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【短編推理小説】五十部警部の事件簿

事件その49

「いや、大変な捕り物になったが、四傑団を名乗る愚連隊を一網打尽にしましたよ」
中央署に赴任してきた新入りの佐藤三郎刑事が嬉しそうな手柄顔でいった。
五十部警部もそのことは嬉しく、彼の肩をポンと叩き、「いや、御苦労さん。近年に無い会心の捕り物だったね」と笑った。
その前の週の土曜日の晩、佐藤刑事はそれらしく変装して、一味が経営しているバーへの潜入に成功していた。
かなり広い店で、端の方にカクテルを飲めるスタンドバーが備えてあったので、オレンジシェードを注文し、そこで一味の様子を窺う事にした。
 
一味の四人はその晩、何かの儲け仕事に成功したらしく、大いに騒いで酒を飲んでいた。
一味の一人、吉田妙子は四傑団の副長と一緒に、バーのテーブル席で飲んでいた、同盟関係にあるらしい愚連隊とワインの壜を開け飲み始めた。
少しの間、座を外していた頭目の男はそれを見るなり、吉田妙子の腕を引っ張って席から離し、勝手な真似をするなと怒鳴りつけた。
その後、一味の田中富兵に、妙子が男に妙な色目を使ったら必ず知らせろと念を入れた。

夜も更けて来た。
かなり酔った大岡多津吉と副長がよろけながら、カクテルバーへ近づいてきて、アイリッシュ珈琲を注文した。
その時、大岡が以前のガサ入れで見覚えていた佐藤刑事に気づき、「サツだッ!」と大声を上げた。
途端に室内の照明が消され、全員がちりぢりとなって逃げ去った。
 
「おい、面が割れていたのかい?それでよく全員にワッパを打てたね」
五十部警部が訊いた。
「連中の特徴もしっかり憶えていましたからね。頭目は髪の毛の色が生まれつき赤毛なんです。副長は片目が見えない。一味の富本三郎は、顔の半分に大きな火傷の痕があるといった具合です」
 
さて、誰が頭目で、誰が副長かな?

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