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【訳詩】 William Habington, “Nox Nocti Indicat Scientiam”

ウィリアム・ハビントン(1605–54)「夜ハ夜ニ知識ヲ送ル」

原文

    When I survay the bright
       Cœlestiall spheare:
So rich with jewels hung, that night
Doth like an Æthiop bride appeare,

    My soule her wings doth spread
       And heaven-ward flies,
Th’ Almighty’s Mysteries to read
In the large volumes of the skies. 

    For the bright firmament
       Shootes forth no flame
So silent, but is eloquent
In speaking the Creators name.

    No unregarded star
       Contracts its light
Into so small a Charactar,
Remov’d far from our human sight:

    But if we stedfast looke,
       We shall discerne
In it as in some holy booke,
How man may heavenly knowledge learne.

    It tells the Conqueror,
       That farre-stretcht powre
Which his proud dangers traffique for,
Is but the triumph of an houre.

    That from the farthest North;
       Some Nation may
Yet undiscovered issue forth,
And ore his new got conquest sway.

    Some Nation yet shut in
       With hils of ice
May be let out to scourge his sinne
’Till they shall equall him in vice.

    And then they likewise shall
       Their ruine have,
For as your selves your Empires fall,
And every Kingdome hath a grave.

    Thus those Cœlestiall fires,
       Though seeming mute
The fallacie of our desires
And all the pride of life confute.

    For they have watcht since first
       The world had birth:
And found sinne in it selfe accurst,
And nothing permanent on earth.

Source:

Habington, William. Castara. 3rd edition. London: T. Cotes for W. Cooke, 1640; SCT (2nd ed.) 12585. EEBO.

翻訳

 私が輝かしい天球をじっと
  見つめているとき、
宝石を下げて煌びやかになり、夜は、
エチオピアの花嫁の如く見えるほど。

 私の魂は、自らの翼を広げ、
  天へと飛んでゆく。
全能なるあの御方の神秘を、大空の
夥しい数の書物の中から読むために。

 なぜなら、輝かしい天空は、
  光炎を放たないで、
実に静かであるが、創造主の御名を
口にしている点で、雄弁なのだから。

 注目されることのない星は、
  その光を集めては、
実に小さな文字をつくったとしても、
我ら人間の眼からは遠く離れており、

 然れどしっかり見ていれば、
  聖なる書のように、
そこに我らは見出すことができよう、
如何に人が天上の知識を学ぶのかを。

 星は支配者へと伝えている、
  広範囲に及ぶ力を
高慢な権力によって扱ったとしても、
一時ばかりの勝利に過ぎないのだと。

 遥か北の方から、どこかの
  未だ発見されない
国が出陣してきて、新たに手にした
占領地を統治することになるのだと。

 どこかの国は、未だ氷山に
  囲まれてはいるが、
支配者の罪を罰するために解放され、
終には、彼と悪において並ぶのだと。

 それから彼らは同じように
  破滅を味わうのだ、
お前たちの帝国でも没落するように、
全ての王国には墓があるのだからと。

 それ故、あれら天上の炎は、
  無言に見えようが、
我らの欲の欺瞞性の、あらゆる生の
高慢の、誤りを示しておられるのだ。

 初めに世界が誕生して以来
  見下ろし続けては、
罪がそれ自体呪われているのを知り、
地上に不変はないと知っているから。

コメント

夜空に輝く星々は、おそらくいつの時代も人の想像力を刺激してきた。人が生きる歳月よりも遥かに長い時間を送る星に、いわゆる「盛者必衰」を見出すハビントンの詩も、この種の想像力の賜物として読むことができる。が、ラテン語のタイトル “Nox Nocti Indicat Scientiam” が『旧約聖書』から取られたもので、英語では “night unto night sheweth knowledge” (KJV. Ps. 19.2) 、日本語では「夜は夜に知識を送る」(聖書協会共同訳;本記事では英語の本文とラテン語のタイトルとの距離感を翻訳で表現するため、ひらがな部分をカタカナ表記にしてみた)を意味する言葉であることから明白なように、ハビントンの想像力は主に聖書の言葉で基礎づけられている。

第1スタンザで、夜の星は「エチオピアの花嫁」(ここでの「エチオピア」は必ずしも具体的な地名を指さず、広くアフリカ系であることを意味する)が身に付ける宝石の装飾物に喩えられる。この描写が、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』においてロミオがジュリエットを見て「彼女は夜の頬に垂れ下がっているようだ、/まるでエチオピア人の耳に垂れる美しい宝石のよう」(“It seems she hangs upon the cheek of night / As a rich jewel in an Ethiop’s ear” 1.5. lines 45–46)と感嘆したように、その美しさを表現していることは間違いない。[*1] しかし、「詩篇」からタイトルを得たハビントンの詩行は、同時に、『旧約聖書』に記されるシバの女王のエピソードを喚起させ、旧約の世界へと思いを巡らせる契機を提供してもいる。彼の魂が天へと飛翔し、「全能なるあの御方の神秘」を自然の書物に読もうとするのは、したがって、彼自身が聖書の精読から「天上の知識」を得ようとする姿でもある。
[*1] 『ロミオとジュリエット』からの引用は、_The Riverside Shakespeare_ (2nd ed. 1997) による。

とりわけハビントンが向かう先は、「ダニエル書」において預言される、北の王と南の王との争いについての記述である。国同士が争いを繰り返し続ける末に、どの国も滅びていくという物語は、「不変」が存在し得ない地上を見下ろす星を見つめる彼にとって、現世蔑視(contemptus mundi)の感情と共に伝えられたのだろう。この詩人を中心に論じた、おそらく国内では唯一の論文である吉中孝志「ウィリアム・ハビントンのコズミック・エスケイピズム」(『十七世紀英文学における生と死』(2019)に所収)は、「内乱へと突入していく政治、宗教的混乱の状況下で、ハビントンの宇宙規模の逃避主義、いわばコズミック・エスケイピズムは、イデオロギー的な意味合いを帯びていたのかもしれない」(62)として、この詩を含むテクストを同時代の政治・宗教的文脈、文学的伝統、さらには彼の人間関係から論じている。「人は死んだ後、星になるという思想(stellification)」(57)をおそらく持っていた詩人の言葉を——ちょうど詩人が夜空を “survey” (line 1) したように——精読するこの論文は——あたかも詩が「……から」と、理由を表す “For” (line 41) で始まるスタンザで終わるのと呼応するように——次のような結論で終わる:「ハビントンのコズミック・エスケイピズムは、我々の人生が神々の慰み物でしかないという運命論的な虚無感を伝えると共に、星の世界への脱出によって現実の辛さと厳しさに対する慰めを与えることにもなっている。彼もまた、星になれるかもしれないのだから」(65)。

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Jean-François Millet, Starry Night (Wikimedia Commons)

#文学 #英文学 #詩 #英詩 #翻訳

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院生です。主な関心は初期近代(16–17世紀)の英詩。

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