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[66]にんじんの切れ端

にんじんの切れ端みつめ「痛いね」と
蛍光灯に透ける君の手


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料理を作りすぎてしまう。
特に野菜は、
もう十分だと感じても更に入れてしまうからだ。
残さず使い切ってしまいたいのだ。

例えばにんじんを切っていて、
三分の一ほど残してもう十分だと思って、
それをラップに包んで冷蔵庫にしまったとする。

後日、
その切れ端を取り出そうと冷蔵庫を開ける。
薄暗い照明の中、
それはてらてらと光るいびつな多角の光と影の
モザイクに包まれて、
ぽつりとトレーに乗っている。
温かみを感じる存在だったはずだが、
まるで閉館時間に沈黙するオブジェのようだ。

そっと手に取ると、ひんやりとした冷気が伝わる。
瑞々しかったその断面は、
少し乾いてカサカサと白け、
組織の違いによって同心円状に
波紋を描くように変形している。

ラップに包まれていたとはいえ、
外気にさらされる準備がなかったその断面は、
傷口のように痛々しい。


そんな風に感じるのだと、
冷蔵庫に眠るそれを見ると、
なにやら痛々しいから使い切ってしまいたいのだと、
そんなバカげたことを感じるのは私だけだろうかと、
少しおどけて話すと、
しみじみと共感してくれる人がいた。

彼女の華奢な指が、
はっとするほどに細く見えた。

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