女 ひとり 家を買う15
急に唐揚げが食べたくなった。
そんな事ってあるよね。
私はニンニクと生姜をたっぷり入れて醤油で下味を付けた竜田揚げが好きです。大根おろしを添えてもいい。
エリンギでやっても美味しいよ。
さて、家という大きな買い物をするにあたり、私はあらゆる補助金を使うと決めている。
普段税金をがっつり引かれているのだから、こっちもいける時はがっつり貰うのは突然だろう。
細かいもの(物品に関する補助金)は置いといて、大きく分けて次の2つを私は申請するつもりだ。
耐震補修補助金
住まいの給付金
1つ目は予算の枠さえ残っていれば問題ないとの返答をもらっているが、かなり枠が埋まってきているので気持ち的には焦っている。(引き渡し後でないと動けない為)
2つ目は物件引き渡し後1年以内に申請すると貰えるお金だ。色々制限はあるが、私の物件は一応クリアしていると思う。うまく給付金が降りたら、家電や家具にお金がかけられるぞ!(ローンに充てろ)
後は住宅ローン控除を申請予定だが、これは来年の確定申告になるのかな。
この記事を書いている今日は、雨が降っている。
犬も猫も、両脇でお布団をかぶってお昼寝中だ。ネコリアンはほのかな温かさだが、犬はダイレクトに巨大な湯たんぽと化している。だから冷たい雨の日でも寒くはないんだけど……、身動きが取れない。
時々聞こえてくる、謎の寝言。
ーー新居の事を考える。
ネコリアンは、私と犬以外の存在を「好きとそれ以外」に分けているので新居という環境にさえ馴染めば問題はない。
犬は去年父が2度に渡り2ヶ月ずつ入院した際、退院時に嬉しそうにはしていたものの、不在でも精神は常に安定していたし探したりもしていなかったので……まぁこっちも問題なさそうではある。時々会わせる事は私もするし。
雨によってひんやりしている室内で、餅と化した犬を撫でる。うちの犬は幸いにも寝ながら私に撫でられるのを好むので寝息を聴きながら存分に堪能出来る。たまに体がプルンと揺れることがある。突き放すように揺れる時は「やめて」の意味で、肉を回すように揺れる時は「撫で方が足りない」だ。難しい。
ようやく叶った1件目(本来なら2件目だが)の見積もりの日も、午後から雨の予定の日だった。
ポシャった1件目から、ちょうど1週間後の話である。
ネコリアンロケットで目を覚まし犬の散歩を済ませ、厚めのコートを持って家を出た。
毎回20分前には着く段取りで動いているのだが、この日は裏道のない所で事故が起きていた。なんてことだ、と渋滞の中をノロノロ進んでいく。
随分と時間をロスした。
ひええ!と慌てたもののスマホは触れないので、とにかく急ぐ。
時間を5分程過ぎて待ち合わせ場所に到着する。
先方は車の外で待っていてくれていた。
「遅くなって、すみません!」
言い訳するのもどうかと思ったが、事実は事実なので事故渋滞に巻き込まれた事を伝える。
「いえいえ✨今日はよろしくお願いします」
爽やかに笑って許してくれた男性が、名刺を渡してくれる。
この日の見積もり業者は、知り合いの紹介その1であるキャプテンリフォーム社長(過去の記事参照)。
彼自身はリフォーム業者ではないが、業界に人脈を持っており無報酬で今回協力してくれている。ありがたや〜!
「色々と確認していきましょう。リフォームは最初にきっちりしておかないと、後からでは直すのが難しくなる可能性もありますからね」
「よろしくお願いします!」
私が車で先導してキャプテンリフォームを物件まで案内する。天気は曇りだが、雨はまだ降りそうになかった。
さすがに3回目なので迷いはない。そういえば物件の花壇には杉が植えられてたけど、この山には少ない気がする。単に私の地元の山が杉山なだけなのか。見渡す限り杉だからな。その隙間に棚田があって、山桜がポツポツ生えてる。そんな田舎。
物件に着くと、すでにアマ新がスタンバイしてくれていた。
名刺を交換しあって、いざ調査!である。
「水回りはどうなってますか?」
最初の質問は、水回りについてだった。
「こちらのパイプを繋いで、となっているようです」
「なるほど……少し細いな…。水圧に不安がある」
アマ新の説明にパイプを調べたキャプテンリフォームことキャップが、私を見る。
「お風呂でシャワーの水圧が弱いのは、お嫌でしょう?」
「…えっ?」
「シャワーは大事だ。水量を増やせればいいが……」
すごいシャワーに気を遣ってくれる…。あんまり気にしません、とは何だか悪くて言えなかった。
実の所、うちの風呂は今シャワーが壊れているので(父は使わないし、将来を考えると自費で直す程私はお人好しではない)洗面器でせっせとお湯を汲んで髪を洗っている。なので水量に関係なくシャワーがあるという事実がありがたい。
「排水はどうなってます?」
「こちらからこうきて……」
「ああ、そっちに……下水は届いてないはずなので……トイレは浄化槽ですか?汲み取りですか?」
「汲み取りです」
今ではほとんど見かけなくなった『汲み取り式トイレ』だが、地域によってはまだまだ健在だ。
万が一知らない方の為に説明すると、トイレの近くに汲み取り槽を埋めてそこに排泄物を溜めていく仕組みである。
通常ぼっとんトイレ。
そしてこれをアレンジ(?)して水洗トイレに見せかけたものを『簡易水洗トイレ』と呼ぶ。水で流せるが、その流したものの行き先はあくまで汲み取り槽。メリットは水洗トイレ世代が使いやすく臭いが少ない事。デメリットは汲み取り槽が満杯になりやすい事。
私はどちらでも気にしないが(汲み取りなら犬猫の糞をそのまま落とせるから便利かも、とは思った)、アマ新が仕事の合間に「浄化槽の補助金があるのを見つけました!」と教えてくれたので補助金で賄えるのなら、浄化槽への切り替えも視野には入れていた。
そうした事をキャップに伝えると、彼は難しそうな顔をした。
「浄化槽自体は便利なものです。ですが、この物件に設置するのはデメリットが大きいですね」
「デメリット、ですか?」
「1つ目、塀の存在です。工事の際に取り壊す必要があります」
もうデメリットがデカイ。
だが私は口を挟まず、次の言葉を待った。
「2つ目、足元です。セメントを全部掘り返す費用だけで相当かかります」
庭は畑と花壇、あと木がいっぱい生えてる所以外はセメント仕上げである。
うむむ…。
「3つ目、浄化槽を設置した場合排水をそこに切り替えるので水回りを全部工事する必要があります」
補助金どころの騒ぎじゃねえ。
「4つ目、工事の際、家の壁を一部壊す必要があります」
もはやメリットが見えねえ。
「5つ目、維持費がかなりかかります。年間で…何万だったかな…」
逆にメリットを教えてくれ。
「もちろんメリットもあります。水洗トイレは楽ですし、生活排水もそのまま浄水として流せます」
メリット少ない!
助成金で全部賄えて初めて考えるレベルだった…!
「汲み取りのままにした場合、上は便器の替えだけで済みます。汲み取り槽も交換で大丈夫でしょう。お一人なので、汲み取りの回数も数ヶ月に一度のスパンで充分だと思います」
「…………」
私はアマ新と顔を見合わせた。
せっかく調べてくれた彼には申し訳ないが……。
「……汲み取りのままにしておきます」
「それがいいと思います」
大叔母さんちが昔汲み取りだったと思う。
使い方はすぐに慣れるだろう。
キャップはその後キッチンの水回りも調べてから、「よし」とスマホを取り出した。
「ちょっとだけ待っててくださいね」
誰かと連絡を取って、一旦物件から出て行く。
残された私とアマ新は足元のセメントを見ていた。
「浄化槽…無理ですね💦」
「せっかく調べていただいたのに、すみません…」
「いえ!あれでは選択の余地はないです☺️💦」
都会だと当たり前な上下水道や都市ガスも、地方での普及率は著しく低い。まぁ、都市ガスとプロパンガスを比べた時に後者は災害に強いというメリットがあるから一概にどちらが優れているとかは言えないのだろうけど。
「お待たせしました」
あれこれ考えていると、いつの間にかキャップが男性を一人連れて戻ってきていた。
「わたくし、こういうものです」
男性が名刺を渡してくる。
リフォーム業社の代表の方だ。
急に来たな。正直びっくりした。
とりあえず、キャプテンリフォームが連れてきた物腰の柔らかい男性という事で、ハルクと名付ける事にする。(博士の時の名前を忘れた)
「水回りは確認し終わったので、リフォームの希望を全部聞いて行こうかな、と」
どうやらキャップはあの短時間で知り合いに連絡をつけて呼んでくれていたらしい。キャップに頭が上がらない。
これ相見積もりなんだけど、いいの?とリフォーム素人の私はドキドキしてしまう。
「見積もりから予算に合わせて削っていけますので、まずは全部盛っていきましょう」
「は、はい。とりあえず、門が欲しいです。アイアンの。かわいくて頑丈な」
「了解」
ジャッ!とハルクの胸からメジャーが出され、門柱と門柱の間が測られる。
「あと基礎が気になります。プロの目から見てどうなのか。シロアリもいます。耐震は補助金を使う予定です」
「了解」
パシャパシャ、と写真を撮りながらメモを取っていく。おお、さすがプロ…。
「内装については全てフローリングに替えたいです」
「ペットがいらっしゃると伺ってます。足に負担の少ないフローリングをご紹介できますよ」
お、おお…。
相見積もりの事実が凄い良心に刺さる。
「玄関前に格子の仕切りドアを作って、犬猫の脱走防止をしたいです。こんな感じの(写真を見せる)を。同じものを台所にも設置したいです。あと寝室予定の部屋は、透明のプラスチック障子で仕切りたいです」
私もノッてきた。
予算度外視なら、自分でやろうとしてた事も一応全部言ってみよう。
「壁はこの色がいいです(写真を見せる)。こっちの襖は撤去で。網戸は全て猫の爪に強いタイプに交換したいです」
「了解了解。天井はどうします?」
「シャレオツな感じで」
「了解。トイレの便器は交換で。お風呂はどうしましょう?」
風呂…。
風呂のリフォームはやばい。
ほんと、あいつをまともに相手しようとすると軽自動車一台買える金額になる。
「……水回りが問題ないようでしたら床と壁だけ綺麗にしてください」
「了解」
ここで靴を持って、裏にある土間に降りる。前住者が炭を山積みにしている所だ。ボイラー設備もあるし、離れにも通じている。
ここで初めてハルクが厳しい顔をした。
「う〜ん……。土間とは言え、ボイラーが屋内なのはお勧め出来ません。お風呂はボイラーを使われますか?」
「去年までは普通に使っていたそうなので、点検して問題なければ…とは考えてましたが…」
とは言ったが、交換となれば他の手段を考える。つい先日、家のボイラーと灯油タンクを新設して28万5千円かかった(さすがに父の貯金から出した)ので、ボイラーの価格は知っているのだ。それに灯油代を毎回払うとなると、かなりの額になる。
「どうしてもボイラーを使いたいのなら、安全上外に出すのは絶対です。ただ私としてはガスか電気をお勧めしますね」
「……なるほど…」
今の家はボイラーだが、賃貸で一人暮らしをしていた頃はガス給湯器だった。プロパンだったので、毎月5000〜8000円は払っていたように思う。(ガスコンロ分も含めて)
一方で電気給湯器はボイラーが壊れた時に一度説明を聞きにいったのだが、初期費用がボイラーと変わらず、かつオール電化にすると夏場犬猫用に昼間のエアコンがフル稼働になる為メリットを感じることが出来ず選択から外れたという経緯があった。
とは言え今の時代、オール電化が主流なのも分かる。
でもなぁ。この物件、アンペア数がめっちゃ少ないんすよ。マリコさんが「ここ、冬はすっっごく寒いの!」と言ってたから夏はそんなに暑くないのかもしれない。山の上だし。
で、まあそっから工事となるとめちゃくちゃお金がかかりそうだなぁ、と。
こじんまりとした平屋だし、エアコンは寝室だけにして犬猫が行き来出る幅を開けてフル稼働させる事で少ないアンペアでもいけるようにしようとしていたのだが。(もちろん万が一に備え、エアコンはスマホからの遠隔操作が出来るやつにする)
「ガスは確か…設置するとなると今はかなりお得なあれこれがありましたよね」
ボイラーの年式を確認しながら言うハルクに、キャップも頷いた。
「ああ、電気に押されてるから色々融通を効かせてくれるとか聞きますね。それがどこまでなのかは…。電気と比べて明らかにメリットがあるならガスも手ですが……。ガス屋がここにいたらな……」
キャップが腕を組む。
水回りのプロのキャップ、リフォームのプロのハルク、この二人でも今のガス業界の動きは分からない。
「……あの……」
その時、アマ新が手を挙げた。
「僕、前職がガス屋です☺️✨」
ア、ア、ア、
アマ新ーーーーッッッ!!!
16ヘ続く。次回『元ガス屋から見たガス給湯器とオール電化』&『リフォーム盛り合わせの続き』
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