無題

竜切り華五郎の余生と今後

 通り一遍の出会いと別れがあり、二月ばかりの月日が過ぎた。特に変わったことはない。午前7時に起き、午後11時に眠る。竜を切ろうが都を守ろうが生活様式にずれはない。細やかな変化をあげるなら、職を辞したことだろうか。大したことではない。仕事の時間に別のものが代入されただけだ。重要なのは枠組みであり内実に大きな意味はない。たとえば今日の来客対応も、植木の世話と置換されたものでしかない。

「華五郎殿にとってつらい知らせになりますが」

 役人を名乗る男は、恐る恐る切り出した。

「遠当ての小三次殿が亡くなりました」

 沈黙。ショックを受けたからではない。誰だか思い出せなかったからだ。

「この国にとってもダメージです。貴公を筆頭に、竜切りの五剣士はまさに宝。民たちの心の拠り所でもあり……」

 ああ、あいつか。「竜の呪いか」

「恐らくは。ただ奇妙な点もあるのです。呪殺とは通常、生前の力をもって行われるもの。竜であれば雷か爪か牙。しかし、小三次殿の遺骸は袈裟懸けに切り伏せ」

 剪定用の大鋏で役人の首を一文字に裂いた。なるほど、あいつは仲間だったか。先日、都に遠征した際に話しかけてきた不審な男。不審だったので切り伏せた。申し訳ないことをした。すっかり忘れていたのだ。

 役人の遺体を踏み越え玄関から外を覗くと、籠持ちが二人あくびをしていた。大鋏を一人に投げつけ、残る一人に組み付いた。体術、剣術、簡単なものだ。状況に対してスピーディに判断を下し、肉体をその通りに動かす。その過程の淀みを限りなくさらう。それだけのことが何故か皆できない。竜を殺すも人を殺すも同じだろうに。

 籠持ちの首をへし折りながら次の手立てを考える。小三次の件、役人はともかく、仲間はすぐに気づくだろう。それまでに殺さねばならない。問題は、残る三人の顔と名前も忘れてしまったことだ。それを思い出すのは、おそらく奴らを殺すことよりもはるかに難しいだろう。

【続く】