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【Review】2021年J1第21節 横浜FC VS.川崎フロンターレ「ピッチの外まで見えているか」

はじめに

 2021年J1第21節の川崎フロンターレは、2-0で横浜FCに勝利しました。日本代表に招集された5人が不在のため、これまでスタメン出場の少なかった選手やプロ初出場選手もいた中での勝利は、戦力の底上げを図る上で大きな一勝となったでしょう。

 一方の横浜は4選手が新型コロナの陽性判定を受けて試合開催が当日午後まで不透明だったこともあり、少なからずいつも通りの試合ではありませんでした。本来なら万全で挑める試合でしたが、図らずも制限付きのスタメンとなり、苦戦を強いられた一戦でした。

高さゆえに下がりながらのプレーが増えた最終ライン

 横浜の守備の特徴に最終ラインのコントロールの上手さがあります。ラインを高くキープすると長谷川の幻のゴールのように裏のスペースへの進入を許すリスクが高まりますが、この日は上手くコントロールしており、FW小林の動きを制限していました。川崎としては小林の駆け引きでラインを下げさせ、サイドでもう少し楽に前進したかったと思います。
 ただ後半はビハインドだったためにCBの攻撃参加を増え、前がかりな展開になった分、最終ラインが揃わなくなる場面が増えます。特にWBとCBが共に上がって攻撃に厚みを出す分、サイドのスペース管理で後手を踏むことが増加し、2失点目のカウンターはまさにその穴を突かれたシーンでした。

 チームの中心の高橋秀人は攻守ともにリアクションが大きく、良く言えばどこにでも顔を出せる、悪く言えば相手に動かされやすいプレーでした。
 後半の押し込める時間帯だと、自由な攻撃参加は効果的で、さまざまなエリアで数的有利を生み出します。特に前半孤立しがちだったサイドの攻撃に厚みが生まれます。
 一方で押し込まれる展開だと中盤のスペースを空けることがあり、そこを脇坂が度々使います。基本的に高い位置でラインをキープしているものの、高橋の背後でボールを受けられ、前を向かれると裏へのスルーパスをケアするために自陣ゴール前に下がらざるを得ない状況になるため、何度も下がりながらのプレーを強いられる場面がありました。 1失点目は単なるミスに見えますが、伊野波と古宿が半身で下がりながらのプレーを強いられていることがミスの原因の一つだったように思います。

攻撃方向が読みやすいボールの持ち方

 この日の横浜はボール保持時の形が曖昧に見えました。たとえば前進の形ですが、前回対戦時に有効だった松浦のライン間でのボール受けが使えなかったのは痛かったです。代わりの主な選択肢が小川とジャーメインのスピードを活かした前進です。ボール奪取後に逆サイドの裏にボールを運ぶ形はチームとして共有できており、特に初出場のゼインの裏を度々狙っていました。ただジェジエウのカバーリングで切り崩すことは難しく、そこからの打開策が見えにくかったです。

 横浜のボール保持で気になったのが選手のボールの持ち方。体の向きに偏りがあり、トラップの時点でパスを出せる方向が限定されていることが多いです。そのため川崎としては攻撃方向が読みやすく、守りやすかったと思います。
 こういった傾向になる要因は戦術やトレーニングに依る部分が大きいですが、その一つがロングボールの多さです。横浜のボールの運び方の特徴の一つに大きなサイドチェンジがあり、中塩や高橋から逆サイドのフリーな選手に届けるロングパスは効果的でした。ただロングパスは強く蹴るために助走や体の向きの調整が必要な分、トラップ時にある程度プレーを決めておく必要があります。そうしたクセが他のプレーにも影響しているのかもしれません。
 この観点で川崎の選手を見ると、多くのパスコースを確保できるボールの持ち方をしています。対戦相手としては攻撃を読みにくく、かつパスの質を高く保てるので攻撃で好循環が生まれます。この辺りは選手のコメントや、日頃のトレーニング動画を見ても感じます。

ピッチの外まで見えているか

 中村憲剛の引退で気になっていたのがピッチの外まで意識できる選手がいるかどうか。もちろん1サポーターでは実態はわからないですが、ただ登里のコメント冒頭からは、かつての中村に似たものを感じました。この日に限らず試合内容の振り返りコメントからも感じることが多いので、今後ぜひ注目してみてください。

登里「まずは試合が開催されるかどうかという状況で、こうしてサッカーができたことに感謝している。横浜FCの関係者の皆さんは大変な状況だと思うが、重症化しないよう、拡大しないように願っている。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第21節 vs.横浜FC」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/21.html>)

 私見ですが、ピッチの外まで見えている選手はピッチの中も隈なく見えていると思います。そのためピッチの外側まで配慮できているかは一つのバロメータとしています。中村は現役時代はその日のイベント内容を把握したコメントを残していましたが、同様の雰囲気を登里からも感じ、だからこそ試合中も見えているように思います。
 実はこの日の脇坂も同様のコメントを残しており、中村の背中から色々と感じ取っていたのでしょう。横浜GK南の逆を取ったFKなど、試合中冷静に見えているシーンが多かった印象です。今後も俯瞰して余裕のあるプレーができているかに注目していきたいです。

脇坂「試合前に相手チームにコロナの陽性者が出たんですが、選手たちには試合に集中できるような環境を作っていただいた。横浜FC、フロンターレのスタッフの方々の尽力のおかげでゲームができたことを感謝したい。」
(引用元;同上)

経験を次に生かせている

 もう一つ脇坂のコメントを取り上げさせてください。

--相手チームに陽性者が出た中で、怖さはなかったか?
脇坂「昨年もアウェイの鹿島戦で同じようなケースがあったが、試合だけに集中できる環境を作ってくださった。そこに尽きる。開催されたのならば、怖いものはないし、感謝の気持ちを持ってピッチで表現することができたんじゃないかと思います。」
(引用元:同上)

 ここ数年の川崎はさまざまな経験を別な場面に生かすことができているように見えます。今節はコロナ禍で試合開催が不透明な状況での経験が生きましたが、最近だとルヴァン杯決勝での谷口のレッドカードが印象的でしょうか。リーグ戦で一度退場した時に早々にピッチを離れてしまい、再開後の戦術確認をする時間を作れませんでした。その反省からルヴァン杯では審判と会話し、その間に登里に退場後のプランを鬼木監督に確認する時間を確保しました。
 サポーター視点からだとこうした特殊な事例が目立ちますが、選手目線だともっと細かい事例もたくさんあるのだと思います。そうした経験を積み重ねていたからこそ、さまざまな状況に対応できているのでしょう。

 そのため気になることといえば、劣勢や敗北の経験がここ数年は少ないことです。「調子のいいチームは負けると一気に崩れる」みたいな言説がありますが、敗北の経験が久々すぎて対応方法が思い出せないからだと考えています。なので無敗が途切れた時に立て直せるかは少し心配だったりします。

 あとはACLに向けてこれまでの経験が活かせるかは注目です。7度の挑戦でベスト8が最高で、直近の2大会はグループリーグ敗退に終わっています。選手はもちろん、クラブとしても反省の蓄積がそろそろ十分に溜まってきたところな気もするので、今年こそは期待しても良いのではないでしょうか(と毎度言っている気もする)。

おわりに

 初出場選手がいた中で、多くスタメン出場してきた選手が土台を作った試合だったと思います。特に今年加入にもかかわらず、シミッチは屋台骨の雰囲気があります。またキックオフ後すぐにゼインにパスを出す姿には、かつての中村憲剛と同じ気配りを感じました。(真相は下のツイートのようです。違いました笑)

 これでリーグ戦は7/17(土)の清水戦まで小休止。天皇杯を挟んで、いよいよACLの挑戦が始まります。コロナ禍での短期集中開催で負担が大きいとは思いますが、勝って周りの雑音をかき消して欲しいところです。

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