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【短編推理小説】五十部警部の事件簿

事件その48

五十部警部はそのラクダの毛で織った暖かそうなオーバーの膨れた内ポケットを探ってみた。
ステック状のハッカ飴の束が新聞紙に包まれていた。
ある廃ビルにたむろする不良少年団を、窃盗の容疑で摘発した現場で、家出少年たちが寝ている一室へ踏み込んだ時に事件は発覚した。
ラクダの毛のオーバーを被って寝ていた少年を起こそうとしたところ、少年はすでに息をしていなかったのだ。
五十部警部は驚いて、その隣で古ぼけた緑色のオーバーを被って鼾をかいて寝ていた少年を叩き起こし事情を訊いた。
少年は佐藤浩二といい、島根県から東京へ流れて来たと語った。
「隣の奴は太吉という名前しか知らない。昨日の夜、アガリもなく、夕飯も喰えないで疲れて寒かったから、俺はミンザイだけ飲んですぐに寝ちまったんだ。
ミンザイは体が暖かくなって腹が減っていてもすぐに気持ちよく眠れるんだ。
夜中に太吉が帰って来て、その物音で一回目が覚めたんだよ。
あいつは、暖かそうなオーバーを持っていて、それを床に投げてゴロンとしたら、やっぱりグーグー眠っちまったんだ。
俺もすぐにまた眠くなってオーバーを被って寝てしまった。
俺が思い出せるのはそれだけだよ。刑事さん、俺は何もしていないよ。
それに太吉は何でまだ寝ているんだい?」
五十部警部はまだ寝ぼけ眼の佐藤少年に向かって厳しい声でいった。
「彼はもう二度と目を覚まさないよ。心臓を何か鋭いモノで刺されてしまったんだ。
恐らく犯人は君だろうな」
 
五十部警部はなぜそう推理したのかな?

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