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もっと深いところまで掘り下げていいんだよ

短期的かつ大量の情報が流出しては消え、流出しては消えを繰り返しているデジタル社会で、私たちはその情報を深いところまで分析し、そのことについて時間をかけて思索することを怠けてしまっている。Twitterで何気なくリツイートするとき、果たして、元の情報を辿って元の記事を開いて、何ページまで読むだろうか。私たちは、情報過多を前にして、素早く処理をすることに慣れきってしまっている。具体的に言えば、斜め読みや拾い読みである。そして、考えたくない情報は読み飛ばす。あまりにインプットが多すぎるため、分析し類推する時間を削り、本来構築するはずの背景知識を得ないままやり過ごしている。背景知識によって発想することを「知っている」状態とするならば、深く読むことも時間をかけて考えることもしないのでは、いくら瞬時に多くの情報を入手できても「何も知らない」と同じことだ。人生の途中にデジタル文化が入ってきた大人でさえこうなのに、生まれて間もなくからずっとデジタルに触れている子どもたちはどうなるのだろう。

今回読んだ本によると、人間の脳は幼児期から青年期にかけて注意集中を覚えるらしい。この前頭前皮質と中央実行系の発達には大変時間がかかり、幼い子ほど注意集中ができないのもそのためである。この未発達の脳がデジタル媒体による刺激に曝され続けていると、注意散漫な子になってしまう。それは、青年期になっても認知忍耐力が育たず、深く読むことを妨害し、難しい言語から遠ざかり、共感力が低下し、書くものも劣化するという。

恐ろしいのは、短期的で新鮮な強い刺激を繰り返し受けると脳は、アドレナリンやコルチゾールといった「闘争・逃走とストレスに関するホルモン」を分泌させ、中毒を引き起こす。よって、「持続的な努力や集中力による報酬」を知らない子どもの脳には、デジタルの強い刺激は悪影響というのは言うまでもない。

そして、ベタであるが、読解力の発達には読み聞かせが有効らしい。読み聞かせという「本を用いた対話式読書」から子どもは、口頭言語、書記言語を獲得し、知識への扉が開かれる。また、子ども時代に「本」という存在を知り、読書することを覚え、「本を読むことは時間がかかるが読み終わったあとに続く思索が報いてくれる」ことを肌感覚で知ると、読後の思索で、批判的に考えたり内省しつつ自分自身の考えを持つと気づく。

本書は、単にデジタルを拒否するようなものではない。著者は非常に多角的な視野でもって「読むこと」について分析し、多くの文献を提示して説得力を与えている。物事は大変複雑である。その複雑さを解きほぐしながら解説してくれる。デジタル媒体がもたらすメリットは大きいこと、今後の発展に期待することについても述べている。

コロナ禍に際し、各地で電子図書館も広まりつつある昨今、著者のいう「深い読み」について知って、考える時間が必要みたい。


『デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳 ー「深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる』 、メアリアン・ウルフ (著)、大田直子 (翻訳)、インターシフト(合同出版)、2020年

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