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「明日、天気になりますか」


友人に、雨が好き、という人がいて良かったと思う。

その友人と遊びに行った。
美術館をゆっくり見て、お昼ご飯を食べ、恵比寿あたりをぶらぶらして、
歩いて渋谷駅に向かっている道中だったと思う。

朝は降っていなかった小雨が降りだした。

初めはまだ雨の日の準備ができていない街の様子を窺うかのように、
次第に人々が足を速め、または傘をさしたいとは思うくらいに。

しばらく歩いていると、私の履いていた黒いPUMAのスニーカーはみるみるうちに重くなってきて、

あ、これ靴下までくるやつだ

と思った時にはすでに、両足とも冷たい雨水にぐっちょり濡れていた。

あー、いやだな。電車乗ってそんで家までこの状態か。

一歩を踏み出すたびに、不快感が増していく。

もう十分すぎるほど分かっているのに、

あなたが履いてるのは濡れた靴です。
あなたは今濡れた足で歩いています。

と何度も聞かされているようだった。

お願いだから乾いた靴で歩かせてくれ、束ねた髪は濡れててもいいから。

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私は雨が嫌いだ。

雨だとできないことが多く感じるから。

傘をさすのに一本腕をとられて、買い物は面倒になる。
雨が降ったら運動会はできないし、遠足にも行きたい。


私は雨の日が怖い。

雨の日は一日中暗くて、逃げ場がない感じがするから。

家の中までどんよりとしているし、ママの声さえ湿っている気がする。
車が雨粒の中を突っ切って走る音には、耳をふさぎたくなる。

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でも、私の友人は雨が好きらしい。

「そういえば、前に、天気の中では雨が好きって言ってたよね。」
雨の中を歩きながら話しかけると、

友人は少し嬉しそうに
「うん」
と答えた。

友人は
「好きな天気って何?雨は好き?」
と私に聞き返した。

お互い、天気の種類といったらほぼ、晴れ、曇り、雨の三択で生きてきた。
この質問の答えも、当たり前のものになるはずだった。

でもその日の私は、自分でもちょっと思いもよらない答えを返した。

「私は多分、今日みたいな雨の日はまあまあ好きなんだと思う。
 雨の降り方と温度が、季節と気温にぴったり合ってる感じ。」

「こういう雨はね、見ていても自分の気持ちと矛盾しないでしょ。」

ほんとは雨が嫌いな理由の方がたくさん思いつくのだけれど、なぜか考え付いてしまったのだ。

雨の日のいいところを。


「でも、めちゃくちゃ暑い日にざあっと降って、それで雨上がりに少しも涼しくならない雨ってほんとに嫌い。何もかもが不一致な感じがする。」

悔しいから、どんな雨が嫌いなのかも付け足した。


この変わった答えに、友人はちょっと感心してくれた。


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「あーしたてんきになあれ」
と、実家のベランダで大中小のサンダルを気ままに蹴っ飛ばしていたのは、いつ頃のことだっただろう。
多分小学生の三年生くらいまではやっていたと思う。

土曜日、上履きを洗ったあと、決まってサンダルをベランダ中に散乱させては、洗濯物を干しに来た母に怒られていた。
「履けるサンダルがないじゃないの、ちゃんと並べときなさい!」と。

私のサンダルはあんまり晴れの予報を出さなかった。

サンダル天気予報は別に「晴れになあれ」とは言っていない。
そんなの屁理屈だ。
「てんきになあれ」ってサンダルを放ったら、夕焼けが見えて。
それで明日は晴れるかなって雲をみつめるんだ。

私はやっぱり、明日雨が降るよりは、晴れる方がいい。
雨の日は素敵な時間、とか微笑みながら言うことなんてできない。

でも、それでいいかな、と思う。

無理して雨を好きにならなくともいい。
明日雨が降っても、それを楽しむ人が思い浮かべばそれでいい。


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