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五行小説

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五行とは万物における「業」であり。すなわち、世にも奇妙なショート(ちょっとだけ)ホラー。
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2017年12月の記事一覧

パソコンが使えない

「えっと……この”ctrl”ってキーを押しながら”C”を押すと……ああ、間違えた。」   「ちょっと、コピー&ペーストくらいのことができないって、どういうこと? ひどすぎますよね。」 「最近の社員はパソコンも使えなくて役に立ちません。このままじゃ窓際の席に行ってもらいますよ。」 「ああ、部長。得意先とコミュニケーションが取れなくて営業から異動になった社員たちがパソコンも打てなくて使い物になりません。」 「ひと昔前と逆転していますからね。今やパソコンを使えるのは「2ち

履歴

-- 320年前の今日、私は備前の百姓の家に生まれました。名を「いち」と申します。貧しい家で朝から晩まで両親と夫の仕事を手伝い、子供を八人産んで育てました。将軍様のおいいつけでお犬さまや虫を殺して罰せられた人もいたらしいですが、おらの周りではそこまで厳しく言われる事はなかったです。いつの間にかその決まりもなくなっておりました。   -- 220年前の今日、私は越後の浅川の庄屋の家に生まれました。名を「一」と申します。私が二つの時に、家が百姓に襲われ打ち壊されました。私は幼

あいさつに来て

「隣に誰か引っ越してきた気配があるのに、ウチに全然あいさつがない。最近の若い人はなってないわ。」 と、向かいの奥さんに愚痴を言ったのは、つい昨日の事である。   買い物から帰ってきたら、小さいおじさんがチョコンと茶の間に座っていた。   「こんにちは。はじめまして。」   「だ……だれです?」   「最近、この近所に来た者です。」   「はあ? 黙って入ってくるなんて泥棒と同じじゃないですか。警察を呼びますよ! 」   「だって。怒ってたって向かいの

帰ってくる

今日も、夫はちゃんと帰ってきた。   気配を感じて玄関をふと見たら、キッチンと廊下の間にかかるのれんの下から足が見えた。 「お帰り。」 と言ったけれども、返事がない。 ない。のではなく、たぶん、できないのだ。   夫には首がもうない。 そして今日は足だけ帰ってきた。   一体、どこでこんなにバラバラにされたのか……。

無料処分

はい。確かにこちらでは5年ほど前までブラウン管テレビなど無料でお引き取りしていました。 送料だけ持っていただいて、箱に詰めて送っていただければ、後はこちらで全て処分させていただくシステムです。 ですが、現在、そのシステムには不具合があり、停止させていただいております。   えっ……だって、テレビじゃない物を平気で送ってくる方がいらっしゃるので。 何でも無料で処分できるわけじゃないんですよ。   手とか……足とか……。

悪習

大人になるにつれ、他人の言葉が本音なのか建て前なのか分からなくなり、カードのお告げに頼って行動するようになってしまった。 古びた木の箱に入ったタロットカードを買ったのは学生時代のこと。 あの頃はこの箱を出すと、みんなが周りに集まってきた。   友達との交流が目的でカードをめくっていたのに、今は一人で行動を確認するためにめくる。 どうしてこんなに寂しい人生になってしまったのか。 何か。何か良くない「気」のようなものが、恐らく私から出ているのだろう。 どうしたらいい

手相を描く人

「手相描き師」という人を知っていますか? その人に足らない相を描いてもらうと運勢が変わるといいます。   例えば、生命線を伸ばしてもらうと寿命が延びます。 運命線を描き足してもらうと運命が変わります。 結婚の時期も変わるといわれています。   えっ。その人を探して何を描き足してもらうのかって? いえ。私は描いてもらいたいのではなくて、弟子入りしたいのです。 描き方ではなくて、消し方を知りたいのです。   介護に疲れてね……家人の生命線を……。

私、こう見えましても

私は子供の頃から「いじられ」やすい。 「いじられる」といえば聞こえが良いが、要は馬鹿にされているのである。 いつもニコニコした顔を作って、気弱そうな私をさげすむ人たちをやり過ごしてきた。 けれども、そろそろ、やめようと思って。   ―― 私、こう見えましても……   ―― 神さま ―― なんです!   「そう叫んで教室で刃物を振り回し始めたところを教師が取り押さえたという事です。」 「なぜ自分を神だなんて思い込んでしまったのでしょうか。」   「たか