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証言保存の展示物、 HAGITORI/teshima

豊島(てしま/瀬戸内海)の南西、突端に展示物があります。ふらっと訪ねていける場所ではないので、ガイドブックには掲載されていません。
作品タイトル「HAGITORI-ハギトリ-」は、招聘アーティストが制作したものではありません。1975年から豊島住民が反対運動をしているのに、徐々に堆積された有害産業廃棄物の層です。

原料の提供は、あなたかもしれません。あなたが捨てたゴミがあるかもしれません。

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上記の写真が、作品タイトル「HAGITORI-ハギトリ-」です。
豊島の長老たちが、証言を残すために保存に動きました。

「18mの高さに積まれておった廃棄物に穴を掘って、壁面を作りました。
その壁面へ樹脂糊を吹きつけたんです。
吹きつけて、はりついたものを剥ぎ取った。
ですからこれは剥ぎ取りという標本です。
豊島の産廃そのものです。
剥ぎ取りを作るのに970万円かかりました。
970万の金なかったんです。住民会議に金がのうて
ーそんなもん作らんでもいいやないか
ー作ったってしょうがないだけやないか
という声があったんですけど、これは
ー語り継いでいくためには必要じゃないか
ー原爆ドームとおなしじゃないか
それで作ろうやと言うことになって、一生懸命作りました」

住民運動を率いたリーダーのお一人、砂川三男さんの言葉です。
地球環境基金420万円の助成金と合わせて970万円かけて作りました。豊島住民の手作りの資料館にあります。

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18mの高さの廃棄物、イメージできますか? 5F建てのビルの高さです。この石段は、産廃跡地の全景が見える高台に続いています。どれだけの面積に産廃がうず高く積まれていたのか。94万トンという廃棄物等の総量は、どこから運ばれて、ゴミの山を形成するまでになったのか。

終わった話ではありません。豊島の産廃処理はまだ完結していません。
2019年、トリエンナーレの瀬戸内国際芸術祭で来島者は14万人にものぼり、人口800人を下回る豊島(てしま)は異常な日常でした。アート鑑賞が推奨され、豊島住民の産廃運動は語られる機会が少なくなりました。豊島住民ですら「いつまでも産廃、産廃と言っていたら食えない」と公言してはばからないケースもあります。

豊島を環境と学びの島に、という長老たちの願いをいつも思い返します。
豊島の地形と気候を、農産物でつなぐのはオリーブといちごです。いちご栽培は、豊島の一次産業となるよう助成金を算段して始められました。大人気のいちごスイーツショップには、そんな願いも込められているのです。

新潟水俣病と言わずに、未認定患者さんの暮らしをドキュメンタリー映画にした「阿賀に生きる」。一人ひとりの暮らしがあり、その土地の呼吸を感じるなら、新潟水俣病と一括りにできません。未認定患者さんに寄り添い、その支援を「文化活動」と言う旗野秀人さんに出会い、わたしは豊島事件に置き換えて考えています。

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