見出し画像

「体験」の「経験」化

「体験学習」とは言いますが、「経験学習」とはあまり言いません。
「経験値」とは言いますが、「体験値」とは聞いたことがありません。
「体験」も「経験」もどちらも英語にすれば「experience」です。

両者はどのように違うのでしょうか?

私の中では次のように区別しています。

「体験」= 一時的で表層的なもの
「経験」= 長期的で深層的なもの

画像1

イメージは塗り薬です。日常生活や活動を通して表面に様々な「体験」を塗っていきます。その一部が体内に浸透していき、体内で形成されたものが「経験」です。表面に塗った「体験」はすべて「経験」となるわけではなく。多かれ少なかれ蒸発してしまいます。基本的に体験は様々な成分が混ざり合った”複合薬”であり、そのうちどの成分が浸透していくかは正確にはコントロールできません。

具体例で考えてみます。話題のYoutuberの動画を見て歴史を学ぶという体験をしました。「Youtubeで歴史を学ぶ」という体験には、次のような成分が含まれていると考えられます。

①Youtuberの巧みな話術と演出によるエンターテインメント
②Youtubeで学習をしているという非日常感覚
③歴史分野の学習コンテンツ

この体験がどのように「経験化」されていくのでしょうか。

【この人の動画わかりやすい!またこの人の動画見たい!】
このような感想を持った場合は、①が強く浸透したと考えられます。そのYoutuberのエンターテインメントに魅せられたことがインパクトとなって、エンターテインメントを満喫したという「経験」が残ります。

【Youtubeってこんなに勉強になるんだ。他の人の動画も見てみよう!】
このような感想を持った場合は、②が強く浸透したと考えられます。退屈な勉強でも、Youtubeで行うと「ちょっと遊び感覚」でできるということに気が付き、「Youtube」という部分が強いインパクトをもたらしたことになります。そのためYoutubeという「ちょっと変わった勉強法をした」という「経験」になります。

【歴史ってこんなにおもしろいんだ!他の方法でも調べてみよう!】
このような感想を持った場合は、③が強く浸透したと考えられます。エンタメ化されたことで内容の理解が進み、学習コンテンツそのものに興味を持ったという場合です。「そうなんだ!」「なるほど!」という感覚がインパクトを持ち、歴史の学習が楽しく感じられたという「経験」が残ります。

もちろん、これらが2つ同時、あるいは3つ同時に発生することもあり、それぞれに強弱があります。つまり、同じ体験をしても、個人によって違う経験をしているということになるのです。同じ個人の中でも、同じ体験を繰り返すことで違う経験が得られることもあるでしょう。「Youtubeで歴史を学ぶ体験」を繰り返すことで、最終的には①②③すべてが経験化されることも十分にありえます。

このように体験を経験化するプロセスを「学び」というのではないでしょうか。あるいは経験化された対象を「学び」とよんでいるのかもしれません。

おそらく教育現場では、上記の例でいう③を経験化することが重要視されているかと思います。そのためにその時間を楽しくする活動の工夫が様々されていますが、それは同時に①や②の影響を強めてしまうことにもなります。学習のエンタメ化は学習者をひきつける一方で、学習コンテンツに直接関心が向かなくなる可能性があるということを理解しておきたいものです。

それを踏まえた上で、【「体験」の「経験」化】を効果的にできることがよい指導につながるのだと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?