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【そんな重たい責任を】2020年8月23日(日) J1リーグ第12節 浦和レッズvsヴィッセル神戸【持てるかい?】

(浦和の責任って結局なんなんですかね)

スタメン

基本構造

神戸のボール保持

・神戸はピボーテを落とさずに前節同様ひし形を形成してビルドアップを行います。これはツイッターでも散々話していることなのですが、相手が2トップの場合は下手に後ろで数的優位を確保するよりも、2トップの背後でパスコースを形成していたほうが確実に効果的です。
・サンペールのプレーを見ていれば分かりますが、彼がボールを持っているCBから離れるようにしてポジションを取ると、相手のトップの選手がピボーテのコースを消しながらプレスに行くのは難しくなり、CBにボールをドライブさせる余地が生まれます。
・また、神戸の場合は誰かしらがピボーテポジションを取っておく必要があるので、もし本職のピボーテの選手がDFラインに落ちると変わって別のフリーマン(インテリオール)の選手がサポートに加わる必要があります。ガンバ戦などが典型例ですが、そこで前を向ける選手がいないと神戸のボール出しは停滞してしまうことが多いです。
・浦和が前からプレスをかけようと思うなら、まずはひし形を形成するフィールドプレーヤーに同じだけ人を配す必要があります。2トップは2CBを見ればいいとして、ピボーテはミスマッチになってしまうのですが、今回の浦和はCH(柴戸)を前に出してプレスを嵌めにいく機会が多かったです。
・ですが、浦和が恒常的にこの形でのプレスを続けられない理由として、柴戸の背後には神戸のウイングがポジショニングしていることが挙げられます。ラインを崩してまでプレスに行くと1枚になったCH付近から前進されてしまいますし、浦和のSHは神戸のSBを見るタスクを課されている為常に中央付近でカバーするのは難しいです。
・そうしてCHが加勢をしないようになると、浦和の2トップはさらに困難な状況に陥ります。4on2の状況でパスコースを消し続けるのは小川慶治朗選手を2人擁していても困難な作業ですし、ましてやこの日の浦和の2トップはいわゆる犬走りが得意なタイプでもないですし、もしできるとしてもそれをさせるのは得策ではありません。
・というわけで、浦和をミドルゾーンまで撤退させることに成功した神戸。
浦和の組織的守備の特徴は、かなりナローな4-4ブロック。2トップはそこまで引かせずにファストブレイク要員として活用する、(去年までの)長谷川健太氏のFC東京と似たような仕組みのフットボールです。
・浦和ブロックに対して、神戸は定石どおりの形で対抗します。まずは、2トップの脇を使っていくプレー。前述したとおり浦和の2トップは無理が効くタイプではないので、CBの脇にインテリオールらが落ちてこれば捕捉するのが難しいです。
・左サイドの安井は好んでこの動きを行っていましたが、これは右利きの左CBとしてピッチに立っている菊池を援護しながら、初瀬を高い位置に押し上げる意図があったと思います。
・もう1つは、あまり圧縮されていない浦和のFW-MF間のスペースを使うことでした。開幕戦の横浜のように2トップを低い位置まで引かせることを行ってこないので、浦和は8枚で中央の狭いスペースを守っているだけになってしまいます。
・2トップ、レオナルドと武藤はどちらかがプレスバックしてサンペールを消してこなかったので、大外に張るSBへのサイドチェンジがよく決まります。神戸からするとこれはとてもありがたい状況で、彼にボールを届ける為に前線の選手の列落ちやレイオフなどを多用する必要がなくなります。いるべきところにいるべき選手を配置したままにできる理想的なシチュエーションです。
・右の佐々木も、初めてのインテリオールでのプレーでしたが左サイドへのサイドチェンジなどは何度か見られました。小川慶冶朗と被らない低めのポジションを取りながら、一気に前に出て行く迫力のフリーランを披露していました。
・恐らくですが、浦和は神戸のサイドからの攻撃にそこまでプライオリティーを置いてトレーニングを行っていなかったのではないかと推測します。右の西はともかく、左の酒井からハイクロスが決まったシーンはあまりないので、初めから右SHの長澤を落として5バックにする必要はないと踏んでいたのでしょう。
・ですが、この日の神戸の左SBは柏戦でも極上の発射を繰り返していた初瀬。止まったボールを蹴るだけならドンアンドレスより上と一部で噂されているらしい彼への監視は甘く、アイソレーションから好き勝手にクロスを上げられる状況が整っていました。
・所謂"大伍さんアタック”を左から繰り出すなら初瀬が適任だろう、とTwitterには書きましたが、この仮説がおおかた証明されたように思います。
https://twitter.com/David_Rina7/status/1297110619175305217?s=20

ファーストタッチも明らかに改善されていましたし、またぎを多用するレガテ(抜くドリブル)も切れ味鋭かったです。
・クロスを上げないとしても、大外まで深く切り込んでから長澤のいたスペースに侵入するプレーヤーに合わせて斜めのパスを送るのは効いている印象でした。

神戸のボール非保持

・浦和は大掛かりな変形を行わず、4-4-2の範疇でボールを前進させようとします。4-1-4-1で守る神戸からするとこれはプラスな状況で、マーク関係さえある程度守っていれば勝手に前進できなくなるので、あまりボールを持たれるデメリットが見えてきませんでした。
・ソリッドなボール非保持→ファストブレイクに力点を置いているであろうと推測される大槻監督ですが、ボールを持たされると苦しくなっているのは否定できなかったように思います。2トップ化する神戸のインテリオールを引き出すためにCHを落としてみたり絞り気味だった右SBを大きく開かせて怪我明けの古橋を走らせる仕掛けはあってよかった様に思いますが、あまり行われていませんでした。
・結果的に浦和の攻め筋はロングボール攻撃やカウンターが大半を占めていました。いつも通りよく空いている神戸のライン間を取れる機会も何回かあったのですが、そこから効果的な攻めは繰り出せていなかったように思います。
・ですが。未だに日本でも有数のロングフィード能力を持っている西川からの擬似カウンターによる前進は何度か決まっていました。最終ラインの面子的にボール保持に拘りを持っていなさそうな感はあるのですが、整備すれば面白いオプションになる予感があります。

前半

・神戸はまずいつも通りロンドでの情報収集の作業を行います。浦和は5バックか4バックかメンバーを見るだけでは絞りきれないところもあったので、出方を伺うのは必要な手順です。
・一方得点が入るまでの15分間ほどは、浦和がボールを保持する時間が長かったように思います。
・早い段階から何本かクロスを上げていた初瀬の突破から、試合は動きます。相変わらずフリーのサンペールが左右にボールを動かしてから、愛想レーションした初瀬にサイドチェンジ。カバーの遅れた長澤を尻目に、またぎからのクロスをニアの藤本がフリックして山中の前に出た小川がタップイン。神戸が3節続けて先制します。
・得点後は少しオープンな展開になりかけます。
・浦和の先制点はCKをカットされた後のトーマス デンのスーパーなミドルから。トランジション,ライン間での起点創出などで神戸陣内まで進入できるようになっていた時間帯なので、仕方ない面もありました。
・その後はまた神戸がボール保持をする展開に戻っていきます。
・35分には決定的なシーン。運ぶドリブルでCHに働きかけたサンペールからライン間の古橋へ通り、一気に大外の初瀬へ。西を狙ったクロスから折り返しを佐々木が合わせますが、惜しくも枠外でした。
・39分、前川の切り返しから神戸陣内で浦和選手を5人置き去りにして擬似カウンターを発動。その直前に長澤に引っ掛けられた前川ですが、キーパーをボール出しに関与させることのデメリットよりメリットが上回ることを証明しました。

後半

・浦和は橋岡を開かせて、左右対称な陣形にシフトします。最終ラインでは最も配球能力に期待できそうな槙野からのサイドチェンジは何度かありましたが、そこからの崩しは不発でした。
・50分、相変わらず監視が薄い初瀬からブロックの手前で構える古橋に渡り、左足のミドルシュートはポスト直撃。前半と同じような構図のアタックからチャンスを作ります。
・52分には浦和のカウンターを跳ね返して逆に速攻。古橋をCB2枚の脇に走らせて、飛び出したGK西川のファウルを誘います。
・この時間帯は過密日程の影響なのか、このように双方がカウンターを打ち合う展開になります。クローズに試合を進めたい神戸としてはあまり好ましい状況ではありません。
・というわけで、58分に双方とも3枚替え。神戸はこのタイミングでサンペールを下げ(次節以降への温存?)、3バックに変更します。
・ですが、3バックになるとここまでミスマッチとして有効に活用できていたピボーテのポジションが消え、山口,安井のCH2枚が中央に陣取るようになる為あまり効果的な前進ができなくなります。3バック相手なら浦和はSHを前に出してサイドに誘導してから人を捕まえて窒息させるのが容易になりますし、初瀬,西に対してもダブルマーク的に捕まえる志向が明確になります。ワンサイドで捕まえてからは、お得意のファストブレイクを繰り出す機会が徐々に増えていました。
・62分にはロングボールの流れから神戸PA内で前川のミスを誘ってレオナルドにビッグチャンス。ほぼ逝きかけた状態でしたが、大崎の対応で何とか難を逃れます。
・この日の前川はボールが渡れば浦和サポから拍手が起きるほどミスの印象が強い出来になってしまいましたが、やらかしの後も臆することなく”ダイヤチャレンジ"を続けていたのは評価すべきポイントだと思います。
・70分、前がかりになった神戸の隙を突く西川のロングフィードが発動し、完全に裏を取られますが前川,菊池の連続ファインセーブに救われます。ミドルレンジで正確な浮き球を届けるのは飯倉以上の質を持っている前川ですが、このような低くて速い所謂アメフトのようなパスがあれば、さらに幅が広がると思います。
・73分に橋岡と競った初瀬が脚を攣り、代わって数少ない有給を消化していた酒井が入ります。
・決勝点のCKを獲得するまでの流れは、サンペールが抜けてから途絶え気味だった西への配給路が繋がったことが大きかったです。大外で受けたところをHVになって前に出やすくなったダンクレーがサポートし、ドウグラスのヘッドまで持ち込みました。逆サイドへの対応は相変わらず脆さを見せていた浦和なので、同じパターンをトレースすれば点が入ると予想していましたが、そのとおりになったと思います。その後の事故狙いのパワープレーも凌ぎきって、神戸が9年振りに埼スタでの浦和戦に勝利。アウェー無敗を継続しました。