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【Review】2021年J1第13節 ガンバ大阪VS.川崎フロンターレ「『アウェイで賞』は車屋で決まり」

はじめに

 2021年J1第13節の川崎フロンターレは、2-0でガンバ大阪に勝利しました。これで開幕15試合無敗をキープ。またガンバ大阪との通算対戦成績を五分としたことで、現在のJ1チームで負け越しているチームがなくなりました。Jリーグ全体で見れば、アルビレックス新潟にのみ1試合負け越しています。

 対するガンバ大阪は今季4敗目。ここまで2ゴールの攻撃陣がこの日も爆発はせず。クラスター発生による日程変更の影響が尾を引いているのかもしれません。

車屋に設定した奪いどころ

 大阪の守備で特徴的だったのが中盤3人の横の連携。川崎のボール保持時は彼らは横近くに並ぶことで選手間のパスコースを塞ぎながらプレッシャーをかけていました。そのため最終ラインから直接IH、もしくはダミアンへのグラウンダーのパスが通りにくかったです。

 他方でシミッチへのマークは名古屋ほど厳しくなく、1トップのペレイラと中盤で分担しながら見る形でした。これにより前半のシミッチは彼らのマークを掻い潜るため様々に試行錯誤していたように見えます。しかし大きくポジションをずらすことがあり、ボールを奪われた際の位置が悪く、即時奪回が機能しないシーンもありました。
 ガンバは車屋にボールが渡ったタイミングを一つの守備スイッチにしていました。ガンバ側から見て左サイドから追い込み、右の車屋にパスが出たタイミングで、右サイドの一美がプレスをかけるのが一つのパターンでした。多少遅れてもプレスをかけていたことから、ガンバとして車屋の位置で挟撃することは大きな狙いだったと思います。ただし後述しますが、車屋の臨機応変なプレーでこの狙いは外されてしまいます。

 もう一つガンバの守備で気になったのは、右CB三浦と右SB佐藤の間のスペースです。三浦はゴール前から大きく離れない一方で、佐藤は対面の相手に対して厳しく当たりにいくため、彼らの間にスペースができることが多かったです。
 もちろんそのスペースに走り込まれた際にはボランチがカバーに入る設計にはなっていましたが、相手が侵入しない限り空いたままです。そのためシンプルに佐藤がかわされた時には相手に広大なスペースを与えてしまい、三浦の対応も後手を踏むことになります。実際に2失点ともに佐藤がかわされ、三浦のカバーが遠く相手に先手を許していたことでゴール前まで運ばれています。
 とはいえ中央にはダミアンがいますし、そもそも東口・三浦・昌子でゴール前を固めることで堅守を成立させている側面もあるので、難しい問題だと思います。逆に言うと、この2択を強制的に突きつけられるのが川崎の強みでもあります。

左サイドに光明

 大阪はボール奪取後はペレイラに一旦預けて時間を作ることで攻撃態勢を整えることを図ります。その際の特徴がペレイラがあまりボールサイドに寄らず、中央に位置することが多いことです。サイドの選手にスペースを与えたい、もしくは中盤3人との距離を縮めたいあたりが理由に考えられるでしょう。
 しかしこの試合では川崎のCBに挟まれて奪われるシーンが多かったように思います。その理由の一つとして、車屋がファーストディフェンダーの場合は一発で奪い取りに行かず、トラップさせた後にジェジエウ、もしくはシミッチのいる方向に誘導するように体を当てていたからです。こうしたことから、大阪はボール奪取後にカウンターに転じる場面を多く作れません。

 光明だったのは左サイドで、特に黒川が前線に上がれた時はチャンスでした。彼のスピードはもちろんですが、正確で速いクロスは決定機を生み出し、川崎ゴールに迫る場面を演出していました。
 ただしそのクロスの先が1トップに限られていたため、川崎としては守りやすかったと思います。大阪としてはクロスの時に、倉田や井手口がニアのスペースに飛び込むなどによって、川崎の守備を分散させた方がゴールの確率は高まったように思います。

ガンバの狙いを外した車屋

 今節の「アウェイで賞」は車屋でしたが、最後方からチームを支えており、相応しい評価だと思います。鬼木監督も述べていたように、車屋の起用は谷口の疲労を考慮した部分もあるでしょうが、対大阪を見据えての適材適所の采配だったように感じます。

- 先発メンバーを何人か入れ替えましたが、疲労の部分とガンバさん対策、どちらの比重が大きかったのでしょうか?
鬼木監督「両方あると思っていただいて良いです。一つは、名古屋のところで同じスタメンが連続していました。[…略…]あとは、日頃のトレーニングの中で新しく出た3人は常に良いパフォーマンスをしてくれていました。そこは勝ち取りながらやってくれましたし、良いパフォーマンスをしたと思います。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第13節 vs.ガンバ大阪」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/13.html>)

 この日の車屋は最終ラインでボールの奪いどころとして狙われていました。車屋が右サイドからパスを受ける時、死角から一美がプレスをかけてボール奪取を狙います。

車屋「前半から一美選手が遠い距離からもプレスに来ていた印象があるので、その矢印を利用した。シンプルに、レオ(旗手怜央)やタツヤ(長谷川竜也)だったり、幅を使って攻撃する。あとは外から巻くようなボールを供給するのは意識していた。外から来るならそうやって、中で自分に運んで行こうと意識していた。」
(引用元:同上) 

 車屋がプレスに対して2パターンで対応します。一つが一美の裏にいる旗手や長谷川にボールを届けるプレーです。一美はカバーシャドウ(背中にいる相手へのパスコースを切りながらかけるプレス)で寄せますが、車屋は左利きのメリットを活かし、外から巻くボールによって左サイドのボールを供給します。これは右利きの谷口だと難しいプレーです。
 もう一つが自ら縦にドリブルしてパスコースを作るプレーです。一美は横方向で寄せることが多かったため、車屋は少し縦に運ぶことでその矢印を無効化することができました。大阪としては一美のプレスで車屋のパスコースを限定し奪うことを狙っていたため、ドリブルに対しては寄せがワンテンポ遅れます。そのため車屋は余裕を持ってIHや逆サイドにボールを展開することができました。

 この試合、大阪としては右SBに本職ではなく佐藤を起用しており、できるだけ右から攻撃される時間を減らそうと考えていたように思います。そのために一美に守備のスイッチを入れさせ、右サイドにボールを運ばせないようにさせていたと考えられます。
 そして鬼木監督は大阪のそうした狙いを読み、車屋を起用していたのかもしれません。もちろん谷口でもプレスを掻い潜ることはできると思いますが、車屋の方が独力でできる範囲が多いように感じます。その意味で疲労だけでなく、対大阪を見据えたスタメン起用だったのでしょう。

おわりに

 前節から入れ替わりでスタメン起用された選手が活躍し、チームとして勢いのつく勝利になったと思います。また終盤は巧妙に時間を使って逃げ切るなど、「鹿島る」プレーが染み付いてきています。

 次節は中3日で迎えるホーム仙台戦。Jリーグ記録の21試合無敗がかかったホームゲームとなりますが、いつも通り「一戦必勝」の気持ちで勝利を掴んでほしいです。


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