見出し画像

学校における「目標」の語られ方

およそ1か月ぶりの記事となります。

普段と違う新生活の幕開けとなり、各所で不安や混乱の日々を送っていることでしょう。
学級開きができたところとできていないところがあり、「黄金の3日間」とも呼ばれる重要なスタートが先延ばしになってしまいました。

しかし、その分入念な準備をして臨めるチャンスがきたと捉え、最善の準備をしてスタートを迎えたいですね!
そこで、今回はスタートには欠かせない「目標」についてまとめます。

学級目標への違和感

先日、あるところで学級目標に関するたくさんの意見を拝見しました。
多くの先生方がご自身の描く学級像を表した語句を挙げていました。それらは主に、

・明るく元気なクラス
・助け合いや協力ができるクラス
・みんななかよく笑顔あふれるクラス

のようなものでした。良し悪しをいうわけではなく、個人的にこのような目標に違和感を持ちました。これまでの私には見えなかったものですが、マネジメント理論を学んだ今は、目標設定としてとても違和感を覚えます。この記事はその違和感を解消するために、「目標」について調べ、考察した内容です。

「目標」とその類義語

まずは、こちらを見てください。

・目標
・めあて
・スローガン
・KGI(Key Goal Indicator)
・KPI(Key Performance Indicator)

これらはすべて何を始める時に達成したい「ゴール」を表すときに用いられるものです。しかし、これらをすべて区別できているでしょうか?
これらをしっかりと区別した時に、「目標」とはどんなものなのでしょうか?

使う場面から考える

では、これらが学校のどんな場面で使われているか検討します。

「目標」
・学校目標や学級目標
・1学期の目標
・「目標をもって取り組もう」のような声掛け

「めあて」
・学習のめあて
・夏休みのめあて

「スローガン」
・運動会等行事のスローガン

「KGI」・「KPI」
もはや学校では聞かない…

以上のように並べてみると、
①「目標」=長期の大きなゴールを指す
②「めあて」=短期の小さなゴールを指す
③「スローガン」=行事等のゴールを指す
という区別がなんとなくされているような気もします。でもそれは「意図された明確な区別」なのでしょうか?

辞書の意味から考える

では、次にそれぞれの辞書の意味から検討します。
今回引用する辞書は、「デジタル大辞泉(小学館)」です。

「目標」
行動を進めるにあたって、実現・達成をめざす水準

「めあて」
行動のねらい・目的

「スローガン」
団体や運動の主義・主張を、簡潔に言い表した語句

「KGI」
企業などの組織において、個人や部門が達成すべき最終的な成果を定量的に表した指標。重要目標達成指標。

「KPI」
企業などの組織において、個人や部門の業績評価を定量的に評価するための指標。重要業績評価指標。成果指標。

やはり、すべてが少しずつ違う概念を持ちそうです。では、これらを並べたらどのような位置関係になるのかを以下に示します。

画像1

まず「目標」を「到達したい”状態”」と定義します。「何がどのようになっていたいのか」という具体的なイメージです。
次に、その”状態”を実現するための具体的な行動を挙げます。これが「めあて」です。つまり、めあては「目標を達成するための具体的な行動」となります。

このように行動計画を立てると、それが達成できたかどうかを示す客観的な指標が必要になります。それが「KGI・KPI」です。最も大きなゴールである「目標」の達成度を測るのがKGI、そのための小さなゴールである「めあて」の達成度を測るのがKPIです。
ここで、KGI・KPIを設定するときの注意点があります。

S:Specific(明確・具体的である)
M:Measurable(測定できる)
A:Achievable(現実的に達成可能である)
R:Reliable(信用できる指標である)/ Relevant(必要な指標である)
T:Timely(時間制限がある)

この5つを満たしたSMART(スマート)な設定が必要になるのです。

このような具体的なプランが描けると、それぞれの行動が起こしやすくなります。しかし、目の前の行動に注力しすぎて、最終的に達成したい「目標」を見失ってはいけません。そこで、目指す目標を意識しながら行動できるようにするために掲げられるのが「スローガン」です。

例えば、「健康な生活」を実現するために「早寝、早起き、朝ごはん」といったスローガンが掲げられたり、コロナ感染を収めるために「3密(密集・密閉・密接)を避ける」といった言葉で行動を意識しやすくしたりするのもスローガンの大事な役割です。

学級目標に対する違和感の正体

ここまでの検討を踏まえ、改めて私が違和感を感じた学級目標を見てみると、

・明るく元気なクラス
・助け合いや協力ができるクラス
・みんななかよく笑顔あふれるクラス

同じように違和感を感じた方もいるのではないでしょうか?
そうです、これは「目標」ではなく「スローガン」なのです。
常に目に入る掲示や子供に対して伝える時は、このようなキャッチ―な言葉にすることで意識させることはできます。しかし、スローガンはあくまで目標達成のための「補足的な」言語化であり、本来の目標とは異なるものです。

したがって、学級経営案などのような文書にも同じように「スローガン」を書いていてはダメだということになります。スローガンではなく「目標」を言語化するには、その達成に必要な行動(めあて)とその評価指標(KGI・KPI)を明確にし、KGIを示すのがよいでしょう。

学級担任は学級という集団のマネジャーです(部活動などでよく使われる「マネージャー」とは違います)。その集団や組織のマネジメントを行う立場にあるマネジャーは、いかにKGI・KPIを生かして「数字」をコントロールできるかという世界です。

「○○なクラス」というスローガン化した目標を達成するには、どんな数字が必要で、それはどんな行動で表現されるのか、という基準を担任は持たなければなりません。組織の構成員としてとらえれば、ある部分のKPIは子供にも共有する必要が生じてくるでしょう。子供と一緒に「数字」を達成していくことで目標に近づく。それが本当の意味で「協力」なのではないでしょうか?

しかしキャッチ―な言葉だけで「スローガン」だけを掲げて、具体的な数字や行動のイメージがないまま「理想の状態」だけをただ語っていると、それは「目標」としては欠陥でしかありません。外側だけきれいに飾っても中身が全くない状態なのです。これが、私の感じた”違和感”でした。

学校教育においては、子供の意識レベルと教師の意識レベルは違う次元でなければいけません。しかし、特に小学校の場合、子供に理解しやすいレベルに落とす必要があるからこそ、教師自身の意識レベルも低くとどまってしまう危険性があります。そうならないために、ある意味で「大人しかいない環境」ではどのように考えられるのかを教師は理解する必要があるのかもしれません。

この緊急事態で時間ができたからこそ、より深い次元で物事を捉え直す機会にしてみてはいかがでしょうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。コメント等ございましたら、遠慮なくご指摘ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?