神戸は前節ほどボール保持で相手に困難を突き付けることができなくなった。その理由はいくつか考えられるため、項を移して記そうと思う。

ボール出しがうまくいかなかった複合的な理由


①センターバック
この日センターバックとして起用されたのは、槙野と菊池の超獣コンビ。チェンライの2トップは中央のスペースを消すのが第一任務で、そこまで強いプレスをかけてくるわけではなかった。よって、理論上はセンターバックに時間が与えられていることになる。
・だが、この2人はこの時間的貯金を有効に活用することはできていなかった。槙野はともかく、菊池は運ぶにしても散発的であり、前節見せたようなコンドゥクシオンで酒井を押し上げるようなプレーは数えるほど。これでも前々任監督時代に比べれば、チャレンジする姿勢を見せるようにはなってきたのだが…
・前節の2点目のシーンが示すように、決して技術的に彼が運ぶプレーを不得手としているとは思わない。こういった均衡した試合でこそ、彼の運ぶプレーがチームを救う可能性は十分にあるだろう。

・さて、左に置かれた槙野だが、彼はボールを持てば決して簡単にリリースすることなく、相手に働きかけながらのコンドゥクシオンで局面を前に進めるプレーを再現性をもって披露できている。正直なところ、彼のボール保持への貢献がここまで大きいとは思わなかった。
・この試合の前半、槙野は右のタッチライン際で待つ郷家へのロングボールを選択することがかなり多かった。幅を使う意識というのはリュイスの就任以降強調されてきたものなので、特段違和感はないのだが、他の試合と比較してもサイドチェンジの本数はかなり多かったのではないだろうか。

②ラインを越えられない小林友希
・槙野のこの選択には当然理由がある。この日サイドバックで起用された小林が、うまくボール保持で役割を果たせなかったからだ。
・槙野が運んだ際に、ちょうど前節初瀬が見せたように小林がうまくバックステップを踏めばサイドの高い位置で起点を作り、ボージャンを援護できるようになる。実際、彼がそのプレーに挑戦する姿勢は何度か見えたように思う。
・だが、彼が高い位置に押し上げられても技術的にできることは限られている。ドリブル突破はもってのほかだし、ボージャンを走らせるようなボールを配給することもできていなかった。
・せっかく敵のサイドハーフを越えて、背走を強いる形を作れているのに、そこから相手を動かすことができなかったのは非常にもどかしさを感じた。
・この試合では、左ピボーテの山口を槙野の左脇に落としてまで、小林を上げて、ボージャンを内に入れる前節見せた形を継続していたものの、人選とのミスマッチは否めず。そもそも本職が足りていない状況なので起用自体はやむを得ないし、小林のクオリティを信用した面はあるのだろうが、期待した結果を手に入れることはできなかった。
・結局、ロティーナは後半の早い段階で初瀬への交代を選択。そこから神戸の左サイドが息を吹き返したことを考えると、この決断自体は正しいものであるというべきだろう。

やりたいことはわかるが…

・中央を固められていた神戸はどうしてもその外からのプレーが増える。左サイドは初瀬投入まで機能不全を起こしていたので、攻め手の主体となるのは右へのサイドチェンジからワイドのウイングが受けて、剝がしにかかるプレーだった。
・とはいえ、再三指摘しているように、神戸にはレガテを得意とするウインガーはいないので、例えばワイドで郷家が持ったとしても、そこから対面の相手をやり込めて、決定的なクロスを配給するところまでは至れない。
・こういう点を考えると、サイドを捨て、中央のスペースを消すことに注力したチェンライの選択は理にかなったようだったように思う。最後の所でやらせなければ問題ないだろうという読みが正しいことは、この90分間で証明されてしまった。
・しかし、すべてをウイングの責任にするのは本望ではない。私が言いたいのは、チームとしてバックラインからのボール出しで相手を動かすことができていれば、ウイングの負担も軽減されたのではないかということだ。
・ロティーナやポヤトスの徳島のような極力ゲームをクローズにしたいチームでよくみられる現象だが、チームとしての前進がうまくいかないときに、均衡を破る役目を丸ごとウイングが引き受けることになる。
・三苫や、それこそロティーナセレッソを支えた坂元のような選手がいればそれでもある程度形ができるのかもしれないが、前述したとおり、神戸にそのような選手はひとりもいない。なら、相手を引き付けながら運ぶ意識というのは欠かせない要素になるのではないだろうか。

やむを得ない割り切り

・個人的には、最後までゲームの秩序を崩さない選択をした首脳陣と、そのプランを遂行した選手たちには賛辞を贈りたいと思う。これまでなら我慢できずにブロック内にボールを放り込んで、カウンターを食らっていたような試合展開でも、きっちり最後までディシプリンを保ちながら勝ち点1を確保したことは評さされてもよいのではないのだろうか。
・汰木は試合後に「相手が引いたところを崩す練習はできていない(意訳)」ということを語っていたが、この発言を真に受けると、おそらくこの状況で攻めあぐねることは織り込み済みだったのではないか。そのうえでいかに勝ち点を掠め取るかということを考えると、やむを得ない割り切りであったと言うべきだろう。

・うまくいかない中でもこのようにして勝ち点1を奪えるなら、リーグ戦でもある程度の結果は期待できるはず。武藤やイニエスタら勝ち点1を3に変えられる人材がどの時期で帰ってくるかが、ロティーナ神戸の命運を握っている。