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紡がれる物語【異界/青ノ洞窟】

異世界の景色や現象を閉じ込めた結晶。
形や中に閉じ込められるものは様々で、その数の種類の豊富さはコレクターが存在するほど。
旅立ちの日に故郷の景色を閉じ込めたものを冒険者や騎士がお守りとして持つことも多い。


コレクションしがいがある。人の数だけ、コレクションも存在する。
もちろん、私もコレクションしているわよ?そろそろ、新しいケースを買わないといけないかしら・・・
〈泡沫美月〉


「すみません」
「旅の人?この辺りに来るなんて珍しい」
「この景色を探してるんですが、お心当たりありませんか?」
「いや、この辺りではないねぇ。その景色を探して旅してるのかい?」
「ええ。私の祖母の大切な場所なんです」
「そうかい。見つかるといいねぇ」
「ええ、有り難うございました」
〈翠雪〉


「ししょー!ししょーししょーし・しょ・お!」
「なんだようるせえなぁうちに入る時はもっと静かに」
「見てくださいこれすごい綺麗でしょ?精霊さんから依頼のお礼で貰ったんですよ!」
「話聞けや、ったく。…あ?それ…うわっ」
「?どうしたんですかすごい顔して。なんか知ってるんです?」
「……知ってるも何も、俺が昔魔法で氷漬けにしちまった洞窟の欠片だよ、それ」
「……え、ええぇぇぇ!??」
「一生溶けないくらいの強いやつ使っちまって、あそこを住処にしてた精霊にすげー怒られたからよく覚えてるわ…」
「いやいやいや、どんな魔法…っていうか非常識すぎますって…!!!」「その精霊、なんて言ってた?」
「自分の両親がすごく大切にしてたものだって…もう戻れない懐かしき場所だって…」
「ああ……」
「あの…ししょー、さすがにこれは…」
「なんか、すまんな…今度そいつから依頼来たら少し色つけとくか…」
〈木間 菜つき〉


「まっさかこんな秘境だとはなぁ」
数年をかけてようやく辿り着いた青ノ洞窟。そこはかつての戦友の、思い入れ深い場所であったらしい。
いつか共に行こうと、酒を交わしながらした与太話を知る者は、もう自分しかいない。
「約束は果たしたぜ、相棒」
そう言って男は、懐から取り出した青く輝く結晶を、水面へ静かに沈めた。
そして音もなく水底に触れると、その結晶はゆらりと解け、景色に還っていった。
「さぁて、次は誰ン家にするか」
一番最初に、ここへ来たかった。覚悟を失わないために。
彼の弔いの旅はまだ、始まったばかりなのだ。
〈月岡雨音〉


「俺が思うに青ってのは記録の色だよ」
「は?」
「んで記憶の色は、おかんの腹ん中の赤だと思う」
「……?」
「記録は残したいと願うから残るだろ」
「そうだな」
「あー、要するに、俺はあんたとの旅立ちの日を持ち歩きたかったわけよ」
無骨な相棒は照れたように、美しい青の結晶を光にかざした。
〈東洋 夏〉


海を知らない、
都市に暮らす
幼い少女に託された
青い結晶石。
「いつかきみが大人になって、
まだ僕を覚えていたら」
「この海が見える街で、会おう」
〈りりむ〉


もし、そこの旅の人
申し訳ないが、これを頼まれてくれないか
これは故郷の、満月が最も近づく時にだけ行ける、特別な場所なんだ
家族が持たせてくれたんだ
無事に帰ってこれるようにって
でももう無理だから…
だから、せめてこれだけでも、届けてもらえないだろうか
帰りたいんだ、家族の元へ
〈Fel!z〉

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