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2022.6.26 明治安田生命J1リーグ第18節 ヴィッセル神戸vs浦和レッズ~忌わしきNervous~

※記事自体は全文無料で読むことができますが、もしよろしければ150円(執筆のお供のコーラ代です)ほど恵んでいただけると幸いです。


スタメン

・神戸は前節の3バックから4バックに戻します。菊池がスタメンを外れ、センターバックは大崎と小林のコンビ。まだコンディションが万全でないらしい大迫がスタメンに名を連ね、武藤が2列目右サイドへスライドします。スタートから武藤をこの位置で試したのは、大本営デイリースポーツ曰く獲得間近のムゴシャ加入後を意識したシフトでもあるのでしょうか。
・浦和はユンカーがスタメンに復帰しますが、やはり状態は思わしくなかったようで開始5分で交代。代わって松尾が入り、左サイドを務めていた明本が1トップに回ります。

試合展開

やる気はある

・同じ年(2017年)に極東の島国へ赴任し、幾多の名勝負を繰り広げてきたリカルド・ロドリゲスとロティーナ。初年度の開幕戦@鳴門から始まったこれまでの対戦成績はロティーナの3勝1敗1分けで、ヴェルディと徳島の指揮官としての間柄では一度も勝利を収められなかったリカルドですが、浦和に栄転した後の去年の清水でのアウェー戦で初めて勝利を収めたというのがここまでのあらすじです。
・お互いにゲームを静的にコントロールする欲求の強い者同士の対戦ということもあって、ディテールの面はまた別の話ですが、ボールを握って"フットボールをする"意志は双方にあったように思います。ゲームコントロール(及びトランジションの回数)と、ボールを握って相手を動かすことの関係性は散々指摘してきたので、よければ過去の記事を参照してください。
・神戸のボール保持から話を進めます。神戸は4バック採用時のいつも通りの形を踏襲し、センターバックが開いて、中央にピボーテが構えるオーソドックスな配置で臨みます。ドブレピボーテの役割分担は、中央寄りで浦和2トップの間に立つ山口と、左側でもう少し高い位置に構える橋本といった感じだったでしょうか。
・対する浦和は1列目を明本と江坂に組ませて、4-4-2でセットします。サイドハーフは基本的に1列目に加勢することは稀で、まずはステイしてドブレピボーテの脇を守っている。ブロックの位置こそ高めですが全体的には待ちの姿勢が強めで、中央を閉めながらサイドに追い込んでくる。こういう点で、Jのチームにありがちな無理やりなハイプレスとは明確に一線を画していました。
・というわけで、初期段階ではそれなりに後ろでボールを持てる神戸なのですが、中央は2トップによってガードされているので簡単にはピボーテをオープンにできません。なので、まずはバックラインの所でボールを運びながら、ズレを作っていく必要があります。

忌わしきnervous

・ですが、やはりというかなんというか、ここで神戸は上手く振舞うことができなくて、なかなか優位性を作ることができません。ディテールの面に言及すると正直きりがないのでツイートを貼っておくのですが、

やはり気になるのはバックラインの所で、例えば大崎はファーストプレーのターン失敗→ユンカーに引っかけられてポスト直撃がかなりこたえたのか、普段見せているようなドリブルで敵1列目に働きかけていくプレーがあまり発現しませんでした。
・これは個人の主観なのですが、神戸のゴール裏およびスタンドというのはビルドアップのミスに対するネガティブな反応がかなり大きくて、こうしたフィードバックも選手をナーバスにする一因かもしれないな、とは最近思ったりしています。まぁこのチームは長年堅守速攻という名の適当に外国人FWに蹴っ飛ばすサッカーをやってきたので、今の試みはなじみのないものなのかもしれませんが。
・後方でオープンな選手がナーバスになってしまって、タッチ数が少なくなればなるほど、周りの選手のポジションを取り直す時間が少なくなってしまいます。具体的に言うと、ライン際まで開ききる前に受けることが多かった山川は苦しい状況でのボールタッチを強いられていて、その影響は前半終了後の神戸のサイド別攻撃率がわずかに10%だったというスタッツにも表れています。
・もちろん、この現象には大崎だけに非があるのではなくて、山川自身も大崎からの速いパスを前向きにコントロールして前を向いたり、右で起用されていた武藤も中に入るだけではなくてワイドに張る動きも使いながら山川を助けられれば良かったかなとは思います。

前川の左足

・右サイドへの供給が滞ったのにはもう少し理由があって、一因としては浦和の2トップのアプローチが前川から見て右側からアプローチをかけていたことが挙げられると思います。怪我をする以前は左足でもSBやインテリオールの選手に高精度のパスをつけられていた前川なのですが、復帰後はどうにもフィッティングが合わないようで、明確な狙いどころになってしまっているように思います。
・こうした点は当然浦和側も頭に入れていて、明本と江坂の2トップは山口への供給路を制限しながら前述した右側からのアプローチを徹底してきます。こうした結果として、前川は小林への短いパスまたは前線への長いフィードを強いられて、段々と攻撃サイドが左側に偏っていっていました。
・せっかく武藤が右におるんやし、そっちに蹴ったらええやんかと思われる方もいたかもしれませんが、そちら側への供給路は遮断されていたので、簡単に右サイドをうかがえない状況でした。5分のシーンが典型例ですが、大畑と武藤の所はかなりパワーに差がありそうだったので、右に蹴らせるとまずいなという共通理解はあったのかもしれません。
・持たされた小林もそこから多少は運ぶ姿勢を見せていましたが、対面の大久保を釣れたのは早い時間帯の数回のみで、彼がステイするようになってからはベン・ホワイトのいうところの"はめパス"を出さざるを得なくなって、酒井や汰木のボールタッチ位置が下がる一因になってしまいました。
冨安にベン・ホワイトがパスしない理由は「鬼才ビエルサの指導」 英紙指摘 (qoly.jp)

・このプレーは厳密にははめパスではないですけど、苦しいボール出しを強いられていた証拠にはなると思います。できるならここで橋本にはボールを隠しながらターンしてほしいですが。

副作用はFatal

・後方で適切なコストを払えなかった場合、付けが回ってくるのは前線の選手です。この日の大迫はひっきりなしに飛んでくるフィードを収めるのに苦労していましたが、個人的には彼の献身というか、厳しい状況下で戦っていたことはもっと知られてもいいのではないかと思います。

・蹴りあう展開になると神戸は陣形を整える時間が作れなくなります。元から準備ができている浦和の後方部隊に対し、神戸は苦し紛れのロングボールのためにセカンドボールでは後手に回っていて、特に中央ゾーンでの再構築には時間がかかっていました。浦和はボールを回収次第いったん広げて、落ち着かせてから大体の場合オープンになっているピボーテに渡し、空いたスペースを使って前進するシーンが数多く見られました。

最大の問題?

・このチームの試合を見てきてかれこれ3カ月くらいになるのですが、継続的なボトルネックになっているのは敵陣でのプレッシングだなという印象を受けます。イニエスタがボールを持てば"El Mago"になるのは紛れもない事実ですが、38歳のベテランに酷暑の日本でプレスに走り回ってもらうのはどう考えても無理があります。かといって外したり、切り札的に使うのができないのもこのチームの難しいところではあるのですが。
・この日は高い位置からプレッシングを始めようとする意志自体はあって、1トップの大迫は主にショルツサイド(岩波に出させる)を切るディレクションでプレスをかけ、イニは行けるときに浦和のピボーテを消す対応で済むように介護プレスを請け負います。サイドに出させたら高めの位置取りをしていたサイドハーフが出てきて内側からCBに当たり、リリースを促します。人数配分的には4-4-2でラインを作って対応するというより、むしろ4-2-1-3的な後ろ6人,前4人の分業的な形だったように思います。
・体力が続く間はこのプレスもそれなりに機能していて、浦和も25分あたりからはゴールキックで岩尾を下げざるを得なくなったりしたのですが、神戸がボールを運べなくなった15分ごろからは非保持をセットしなおすところが難しくなって、徐々にずれが生じてくる。サイドハーフの選手はいつもより1列目っぽい意識が強かった分ピボーテとのチェーン ‐カバーリング関係のことだと思ってもらえれば結構です‐ が切れ気味になっていて、ここをうまく使われて敵の好機に繋がります。
・浦和のピボーテは大迫,イニエスタの監視が及ばないハーフレーンもとい2トップの脇のエリアに落ちる動きを何度か見せていて、これは何を狙っているのかというと、ここで受けることによって神戸のサイドハーフが出てこざるを得なくなることを企図している。汰木や武藤がここに釣られるとその裏に江坂や大久保らを流し込んで、たびたび前進に成功します。
・初めてスタートから右サイドで起用された武藤ですが、ラインを守っての絞りながらの守備はあまりできていなくて、とりわけカバーリングの所は上手くいっていなかったように思います。中盤を5枚とかにしたらカバーができるようになるのかなと考えましたが、その場合も2列目の1枚はイニエスタになるはずなので、かなりかじ取りは難しそうな印象を受けます。

・しかし、浦和も浦和でそこからどうフィニッシュに至るかはあまり見えてこなかったというか、おそらく中央を出口にしたらワイドの所で何らか勝負をしたかったんでしょうけど、SBの背後に誰かが走ったりする仕掛けはなかったので、松尾との1on1を強いられていた山川もまずは前を守ることに専念できていたと思います。実際、抜ききらない松尾のクロスはたいてい大崎らのカバーが間に合って、中央に通る前に引っかけられていました。

割を食う者

・後半の立ち上がりは浦和によるピボーテの脇狙いが強まります。私が集計した限り、岩波が持った際に逆のハーフレーンもとい、汰木が前に出た裏のスペースを突かれることは3,4回ありました。おそらく本人としてはショルツに出たところを狙いたかったのだと思いますが、ここで裏をかかれてしまうことが目立ちました。
・ロティーナも問題意識を持っていたようで、62分に郷家を入れて左で起用し、足を引きづっていた大迫をボージャンと代え、武藤を1トップに回します。郷家は橋本とのチェーンをかなり意識していて、そのおかげで簡単に裏を取られることは減ったのですが、トレードオフとしてその分プレスラインも下がってしまうので、神戸は撤退しての対応を強いられます。

ノーコメントで

・続いての交代はイニエスタ⇔扇原。橋本を1列目に上げたのはもう一度スイッチを入れるためというか、プレスラインを上げるためだったと思いますが、彼をあそこで使うことはピボーテ脇をケアできる人がいなくなるのと同義であって、この日の扇原の出来ではあのスペースを消しきるのが難しかったことを考えると、せめてもう一つ前線orピボーテに選択肢があれば…という思いにさせられてしまいます。
・浦和も神戸陣内まで入れるようにはなったのですが、最終ラインをどう動かすかの所の解決策はないままで、ハーフレーンからの短、いクロスに終始します。中央の1点で合わせられる選手がいるならあれでいいのかもしれないですが、江坂を前に上げておいて放り込むのならあまり効率は良くないように見受けられます。
・モーベルグを入れて外からのアタックに注力するのかと思いきや、言うほど彼が起点のアタックは発現しなかったように思います。交代カードで彼を選べる環境はシンプルに羨ましいのですが。
・FK獲得のシーンは…扇原がボージャンに無理目なパスを出してロストしたところから浦和の攻撃がスタートしているのですが、あの後に流れで中央を守っていたボヤンが平野へのコースを消せなかったのは痛かったです。ゾーン的な観点から言うなら、スイッチした江坂が持った時に山口がもう少し前に立つ対応をして、郷家と扇原でカバーできればよかったかなとは思いますが…ここまで重労働を引き受けてきた山口には厳しい状況だったでしょうか。これ以上のコメントは差し控えさせていただきます。

雑感

・久々に2万人の観衆が詰めかけたノエスタで、ポジティブな姿勢を見せられないままに敗れてしまったことは後悔してもしきれません。じゃあどうすればよかったんやと言われると正直私には思いつかないのですが…
・ボール保持の所が3カ月たってもなかなか上向かないのはマイナス材料なのですが、個人的には

①イニエスタを使うならボールが握りたいけど、バックラインはそれ用のメンバーじゃない
②チームを一人で回せる選手(サンペール)は今季絶望
③イニを使う限りプレスはハマらない
④ウイングがいないので幅が使いづらい
⑤前の選手は全員が中央で活きるタイプ
⑥ウイングバックがいない→3バックを使いづらい
⑦ピボーテから前の交代要員がいない

のは途中赴任の監督にははっきり言ってどうしようもできないよなと思っています。
・既報通り飯野が来れば4と6の問題は少し解決に近づきますが、ムゴシャとイニエスタが最前列で組むとプレスは相当難しくなるはずで、制限をかけられずに互いに殴り合うロティーナ好みとは到底言えない展開が増えることを危惧しています。

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