073:Rainy Day
天気予報通り今日は雨で、仕事には傘を持って出かけた。
定時上がりで外に出ればもうすっかり秋らしく、冷たい風吹く9月の外気はしっとりとして暗い。
水を湛えた黒い地面が街頭や様々の明かりを反射して光っている。光る水面はもう動いていない。
いつもの電車に乗り、数駅で乗り換える帰路。
誰もが傘を持っているがどれも水を滴らせてはいない。
皆どこか煩わしそうに傘を持っている。
電車を降りて家路を行く、湿った空気はむしろ呼吸がしやすい。少し前まではあんなに暑さに喘いでいたものを、季節というのはこんなに軽薄だったろうかと何だか薄情に思ってしまう。
ただただ呆気なく、今年は季節が移り変わる気がした。
前から車が眩しく光りながら近づいてくる。
ちら
ヘッドライトが視界を白く照らした瞬間、それは現れた。
無数の塵のような雨粒。
それはヘッドライトの強い光に まるで粉雪のように白く舞った。
車が通り過ぎる。
雨は止んでいる。
いや、降っているのだろうか。
街頭の下では分からないだけの、飛沫のような雨が。
それとも、雨の名残の水が思い出のように残っているのだろうか。
傘はささないまま、そしてそれでも濡れないまま、私は家に着く。
故郷の粉雪降る季節を想いながら。
073:Rainy Day
お題はこちらから: http://aria.saiin.net/~tenkaisei/questions/t100_01.html
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