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妄想小説~ある大学生の物語~⑱探検そして

「おー木造の駅や、すげー」
「いつからあるんだろうね」

さっそく駅舎に驚きながら歩いていく。もう何も販売していない自販機やだいぶ前に廃棄されたのか緑に覆われている車を通り過ぎると、お目当ての看板があった。

「みさと、今どこにいるん~?」
「えーと愛知県と岐阜県と長野県」
「え~どういうこと~?」
「実は3県の境目にいるんだ~」
「すげー」

二人で即興のコントをしながら写真を撮りまくった。

この後、動物の骨が落ちていたり、今は誰も住んでいないだろうボロボロの一軒家があったりと少し恐怖を感じながら、どんどん歩いて行った。

「しかも何か暗いよなあ」
「ほんまにね。一人やったらおっかなくて耐えられやんかったな」
「しかも1時間以上待たなあかんで」
「ワタルくんがおって良かった~」
「俺も」

そうこうしている内に、次の電車があと30分で来るらしいので、二人は踵を返した。山の中とは言え、今は真夏だ。駅に戻ったときには汗びっしょりだった。みさとにもらった清涼ジェルの匂いで夏らしさを感じながら、おしゃべりもせず、しばしの静けさを楽しんだ。

「この後どうしよか?」
「ちょっと湖は行きたいんよねー、これ」
「結構広いんやな、行ってみよう。そうそうお菓子あるけど食べへん?」
「おっいいねー、私もあるよ、お腹すいたよね」

と買っておいたカントリーマアムを取り出す。

「私ココア好き!分かっとるね!」
「おー良かったココア派で」
「レンジでチンしたら美味しいの知ってる?」
「知ってるで、ほかほかマウムの美味しさは反則級やわ」

「みさとはポッキーか」
「しかも極細!ちょっと得した気になるんよ」
「あー分かるわ!量は一緒やのにな」

話していて気づいたのだが、ワタルとみさとは共通点が多いようだ。専攻も環境や地域に関することだし、読書が趣味だし、辛いのも苦手だ。おまけに仮面浪人していてワタルと同じ21歳だった。

時々、部活のユニフォームらしき姿の高校生が乗り降りするが、それ以外はワタル達みたいに観光客がちらほらいる程度で、湖まであまり混まなかった。おかげで車窓からの景色を存分に堪能できた。眼下にのぞむ川は、山に挟まれており、京都にある紅葉の観光名所が思い起こされた。

(秋に来るのも良いかもなあ)

湖近くの駅までは3時間近くあるため、腰が痛くならないよう、時々ホームに降りて伸びをした。

湖での滞在時間はあっという間だった。終電までにお互いの宿へ着くには、すぐ次の電車に乗らねばならなかったのだ。少しばかり散歩をして写真撮影を済ますと、二人はすぐに駅に戻った。

「わーびっくりしたよね」
「ほんとに、湖から富士山が見えるとはなあ」
「私ちょっと感動しちゃった」
「めっちゃ良かったよな、だから思わず、、、」
「うん、、、」

湖をあとにした二人は、本日最後の目的地へ向かった。お城が有名なこの駅では、電車の混雑具合を考えると少なくない数の人が降りた。みさとのホテルは駅前にある。黄色い看板で有名な金融会社のビル、その隣にある「セカンドイン」というホテルだ。駅から離れたホテルを予約しているワタルは、セカンドインの前でみさとと別れた。

「今日はありがとうな」
「うん、また連絡するね」

彼女がホテルのエントランスに入るのを見届けてから、自分のホテルへ向けて歩き出した。


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