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『ウーマン・トーキング 私たちの選択』~自分たちの未来は自分たちで考え切り拓け!

[c] 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』が面白かった記憶のあるサラ・ポーリー。シビアな現実的な女性目線を持っている印象がある。この映画は、南米ボリビアで実際にあった事件をもとに、2018年に出版されてベストセラーとなったミリアム・トウズの小説が原作。小さな村で多くの女性たちに性被害があった。「悪魔の仕業」「作り話」と噂され否定されてきたことは、村の男たちによる身勝手な欲望による犯罪だった。家畜用鎮静剤を使ったレイプ。そんなことがあり得るのか?女性たちの未来の決断を、舞台劇のように話し合いを積み重ねていく様子が描かれる。

暴力的な男たちは出てこない。その暴力そのものも描かれない。つまり大きなアクションや動きはない。男たちが街へと出かけて不在にしている2日間、性被害があった女たちが集まり、自らの未来を懸けた話し合いを行う。「このまま何もしない」か、「村に残って男たちと戦う」か、「村を出て行く」か、村の女たちの投票が行われる。キリスト教徒の村で、女たちは教育も受け手おらず、文字の読み書きもできない。それでも自分たちが今後どうすべきなのか、真剣に考え、議論をする。

受け身でしかなかった女性たちが主体的に考え行動する第一歩を描いた作品なのだ。文字だけではなく、地図も見たことがなく、方角を知る術も知らない女性たち。倉庫の中で行われる話し合いは、それぞれのキャラクターがぶつかり合い、演劇のような密度の濃い空間になっている。

賛美歌320番「主よみもとに近づかん」は、アニメ『銀河鉄道の夜』でも印象的に使われていたのを思い出した。いい曲だ。この時代設定は、近代以前なのだろうか?と思っていたら、国勢調査の車から「Day dream believer」が流れてきて「えっ?現代の話なの?」と驚く。2010年の社会から隔絶されたキリスト教一派の小さな村の架空の話ということらしい。何も考えないで、世間に従うだけの私たちへの戒めとして描かれたということだろう。男たちなどを描かないで限定した空間だけにしたことで、密度が増した。動かない静的な舞台にしたおかげで、最後の動き(動的な運動)が希望に満ちたものになった。演劇作品としても通用する見応えのある会話劇である。


2022年製作/105分/G/アメリカ
原題:Women Talking
配給:パルコ

監督・脚本:サラ・ポーリー
製作:デデ・ガードナー、ジェレミー・クライナー、フランシス・マクドーマンド
製作総指揮ブラッド・ピット、リン・ルチベッロ=ブランカテッラ、エミリー・ジェイド・フォーリー
原作:ミリアム・トウズ
撮影:リュック・モンテペリエ
美術:ピーター・コスコ
衣装:キータ・アルフレッド
編集:クリストファー・ドナルドソン
音楽:ヒドゥル・グドナドッティル
キャスト:ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ジェシー・バックリー、ジュディス・アイビ、シーラ・マッカーシー、ミシェル・マクラウド、ケイト・ハレット、リブ・マクニール、オーガスト・ウィンター、ベン・ウィショー、フランシス・マクドーマンド、キーラ・グロイオン

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