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イミテイション・ゴールド

 「男湯」の暖簾をくぐった先で俺を出迎えたのは、扉の開いたロッカーの群れだった。死んだ魚がこちらに口を向けてずらりと並んでいるようで未だ慣れない。ぶら下がり錆びついた鍵は力をこめると簡単に破断し、回さないまま引き抜くことができた。浴場へとつながるガラス戸は割れており、湿気も暖気もない死んだ風が室内に吹き込んでいる。気配はない。だが「タグ付き」とはそういうものだ。人工温泉の快楽に全てを奪われ、時間間隔すら失った連中は、呼吸をせず死ぬこともない。警戒を解かぬまま浴場を通りぬけ露天に出る。

 枯れ果てた湯船の向こう、崩れた柵越しに変わり果てた街並みが目に入る。街全域に張り巡らされた奴の管は、既に有馬の湯を啜り尽したにも関わらず、未だ蠢いている。忌まわしい蠕動の群れの根元、人造の金泉をしたたらせ輝く奴の看板が目に入り、俺は顔をしかめた。

365日 いそがしいあなたに「らくらく」を

ス ー パ ー 銭 湯 ら く ら く 湯


【続く】