見出し画像

【小説】フラッシュバックデイズ 6話

この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。

6話 大型レイブフェス 前編

野外で行われる大型レイブフェスに行くために俺はバスに乗っていた。
大阪から会場まで直行のシャトルバスが出ていたので車のない俺は好都合だった。
周りには大阪のクラブ友達だらけで遠足気分で長い道のりもあっという間に会場に到着した。

シャトルバスを降りると、今にも日が暮れそうに薄暗くなり始めていた。
受け付けを済ませた大勢の群衆の流れについて進んでいくと、おそらく1初目のDJが始まっており、音が聞こえる。はやる気持ちを抑えながら群衆についていく。すると群衆の流れがやや遅くなり、少し先が混雑していた。下に下りていく群衆、その両脇には下を見下ろしている群衆に分かれ始めた。
俺は見下ろす群衆の流れに乗った。
一気に会場の全貌が開け、屋外メインフロアが見下ろせる。
なるほど普段はスポーツセンターらしい会場は観客席のような段差の下には
長方形の大きなスペースがり、そこがメイン会場となっていた。
かなりの人数がいることが一目でわかる。
そしてメイン会場の奥手には明るく光っている別フロアが見えた。
そしてここからは見えない屋内のフロアもあるらしい。
普段はクラブばかりの密閉された空間に慣れているため、新鮮でスケールが違うなと思った。
早く下に降りて踊りたい衝動に駆られる。
「ついておいで」
クラブ仲間でいつも2人で行動しているリノさんと中井姉さんに呼び止められた。
リノさんは面倒見の良い姐御肌。中井姉さんはいつも長い黒髪に黒縁眼鏡がトレードマークで常に冷静で落ち着いている。俺は一回り年上の2人を姉のように慕い、2人俺を弟のように可愛がってもらっていた。
俺はこの日の為に2人に紙を分けてもらえる話がついていたのですぐにその事だと察した。
「何しに行くの?」
たまたま後ろにいたチュッパチャップスのミクちゃんがネタの匂いを嗅ぎつけた。
姉さんが「アンタも来るか?」というと、
ミクちゃんも電話中だった親友の女友達にジェスチャーでちょっと離れるというそぶりをしてからついてきた。
今まである程度まとまって行動していたクラブ友達グループから俺たち4人は離れる形になったが、おつものクラブの時のように、すぐにまた会えるだろうという甘い考えをしていた。

メイン会場へと降りる階段から人気のない所まで来ると、中井さんがバッグから紙のシートを取り出す。揃ってはいなかったが、LSDの生みの親であるホフマンの絵柄とすぐにわかった。ホフマンの絵柄の紙は効きが強い事は知っていたが、本物を見るのは初めてだった。
3人が1HITの1/2を口に入れるのに対して、俺は前回の苦い経験から強気の1HIT分を舌下に挟んだ。
強気の俺に「アンタ、男やな~」リノさんにからかわれたが、苦笑いで返した。

受付時にもらった会場マップとタイムテーブルを見ながら中井さんとリノさんがこれからどうするか話していた。ミクちゃんは親友と離れてしまった事を少し残念がっているかのように見えた。
俺はグループの中でも1番好意のあるミクちゃんと頼れる姉貴2人と偶然ではあるがこの4人になった事がなんだか嬉しかった。

結局現在地から1番近い屋内フロアに行く事になった。
道中は階段が多数ありアップダウンが多い会場だなと感じた。
屋内フロアはおそらく体育館をフロアにしているのだろうが、それを感じさせなかった。
ハードなテクノが爆音で鳴り響き、既に大勢の人が踊っていたが、4人ともあまり気分じゃなかったのか、少し踊った後、お互いのアイコンタクトでここを出ようという感じになった。

フロアを出ると日が落ちていた。通路にはキャンドルライトが等間隔に並んでいたがそのキャンドル少しボヤけて見えた。
屋内フロアから漏れる四つ打ちの音がだんだん遠くなり、微かな音だけになった。


その時にLSDが効き始めている事に気づいた。


身体を薄いモヤのような物で包まれ、歩く足が地面と触れる感覚がいつもより少し違う気がした。時間の感覚はなくなってきて妙にメイン会場が遠く感じる。
そういえばしばらく誰とも会話をしていない。いつもはおしゃべりのリノさんも喋ってない。
「遠いっすね」俺はなんとか言葉を口から出す。
「ふふふ」とリノさんが軽く笑う。
残りの2人は喋らなかった。
俺はどうやってメイン会場に行くのかはわからなかったが、先頭を歩く中井さんは道を知っているだろうと勝手に信頼していた。

メイン会場の音が聞こえて来て安心した。
おそらく最後であろう階段を越えると出店ブースが並ぶスペースが見えてきた。
メインフロアの後方に位置する場所だったが、そんなことより俺はメイン会場に戻ってきたことに安堵した。
しばらく人と会わず、山から降りて来て初めてコンビニを見つけた時の安心感に似た気持ちだった。
出店ブースのそれぞれのライトがキラキラ光り何故か人の暖かさを感じた。4人は子供が屋台に引き込まれるように出店ブースに近づいていった。

リノさんがブースの人と喋っているが、この状況で良く話せるなと感心した。
出店ブースを見て回っているうちに、少し楽しい気分になった。
この4人は家族で例えると中井さんがお父さん、リノさんはお母さん、俺は長男、ミクちゃんは妹だな、となぜか考えていた。
飲み物がないことを思い出しドリンクを売っているブースで久しぶりに言葉を発した。ミクちゃんが私のも買って欲しいというので、ペットボトルの水を2つ買った。

「ヤバイのがあるで」
「アレはやばいw」

中井さんとリノさんの視線の先を見ると、巨大なミラーボールが出現した。
クレーン車につられていたミラーボールはまるで浮いているようだった。
その巨大なミラーボールにライトが当てられ辺り一面に反射した光が模様を作り出していた。
見てはいけない物を見てしまったように感じたが近づかないわけにはいかない。近づく際にコンクリート地面が柔らかく感じた。もはやまっすぐ立っているか、歩けているかどうかも不安な状態だった。
巨大なミラーボールに近づくと俺はもう立っていられず座り込んでしまった。
周りを見ると数人が静かにミラーボールを囲んで座っていた。
3人も近くに座った。
ミラーボールを見ているとものすごく神々しく感じた。
しばらくして、誰かがしたのか、俺がしたのかは分からないが、
ミラーボールが回った。回った瞬間、地面の反射した光の模様もそれに合わせて回りだした。それとリンクしたようにゾワッという音を出すように体の臓器、内臓、脳みそが同時に回る感覚に襲われた。
これは強烈だった。完全にもっていかれてしまった。
俺は何秒後かはわからないが、防御本能が働いたのだろう、目を閉じた。
目を閉じると真っ白だった。俺は目を閉じたまま、ゆっくりと頭を地面に下ろし、寝転んた。すると、体が上に昇っていくような、昇天とはこの感覚だろうという快感に包まれた。

上にだけ引っ張れられているような何もない無の状態。

その時名前を呼ばれた気がした。
目を開けると中井さんがいた。
無言で起き上がると
「連れていかれよったで」
「危なかったです」とリノさんに答えた。
「ここは危ないからもう行くで」
なんとか歩き始めるとメインフロア正面のはるか後方だという現実を思い出した。しかし、その一方で自分の名前が思い出せなかった。

やばい、ぶっ飛んでいる。

俺は生涯最高のLSDトリップのピークにいた。

後編につづく

◆関連書籍/グッズ◆
下記のリンクから購入いただけますと私にアフリエイト収入が入ります。
よろしくお願いします。

キャプチャ15

キャプチャ16







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?