191030逆噴射小説大賞_スクラップラージョオ

スクラップラー・ジョオ

──このマシンを造ったヤツは、イカレている。

棺桶のごときコックピットのなかで、俺は反射的に操縦桿を操作する。マシンの両腕が、胴体のコックピットと頭部センサーを守る。

防御態勢をとる鋼の前腕ごしに、サブマシンガンのマズルフラッシュが迸る。同時に、着弾の衝撃が操縦席を揺さぶる。

機関銃が吐き出す弾丸を、両腕の装甲が弾く。弾く弾く。弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾く。

敵機はフルオート射撃しつつ、ローラーダッシュ。こちらを中心に旋回する。俺は、カン頼みで自機の正面を相手に向け続ける。

ガクンッ、とコックピックが揺らぐ。0.5秒遅れてアラート。右脚部に被弾。メインモニターには、敵機の背後でどよめくギャラリーの姿が見える。

『ジョオォォーッ!!』

セコンドのしわがれた声が、通信機から響く。同時に、銃弾の嵐が止む。幸運だ。敵機は、空になったサブマシンガンのマガジンを交換にかかる。

俺は、操縦桿を思い切り前に倒す。強烈なGがかかり、両肩がパイロットシートに喰いこむ。被弾箇所が悲鳴をあげる。

マシンは一瞬で、相手の懐に潜りこむ。モニターに大写しになる敵機の頭部が、動揺したように見える。

リミッター解除、チェストロックオフ、排気筒露出──ジェネレーターのうなり声が一段階大きくなる。

自機の上半身が、高速回転を開始する。コックピット内部が、竜巻に放り込まれたように揺さぶられる。

およそ1秒のうちに、右の鉄拳が2発、左が3発、敵機のボディに叩き込まれる。マシンの回転速度は、さらに増す。

無数のパンチが、相手を殴る。殴る殴る殴る。殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴る。

『ジョオオォォォ──ッ!!』

セコンドと実況アナウンサーの絶叫が、混線して通信機に届く。べこべこに装甲のへこんだ相手マシンが、火花を散らしながら仰向けに倒れこんでいく。

『勝者あぁ……スクラップラアァァ、ジョオオォォォ──ッ!!!』

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?