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からだがふっと軽くなる香水の魔法。

「えっ、すごい! すごくいい香り!」

ムエットと呼ばれる紙のテスターに振りかけられた香りに、わたしは興奮していた。嗅いだことのない、とてもいい匂い。一瞬で惚れ込んでしまった。

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昨日、高校からの友だちと遊んでいたときに、ふらっと香水のお店に入った。

「ずっと香水ほしいなあって思ってて。お店見てもいい?」

わたしの言葉に、みんなそこまで香水に興味はなかったものの、いいよとうなづいてくれた。とくに、この日にここで香水を買おうとは思っていなかった。いままでもピンとくる香りを探してきたけれど、出会えた試しがない。期待していなくて、ちょっと見るだけ見てみようかな、くらいの気持ちだったのだ。

香水選びというのはむずかしいと思う。
美容雑誌で香水の広告を見ても、極めて情緒的というか詩的というか、もはや文学ではと思うような謳い文句が踊っていて、香りがさっぱりイメージできない。オレンジとかは香りが想像しやすいけど、名前のわからない原料が山ほどある。
嗜好品だからというだけでなく、原料では製品の説明がむずかしいことも、詩的なコピーがつくられる理由のひとつなのだろうか。

かといって、たくさん香水が並んでいるお店に行っても、いろんな香りが混ざっているし、あまりピンとこない。

それに、人気の香りほど、ひととかぶるということでもあって。どれがいいのかなあと、ときどきスマホで検索しながら悩んでいた。家電はかぶってもいいけど、香りがかぶるって、なんだかもったいない気がする。

とにかく、わたしはずっと、お守りになるような香りを探していた。

アロマディフューザーを使うようになって、香りの重要性を感じるようになったからかもしれない。自然と、ふだん使えて、心がやすらぐ香りを求めていた。

そして、その香りに昨日出会ったのだ。

お店のお兄さんは、ちょっとがっしりした体格で一見怖そうなんだけど、とても親切で、これまで出会ったどの店員さんよりも、なんだか信用できた。聞けば調香の仕事もされているらしい。

香水を探しているというと、わたしたち4人それぞれに、見た目の雰囲気から香りを選んで、ムエットに振りかけ渡してくれた。それぞれに選んだ香りが、確かにそのひとに合っている。

「お姉さんは、これをどうぞ」

じぶんに渡された香りを嗅いで、一瞬で虜になった。気持ちがあたたかくなって、からだまでふっと軽くなるよう。たのしいときにも悲しいときにも、寄りそってほしい香りだった。

お兄さんによると日本では発売されていなくて、ひととかぶることもなさそうだという。

十種類くらい、同じシリーズで香りがあったけれど、最初に試した香りが、いちばんすきだった。

「ほしいなら、遅くなったけど誕生日プレゼントにみんなで割り勘するよ」

あまりに惚れ込んだ様子を見ていた友だちが、遅めの誕生日プレゼントに買ってもらった。(わたしがなかなか都合がつかないせいで遅くなっていた)

今日の朝、プシュッとつけてみた。
ふわあっと香りが広がって、思わず「うわあ」と声が漏れる。

お守りがひとつ増えて、ちょっと強くなった気分。
こういう、じぶんを保つためのお守りは、いくつあってもいいと思う。

まっさらなベットシーツ、ふわふわのブランケット、おいしいお茶、部屋の空気を変えてくれる花、お気に入りのピアス。

じぶんの感覚で選び抜いたものは、ぜんぶ大切にしていきたい。

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