ショートショート|博士の薬(for「1分マガジン」)
「よし、完成じゃ!」
白いあごひげを揺らして、博士は歓声を上げました。
右手で掲げた試験管の中で、綺麗な青い液体が、きらきら輝きます。
疲れた現代人の心を癒す薬が、やっと完成したのです。
博士は早速、弟子3号を呼びました。
彼女は最近、恋人に振られたのですが、それでも明るく、元気に振舞っています。
泣いた目で出勤することもありません。
「お呼びでしょうか」
すぐに弟子3号が、博士の研究室にやって来ました。
「おお3号、お前にぴったりの薬ができたぞ」
「私に?」
「お前は最近、無理をしておる。心が病む前に、これを飲むのじゃ」
逆らえない弟子3号は、大きな不安と一緒に、試験管の薬を飲み干しました。
すると。
「うわあん!」
突然、弟子3号が、赤ちゃんのような大声で泣き出したのです。
博士は彼女を椅子に座らせ、放っておきます。
泣いて泣いて、そして、ついに弟子3号の涙が止まりました。
「どうじゃ、気分は?」
博士が訊くと、彼女は顔を上げ、にっこり笑ってこう答えます。
「すっきりしました!」
そう、博士が開発した薬とは。
悲しみさえ無視してしまうほど、疲れた現代人が、泣きたいだけ泣ける薬なのでした。
〔了〕
*ねじりさんが、このお話の続編を書いてくださいました!
同じく「1分マガジン」参加企画。
すごく素敵なイラストも描いていただいたので、早速見出し画像に♪
めっちゃ可愛い続編、ぜひ読んでみてくださいね!!
*こちらの企画に参加しています!
小牧さん、素敵な企画をありがとうございます!
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