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妄想小説~ある大学生の物語~㉒移動も旅の楽しみ

夏休みとはいえ平日の朝なので、通勤客らしいき人が多い。初日は例によって大半が移動だ。まずは姫路まで乗り換えなしで向かう。

二人がけの椅子の、みさとは窓側に座っている。初めて会った時は正面だったが、それよりも横に並んで座る方が落ち着く。お城を見せられたらいいなと思ったが、その期待は外れた。意外にも、線路に沿って高い建物が並んでおり、その向こうにある国宝を望むことは出来なかった。

「いやー見えると思ってんけどな」
「残念やね。見せたかったんでしょ?」
「そうやねん、今度ちゃんと見に来てな」
「わーい、楽しみ。近江牛も食べたい」
「バイト頑張らなな」
「なな?」
「がんばらないといけないなってこと」
「あーなるほど」

みさとは、黄色い看板でおなじみのファミレスでバイトしている。一昔前アニメのキャラクターがCMをしていて話題になっていた。今度一緒に食べに行って、バイトだから知っている裏話的なのを聞いてみたいものだ。

京都までは、停車駅が多い。だが京都からは新快速の本領を発揮して容赦なく飛ばしていく。

電車はあっという間に大阪駅に着いた。そこから見えるビルの上にそびえる赤い観覧車に、大阪は初めてだというみさとは少し興奮気味だ。電車から2つの地元を紹介できたワタルは満足気だった。次の旅行もイメージしてもらい楽しみが増えた。

ここからはビルは減るが、時折姿を見せる海と山側の住宅街がシンプルにいい感じだ。ワタルたちは乗った時とは反対側に座っている。大阪駅で人が入れ替わるので、これはチャンスと席を移動したのだ。

4日目に訪れる予定の街や橋を眺めながら、コンビニで買ったお菓子をシェアした。

「きのこの里、紫やと毒キノコみたいやね」
「確かに。でも旨いよな、秋限定はやっぱりいいわ」
「特別感が出るよね、普段食べやんし」
きのこたけのこ戦争はこの二人の間では行われない。両方きのこ派だからだ。一応たけのこ派が優勢とはよく言われているが、、、

姫路に着いた。改修を終えて以来お城に行ってないなと思いながら次の電車に乗りこんだ。

「ここから先は一気に電車が短くなるね」
「よな、ローカル線って感じ」

いよいよ関西を抜け、岡山県に入る。と言っても今回、岡山は通り過ぎるだけだ。電車で四国へ到達するための、確か唯一のルートだったはずだ。

ワタルとみさとは、ワイヤレスイヤホンをシェアして、J-POPを聴きながら瀬戸内海を眺めていた。中国と四国をまたぐ電車だからか、観光客と思われる乗客が多かった。ここからの景色も良かったが、広島愛媛間はしまなみ海道もあるから更に興奮するだろうなあ。

「いやー四国や四国、うどんやなまずは」
「うんうん、もうちょい西へ行くんやんね」
「せやな、うどん屋さんもあっちの方が多そうやし」

というわけで、ワタルたちが下車したのは丸亀だ。南から駅を出て右手を見ると何やら黄色くて大きいモニュメントがあった。どうやらその奥が美術館になっているらしい。ちょっとした出迎えに感動したが、行く予定のうどん屋さんは反対側だった。みさとが外観を見て気に入ったお店だ。

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