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【書評】「あたりまえ色眼鏡の度、合ってますか?」(松村圭一郎,中川理,石井美保編『文化人類学の思考法』世界思想社,2019)

 私たちは「あたりまえ」の色眼鏡で世界にフィルターをかけて情報を得ている。その眼鏡の度が合ってないなと思ったあなたに勧めたい一冊。

思考に奥行きをもたらす「近さ」と「遠さ」

「本書のねらいは「近さ」と「遠さ」の行き来をとおして、読者が自分にとってのあたりまえの世界を見なおす思考の道具をつくる、その手助けをすることだ。」(p.10)

 観察対象との「近さ」は文化人類学の特徴で、エスノグラフィー(共に生活することで対象を理解する手法)のようにできる限り近づくことで集団を理解しようとする。一方で現代の戦争を理解するために東アフリカの牧畜民社会での戦いと比較するように、比較対象の「遠さ」も特徴である。
 この奥行き、懐の深さが文化人類学の心地良さだろう。特に比較対象の「遠さ」は時間軸が長いことも意味し、現代ビジネスのスピード感に疲れた人にほっとひと息させてくれる。自分がいかに目の前しか見えていなかったのかを教えてくれる。

比較するってけっこう難しい

「あの人たちと私たちは違う。でも、どう違うのだろうか?その差異の感覚をことばにするのは、じつはけっこう難しい。その両者を並べて比べればその違いがすぐに見えてくるわけではない。むしろ安易な比較は、私たちの自己像を守るためだったり、彼らとのわかりやすい差異を際立たせたりするだけで終わってしまう。そこにあるはずに共通性や普遍性を見逃してしまうかもしれない。本来、比較すべきなのは別な何かかもしれない。」(p.6)

 比較するってけっこう難しい。ビジネスでも結果的に自社の良い部分を取り上げているのもあれば、良いものしか見えてないんだろうなと思うのもある。比較する時も「あたりまえ」の色眼鏡が邪魔してくる。
 何かを比べる時、私たちはたいてい境界線を引く。その線引きが「あたりまえ」を作っていく。私たちは誰かが作った線に従って考えている。であれば線を引くプロセスを考えてみたら??と実践してきたのが文化人類学者だ。
 たとえば本書では「芸術品/生活道具」の線引きはなんなのかを取り上げている。美術館に収蔵されているかどうかなのか。それとも美しいかどうかなのか。ただ答えはない。どんどん問いを掘り進めていく感覚を体感できるだけだ。その不思議な感覚をぜひ感じて欲しい。


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