見出し画像

【小説】フラッシュバックデイズ 7話

この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。

7話 大型レイブフェス 後編

俺はミラーボールを背に、芯の入っていないぐにゃぐにゃの身体をなんとかまっすぐ歩かせていた。ミラーボールは危険だ。振り返ってはいけないような気がした。
相変わらず地面が柔らかい。
目に入る出展ブースの光や照明が歩くスピードに合わせて線を引く。
強烈な効きだ。
たまらず立ち止まり、「今、俺だいぶヤバいっす」
「知ってる、さっき連れていかれそうになってたもんな」
「でも大丈夫、私もやから」
「私もだいぶヤバいよ」
3人も立ち止まってくれた。すみません、と言って俺はもう一度座った。
リノさんと中井さんは一緒に座ってくれた。ミクちゃんは近くで微笑みながら軽く音に合わせて揺れている。3人は踊りに行きたかったかもしれない。申し訳ない気持ちがしたが近くにいてくれて安心した。

久しぶりに音に耳を傾ける。遠く前方のメイン会場から聞いたことのある音が聞こえる。よく聞くと知っている曲だ。俺が見たかった好きなバンドが演奏していた。バイオリン音が気持ちの良かった。見に行きたいが、ここで座って聞くのも良い気がした。自分の知っている曲を聴いたせいか少し落ち着いた。
「すいません、もう大丈夫です。」
俺は立ち上がって4人でメイン会場をに向かって再び歩きだすと既に終盤だったらしく歓声の後バンドの誰かが「ありがとう」と言い残しステージ袖へと消えていった。
音が止むと代わりに周囲の話声が聞こえてくる。
中井さんがタイムテーブルとマップが書かれた紙を取り出し、4人はそれを覗き込んだ。
今が何時くらいなのかはわからなかったが、目当てのDJがまだ終わっていない事を確認し、そこの会場への行き方を焦点の合わない目で、なんとか頭にいれようとしたいた。

その時、四つ打ちの音が突然鳴り始めた。

俺は虚を突かれたように一瞬フリーズしてしまう。
中井さんとリノさんはお目当てのDJらしく「始まったで」「行くで~」といってメイン会場のステージに向けて歩き出した。俺も遅れて歩き出すと、今まで俺たちの周りにいた人達、座っていた人たちが一斉にステージに向けて歩き出しているのがわかった。
その光景を見て、何だか今夜のメインイベントが始まった気がした。
俺はメインステージの群衆の後方につける。
姉さん二人は前方の群衆の中に飲み込まれていった。
ミクちゃんを探すと後ろにいた。
俺はさっきまで動けなったのが嘘かのようにいつもより大きく体を動かしながら踊った。
しばらく踊っているとミクちゃんに背中を軽く叩かれた。
ミクちゃんはなんだか不安そうな顔をしている。少し群衆から離れたいというそぶりだったので、俺はもう少し踊りたかったが、なんとか会話ができる後方まで来て、ミクちゃんを座らせた。
「効きすぎて怖い」と、ミクちゃんはこの強烈なホフマンの効きに戸惑っているようだ。俺はグルグルのぶっ飛んだ頭でなんとかしようと考えた。バッグの中に玉が1錠入っている事を思い出した。このままではバッドトリップしてしまうかもしれない。玉の力でハッピーになればなんとかなるかもしれない。
さすがにここで玉を取り出し、半錠に砕くのは人目が気になり、気が引けたので、トイレに行ってくるからここで待っているように言うと
「一人になるのは怖いから傍にいてほしい」と俺の手を握った。
ミクちゃんの事を今までで一番愛おしく感じた。
身体は動くとのことだったので、もう一つの会場に行く間にどこかで玉を入れようと提案した。
ぶっ飛んだ頭で考えた割には良い考えにミクちゃんも同意した。

ミクちゃんと俺は手を繋いだまま、メイン会場のさらに奥の丘の会場を目指した。会場と会場をつなぐ道のりはメインステージの華やかさと人工的な雰囲気とは対照的に、暗く、自然の山道の中のほのかなキャンドルの灯りを頼りに進んでいくしかなかった。
メインステージの音が小さくなってくると、不思議な感覚を覚えた。俺はRPGゲームの主人公だ。可愛い女の子を連れて、2人で森の中を旅している。
目的地は丘の会場だ。会話もあまりなく、道のりはとても長く感じたが、俺は楽しく感じた。しばらくすると、突然開けたキャンプサイトに出る。
月明りが無数のテントを照らして静かだった。
そこで俺達2人を待っていたかのような木製のベンチがあった。
腰を掛けるとものすごく落ち着いた。ミクちゃんも少し落ち着いたらしい。
俺はモンキーパイプを取り出し、二人で草を吸った。いつもより草が美味く感じた。ここしかないと玉を半錠にし二人で水で流し込む。ミクちゃんは苦い事をアピールするように顔をしかめながら笑った。

音が近づいて来た。
そして目の前の丘の上部から光が漏れていた。長い道のりだった。
はやる気持ちを抑えながら丸太の階段を一歩づつあがっていく。
最後の階段を上ると、一気に開けた。
目の前に広がるの光景はここまでの長い道のりをかけてくるのに値する光景だった。すり鉢状の丘の真下には原始的なテントにカラフルなライトがデコレーションされ、一目でDJブースだとわかる。そしてDJブースを囲むように放射線状に光るポイ、デビルスティック、カラフルなブレスレットを動かしながら皆が踊っていた。
正に俺が理想としているようなレイブパーティーの光景が目の前に広がっていた。

DJブースに近づこうと、緩い傾斜の芝生を少し進んでいくと胃のあたりに熱いものを感じた。
玉が効いてきた。
LSDとMDMAのカクテル 「キャンディーフリップ」の完成だ!
DJブースに目をやると、踊っている人達の影の隙間からテントの中のドレッドヘアーが音に合わせて揺れている。
俺の好きなDJだ。
すべてのタイミングが必然であるかのように重なった。
DJは俺の今の気持ちを察しているかのように曲をつないだ。
アがらないわけがない。
俺は声を上げた。
ミクちゃんが抱き着いてきた。
俺も抱きしめる。
しばらく離れていた手を再び繋いだ。
俺達二人のバイブスが周囲に伝染してくかのように、
俺達と目が合う人達は笑顔になった。
この場所で誰一人嫌な思いをしている人はいないはずだ。
すると目の前をロボットの恰好をしながらゆっくりと踊る人物が握手を求めるように手を差し出してきた。妙にリアルで一瞬幻覚かと思ったが、
ミクちゃんを見ると弾けんばかりの笑顔だ。俺達二人はすぐさまロボットに抱き着いた。プラスチックのような質感がした。幻覚ではなく、現実だ。
気が付くと少し空が明るくなり始めていた。
目の前に広がる光景はまるでラブ&ピースを絵に描いたようで天国で踊っているようだ。
このままずっとここで踊っていたい。

Djが変わり、ゆったりとした音になった。空もだんだんと明るくなってきた。俺たちは芝生に座りただ音に委ねた。少しづつ現実に引き戻されるような寂しさを感じながら、究極のキャンディーフリップの緩やかなトリップの下り坂を楽しんだ。

ミクちゃんが入り口で分かれたままの友達からメールが来ていることに気づきメイン会場で落ち合う事となり、戻ることにした。
ミクちゃんは友達を見つけると悪気はなかったのだろうが、俺の元をスッと離れ、友達の元へ駆けていった。
俺の役目が終わったようで寂しかった。
2人に屋内フロアに行くから一緒に行こうと言われたが、少しゆっくりすると強がってしまった為、一人になってしまった。

すっかり明るくなったメイン会場では最後のバンドがとても心地よい音を奏でていた。もうほとんどシラフに近い状態だったが、終わってほしくない。
バンドのボーカルが「LOOK」と後ろを指さす。
後ろを振り返ると太陽が昇っていた。

俺の旅が終わった。

つづく

◆関連書籍/グッズ◆
下記のリンクから購入いただけますと私にアフリエイト収入が入ります。
よろしくお願いします。

キャプチャ17

キャプチャ18

キャプチャ19

キャプチャ20


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?