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【2019忍殺再読】「ナクソス・アンダー・ファイア」

忍殺劇場版アニメ

 レッドハッグAOM編にして、ノブザメEの初登場回。クルセイドや荒野の三忍と並び、「ニンジャスレイヤー劇場版」味の強いエピソードであることに異を唱えるヘッズは少ないことでしょう。ナクソス島を支配する殺人ロボット軍団と暗黒メガコーポ連合軍の大戦争というド派手はシチュエーション、劇場版ゲスト悪役っぽさの強いウルベイン卿もらしいのですが、個人的には忍殺にしては珍しい彩度の高い画面が呼びこむ「大画面で観たい」欲を理由の一つに挙げたいですね。エーゲ海の美しい青に浮かぶ大質量の黒、そしてそこここで花開く戦火の赤と、うちだされたヴィジュアルイメージが常に鮮やかにキマっており、それらを映すカメラが思いっきり引いている。アイアンアトラスシリーズと比較すると最早同じ作品とは思えない。あとなんというか宮崎アニメですよね。ミリタリーへの偏重さもありますし。いや、『紅の豚』に印象を持っていかれてるだけですが……。

 で、そのヴィジュアルに対して、一貫性のあるイメージのみを撃ち込んでこないのが相変わらず強い。ええ、ノブザメEとドクター・マトモの話ですね。高解像度高彩度大画面に、ゲームボーイカラーのちっせえ画面を映すのやめろ!ヘリコイド・ジェイドワスプ・デスドーモコアの大容量ゲーム三人組に年代が追い付いてねえんだよ!しかし、しっとりとしたレッドハッグのお話と全く噛み合ってない彼らのテンションが、浮くことなく同一エピソードとしてはまり込んでいるのは一体どういう魔法を使ったんでしょうね。「燃える心」という共通点をもたせているとはいえ……とはいえ、ですよ。ボンモー、ジャンル混交をやらせたらあまりにも強すぎる。

白熱の定義

 ゆっくりと上昇し、白熱(GLOW)に至る怒り。一つのトリガーによるものではない、分割不能な無数の要因による温まり。激烈な変化ではなく、ゆったりと流れの中にある必然的な着火点の越境。つまり、レッドハッグの怒りとは、レッドハッグとは、そういうニンジャだということです。それは、第一部・第二部のフジキド・ケンジの怒りとの明確な対比(彼女はその特性上、復讐者から最も遠い)であり、今エピソードに限ればノブザメEの単色の正義の炎との対比でもあるでしょう。明確な個人(仇)ではなく、ぼんやりとした総体に向けられた彼女のむしゃくしゃは、常にある種の「八つ当たり」ともいえる形で個の悪に向けて発散されるわけで。そしてその「悪」とは、「故郷をファックした」「クソ野郎である」という「八つ当たりしても構わない」という後付けの筋として通される認定であるわけで。彼女の構造は、どこまでも独善的で身勝手なニンジャと言えるでしょう。そしてこのエピソードは、ヒトであった彼女が、再びヒトならざる怪物にもどるために、自覚的に身勝手な殺戮を始める物語であるのです。ザ・グロウの再現性を、自らの心を材料にして、通りすがりのかわいそうな被害者を実験台にして、試す物語であるのです。

 しかし、レッドハッグのヒトからニンジャへの変貌が、黒衣の装束(喪服→忍び装束)、オブツダンという名の刀(亡父への弔い→敵への死の予告)の二重の意味づけを通して示されているのうまいですよね。ガジェットのダブルミーニングは忍殺の華。それにしても、オブツダン、なんですかねこれ。「定義を喰らう剣」という名乗りやゾーイの01暴走現象を思わせる状態異常効果、何より黒い刀身からして刀状に成型したエメツであることは間違いなさそうですが……なので、最初は、エメツ刀(固体化したモータルソウル)にニンジャソウルが憑依した代物だと思ったのですが……意思があるんですよねこいつ。シーズン3でギンカクに大きく焦点を当たっていることをふまえると、ひょっとして、内在モータルソウルがナラク化した刀なんじゃなのか?「闇色の炎を物質に鋳固めた」とは、まさに不浄の炎のことを指すのでは?ベッピン、キョート城より1ランク下程度の激ヤバアイテムですし、またマッドサイエンティスト豊満が関わってる気がしますね。あのカルチャースクール講師、ろくなもん作らねえからな……。

精神論回路を走り、根性論歯車を回す

 レッドハッグのどんよりとした内燃と比べ、ノブザメEの燃える正義の心のなんと気持ちよくわかりやすいことでしょう。正義のために作られたロボットが、正義のために戦う!いや、しかし待ってくださいよ。これ結構とんでもないことじゃないですか。たとえば、ユンコは殺戮のために作られたボディを自らの魂とコトダマにより「カワイイ」と再定義しました。たとえば、ウキヨ(オイランマインド)はユンコ由来の怒りをガイドにセクサロイドという設計思想に唾を吐きかけました。ニンジャスレイヤーとは、物理現象として必然的に発生する抵抗の物語であり、基本はそういうお話です。しかし、ノブザメEは違います。他者の定義の中で心を燃やし、その設計思想を誇って、ドーモマインドに中指を立てる。ニンジャスレイヤーの基本テーマに反する、例外中の例外。デスドレインと並ぶ特異存在です。初読の時、マジでびっくりしましたからね。ボンモーのフェア精神をちょっとなめてました。彼のエゴはそのボディによって作られたものなのか、偶然にボディと一致をみた奇跡の産物なのか。あるいは、その二者に区別はないのか。

 そしてこれはノブザメEだけでなく、ウルベイン卿陣営にも言えることなんですが、数多くのテックと人工知能に彩られた本エピソードの動力が、精神論・根性論に統一されてるのすげえおもしろいですよね。ギャップの妙。高度に発展したテックは、理解できなくとも使用することができるってことですな。我々は仕組みなどよく知らずスマッホをポチポチしているし、理解できないからこそ自由な解釈を乗っけることができる。それは、そのテックがもたらす結果を正確に想定しないままに使用できるということであり、極めて危い無邪気なカラテと言えるでしょう。また、優れたシステムは冗長性を持つということであり、優れ「すぎた」技術は非合理を選びとることができるということでもありましょうか。うっかりミスをやらかすAIは、百点をとるしかできないAIよりもレベルが高い。命令をまっとうせず私情に走るススキであったり、殺人淫楽症AIデスドーモコアであったり、優れすぎるがあまり「欠点」を持てる(ススキは特に、作中でその負の成長が大きく取り上げられています)連中の、愛おしい優秀さよ。

電気の紐を殴った拳で世界をぶん殴れ

 嗚呼、ボーファー・ウルベイン卿!ドクター・ドーモの技術の威を借り、その大破壊を己のカラテと勘違いし、己が世界を征服せしめるのだと思いこんだ愚かで間抜けで増上慢な、器の小さいしょうもない小物!ギズボーンのようなろくに指揮もできないド三流の雁首を揃え、一流の傭兵ニンジャたちから嘲笑される、ごっこ遊びの電子エーゲ海帝国(笑)よ!……今、お前笑ったか?(笑)つけてんじゃねえぞ。そう、井の中の蛙を笑うことは誰にもできないのです。情報格差に胡坐をかいて、絞られた狭い狭い視界を頼りに地獄をもがき歩く彼ら当事者を笑うことだけは、ニンジャスレイヤーという小説において許されていないのです。何しろこれは赤黒の復讐鬼が「果たして戯言かな?」と問い返し、その戯言通り、都市一つ国一つを滅ぼしたところから始まった物語なのですから。嘲笑を向ける傍観者には、その動かせない前例が心臓を穿つカラテとして飛んでくる。卿が野望を果たせなかったという事実が示すのは、見通しの甘さでも、思想の誤りでもなく、ただ「カラテが足りなかった」、それだけなのです。インガオホーが語るのは、善悪でも罪罰でもなく、ただの物理現象です。

 いやー、私、ウルベイン卿、めっちゃ好きなんですよ。幼稚でしょうもない悪党であることは間違いないのですが、閉じた世界の中でたった一人カラテを磨き続け、それが実際外の世界の一流ニンジャたちに通じてるのめちゃくちゃかっこよくないですか?大真面目に自室の電気の紐でボクシングの練習を続けた狂人であり、実際、その拳が世界チャンプの顔面に届いている。覚悟完了したシェリフという趣がありますね。「私のない世界など全て無意味であり、全てが井の中の蛙よ」という台詞もあまりにかっこいい。己の周囲を囲む壁は、己ではなく外の世界を囲んでいるのだという断言。天球上に描かれた円の内外を決めるのは、自分なんです。自分で、あるべきなんです。彼の世界認識は確かに解像度が低く、筋も通らず、あまりにも単純なんですが、カラテ勝り、殴り抜くことができたなら、それが真実になるんです(タイクーン理論)。井の外の大魚、蛙を知らず。その精神ですよ。時代は混沌。いいことも悪いことも、全ての責任を己に乗っけて、どんどん好き勝手にやってゆきましょう。

未来へ……

 未来への動線が多すぎるし、書けなかったことも多すぎる。ノブザメEの今後の扱いも、オブツダンの真実も、ジェイドワスプの次の仕事も、レッドハッグがどうなるのかも気になる。ススキさんの冷徹なプロ精神の正体が心が未発達な子供の心だったというどんでん返しとか、デルタ・シノビはAOMでは珍しい戦闘専門ニンジャの集団であり憑依ニンジャの集団として新ザイバツに次ぐ強さなのではないかとか、ヘリコイドさんの跳弾空間支配狙撃が最高に熱いとか、ヘリコイドさんの狙撃戦術はシャーテックのICBS思想を小規模に成立させており素晴らしいとか、ヘリコイドさんが本エピソードで一番の推しだとかそういう話もしたかった。するか。しよう。ドクタードーモのドーモマインドさらっと出てるけどギンカク・キンカク・オイランマインド・ロブスター集合・ヘッズ集合知並にヤバいキー存在じゃねーのって話して締めるつもりだったけど、ヘリコイドさんの話をする。

 ヘリコイドさんの跳弾射撃の何がよいかって、本来、支配領域が点と線である狙撃というスキルを、概念拡張能力ではなく、テックと技術というモータル技能の研鑽により一つ上の次元に拡張してるところですよ。線で塗りつぶすことで面を成し、面で塗りつぶすことで空間を成すという、インストラクション・ワン並のごり押しで、狙撃を空間支配能力の領域までのし上げている。いいですね~。シガーカッターさんの肩スライド居合とかもそうなんですけど、ジツの領分をテックと技術で埋めているニンジャ超クール。あと、ICBM(都市間弾道スリケン)思想は確かに狂ってはいますが、「空間内の全座標を観測し、かつ、空間内の全座標に己のカラテを届けることができれば、空間を支配できる」というのは間違ってはないんですよね。要は自らのカラテ(世界を変容させ、真実を確定する力)を空間に満たせばそこは己の思い通りになるということです。その空間に「全世界」を代入したのがイカれているというだけです。なので、代入値を「己の処理能力で可能な範囲」と逆算して決定しているヘリコイドさんはめちゃくちゃ賢い。傭兵らしい夢のない割り切りであり、どこまでも正気であることの強さです。以上、未来へ……もとい、既に爆発四散したので未来はないヘリコイドさんの話でした。過去エピ待ってるぜ。

■note版で読了
■2019年11月17日