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青い冬とオレンジ色の春

猛烈なる 青い冬が終わって
オレンジ色の 春が訪れようとしている
道端の雪は溶け
心の中の冷たい塊も 溶けようとしている

変化しないものは 何一つない
全ては流転 流れゆくすべての物事よ

衝突する地点が 好きだ
激しくぶつかり合う 文化や血
鉄や文字

僕は長いことぬくもりを忘れていた
猛烈な 寒さと夏の生ぬるい気だるさの中で
必要な生活と 食料の中で
僕は愛がどのようなものか 忘れていた
忘却の 砂漠の民

生きているという実感は肉体である
生きているという感触はアナログのものである
味であり 匂いであり 肉体の弾力である
いかに 実感を奪うものが多いことか
デジタルが氾濫した街に
肉体が埋もれていく悲しさ

才能とは何であろうか
才能とは物事に価値を与える能力であろうか
確かな才能がそこにあるが
それが埋もれていく世界の非情さ
ああ、悲しみのメロディが胸のなかで流れ始める
逃れられないシステムの中で
あの日の朝 赤い電車のホームで

照りつける太陽の 残酷さは
容赦なく未成熟な痩せた肉体を焼く
あの売春婦は すでに体の売り方を覚えている
あの少女は 兵隊の膝の上にいる
基地の街の音と光が氾濫した店の中で

衝動を抱えた少年は
瓶を片手に 見慣れた夕暮れの町にいた
少年はそれをアスファルトの地面に叩きつけた
瓶は割れて 粉々に砕けて
黒い地面に散らばった
透明な液体の アンバランスな円とともに

僕は今 記憶のなかで旅をしている
様々な記憶が 僕の脳の中で
ぐるぐると回っている
猛烈な冬の寒さと 吹雪のあとの
オレンジ色の淡い質感の 春の訪れの中で


3.8.2022

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