研究所発AIベンチャーが世に出るまで

はじめまして、株式会社アダコテックの池田です。アダコテックは主に製造業に向けた異常検知AIソリューションを提供する会社です。私は6年ほど前にアダコテックにjoinし、主にビジネスサイドを担う創業メンバーの一員としてかかわってきました。その間の、紆余曲折、ベンチャーあるあるなどなど書いてみます。


アダコテックとの出会い
2014年9月半ば、虎ノ門にあるアメリカ大使館とホテルオークラ近く、黒々したビルの高層階にアダコテックを訪ねました。そこからアダコテックでの活動は始まりました。

画像2

今(2020年8月)でこそ「株式会社アダコテック」として独立したオフィスを構えていますが、当時は金融会社の一部スペースを間借りしていて(ちなみに、この金融会社さんはアダコテック設立当時から株主だった関係でアダコテックの体裁を整え、ヨチヨチと歩き出すまでを支援してくださっていた、大切な育ての親的存在なのです。感謝!)
パーティションで仕切られた6畳くらいのスペースにすべてをぎゅうぎゅうに詰め込んだ状態でした。
感覚としては体育会系クラブ棟のいちばん奥にある、伝説の部屋のヌシになったイメージです。

ランチ爆睡

「こういうのも会社なんだ。。」
銀行員時代にいろいろな会社を見てきましたが、その頃のアダコテックは見た目も仕組みもかなり今とは違ってて、「株式会社アダコテック」というよりは本当に「非公認サークル・アダコテック部」と呼んだ方がマッチするような状態でした。
継続的に取引のある「顧客」と呼べる存在がなく、散発的な売上でまったくキャッシュが読めない(回らない)、状況でした。
アダコテックにjoinして間もなく、いろいろな内部事情が分かってくるにつれ、「これは相当骨が折れるぞ!」と痛感することになりました。

そもそもアダコテックは何の会社なのか?
会社の資金面も切迫した悩みポイントではありましたが、何より苦しかったのは、アダコテックの持っている技術を「何に使うべきか」「誰が求めているのか」、つまり「何をしたらいいのか」明確になっていなかったことです。
この根源的な命題がクリアでないことは巨大なプレッシャーでした。
たとえるなら、「今どこにいて」「これからどこに向かうのか」、燃料のemptyが点灯している状態の雪原で早急に決断をせねばならない状況です。
引き返すだけの燃料の余裕はなく、一緒にクルマに乗っている仲間とそのご家族の生活もかかっている。。。気持ち悪くなってきました。

画像3


大急ぎで決めた3つの方針
アダコテックのテクノロジーとしての優位性は、入社前にホームページの内容からおおよそ推測できていました。
難解すぎて到底理解は不可能でしたが(涙)
まずは、
❶少ない手元資金の中で会社を存続させつつ、
❷何をする会社なのかをビジネスの中から、顧客の要望の中から探り出し、❸次のステージにアダコテックを進めていく、
この3つの命題をクリアする。そのことに、当面集中することにしました。

アダコテックの「コアコンピタンス=HLAC関連技術」
アダコテックはそのコアコンピタンスであるHLACの技術を実社会に適用、活用するスペシャリスト集団である、という前提に基づいて、
①ちゃんとおカネになる仕事しかしない。
②アダコテックの難しいホームページを読解して自分たちの課題解決をできそうだ、と理解したうえで持ちかけてくる会社さんだけを相手にする。
③1粒で2度も3度もおいしくなる「可能性」のある仕事を優先する。
と定めました。

①は当たり前の話みたいに聞こえますが、「いいねいいね~」と評価してはくれるけれど、結局一切商取引に発展しないことが多々ありました。
(今でもたまーにあります。)
例えると、それは田舎の中学生に「東京までバイトの面接に自腹で来い!」と言うようなものです。
そんなのに付き合って泣かされてきた轍はもう踏めない!
②は結構大事なスクリーニングポイントでした。
自分たちの課題が何なのかや、課題解決にかけるべき手順、コスト、社内リソースなど、落ち着いて整理判断してからアダコテックのドアをノックしていただける可能性が高まります。
実際、アダコテックのホームページを読解して、「この技術なら長年の『この』重要課題を解決できるのでは!?」と期待をかけてアプローチいただいた企業さまとは良い結果に結びつく事例が数多く出てきています。
例えると、駅のそば店や近所のファストフードで、「なんか、いい感じのを4人分1万円でよろ~♪」という雑なオーダーはしないと思います。
目的と用途のマッチングをよく吟味しないで直情的なアプローチいただく、お互いにとっての不幸を防ぐことができました。
③は当時まだ定義づけが不充分でしたが、リカーリングなビジネスに移行したいという思いがあったのは事実です。
ビジネスの黎明期にありがちな一点もの商売、作って・売って・おしまい、では続かないゾという思いと、過去に働いた企業でベース収入が読める状態がいかに腰を据えたビジネスだったかの実感、そしてGEのジェットエンジンなど先行するリカーリングビジネスを見て、単独でも協働でも、AI分野は納品してからも発展するビジネスなのだから親和性のあるスキームだと考えました。
何より、まだ黎明期にあるAI解析ソリューションを継続してアップデイトし続けることはわれわれの責務なのだ、という観点からも、必要なビジネススキームだと考えています。

間口を拡げて試行錯誤、暗中模索・・・
燃料が少なかったので大袈裟なことはできませんでしたが、お声掛けいただいたステキな企業様への協力出展や極力資金負担の少ない展示会などに少しずつ露出していきました。

2015スウェーデン大使館

画像8

画像7

画像4


巨大企業が億円単位をかけたブースの隣で、ほぼ手作りのデモ展示をしたり、具体的に展示するものが無いためにA4のプリントアウトを貼り巡らせてノートPC1台のみ、といった学祭の模擬店みたいな展示ばかりでした。
それでも、「わかる人にはわかる」みたいで、ILS2014TOP50位等に採択されたりする中で、次々と具体的な商談が寄せられるようになっていきました。

画像10

この頃は試行錯誤期であり結構いろいろな案件を引き受けていました。
「ベッドから起き上がる老人を見逃しゼロ・誤報ゼロで完璧に検出する」
「居室内で寝てるか・動いてるか・倒れたか1視点から全検出する」
「金銭機械に悪さしようするヒトの挙動を網羅的に検出する」
「駅構内の人の滞留状況を検出して転倒事故を未然に防ぐ」
「交差点に接近する物体のみを公共交通に通知する」
「内水氾濫で水没する市街地を検出する」
良好な結果もあれば、グズグズになっちゃったものもありました。

↓ 暗中模索しているところ

暗中模索

画像6

↑ 試行錯誤しているところ


外観検査との出会い
極力「来るもの拒まず」でケース積み上げをしている中では、ほとんどが動画を解析するお話ばかりでした。他にもソリューションがあるのに、なんでお呼びがかからないのだろう?他のは何に使うと効果的なんだろう?と本気で疑問に思うタイミングでした。
手元のプロダクト群を見返して、アプリとライブラリに区分けして、名前の無いものには命名して、何年も更新してないものは順繰りにアップデイトかけていこうか、、、みたいな議論を社内で進めていました。
そんな時、静止画による外観検査のお問い合わせがありました。
世界に冠たるおクルマ系大企業の、まさに主力製品に適用したい、という願ってもないお話!
ただ、当時手元にあったプロダクトは何年も前に作った言わば旧式で、既にいろいろ手直しポイントが気にかかっていた状態でした。アダコテックとしては、少し小ぶりなお客様でまずは試行錯誤いただいて、修正点を洗い出して、とか考えていた矢先だったこともあり、正直いったん断ろうかどうしようか逡巡しました。
でも、当時社員3人だったアダコテックに、こんな大企業が、しかもわざわざお越しいただいて(アダコテックは常に燃料が少なかったので、新幹線に乗るような出張はほぼしていない時期でした)、、、
これホントに採用されたらスゴイぞ、、、
旧式でも概要を確認することはできるよね、、、
このお客さん他にも適用可能性いっぱいありそうだよね、、、、

で、決めました。
「これは受けよう!」
ガッツリやり切って、HLACとアダコテックのタッグが実現する技術優位性を世の中に知らしめる鏑矢とするのだ!
というターニングポイントになる決断でした。

本物の外観検査の世界に触れる
お客様プロジェクトの中で、アプリケーション単独ではなく、「システム」としての外観検査が製造業の中でどのように扱われているのかに触れることができました。今でもすべてを理解したわけではありませんが。
ソリューションのスタート地点は、どちらかと言うとラボやR&Dで緻密に綿密に手作業で一つひとつトライアンドエラーを検証するのに適したものでしたが、実ライン適用が近づくにつれてタクトタイム(画像を解析して〇✕判断を100分の何秒)やデータハンドリング(解析した結果を誰に、どのように伝えるか)など、実務の要件に触れることが増えてきました。
それらに対応するうちに、プロダクトのバリエーションも分岐し、実務的に徐々に徐々に用を成すものになってきました。

新しいステージに向けてものごとが進み始める
クルマ系企業の検査プロジェクトと相前後して、セキュリティ企業の監視システムや、インフラ系企業のトンネル非破壊検査、金属加工の常時モニタリングなど、複数のプロジェクトが次々にリリース時期を迎える中で、
「やはりアダコテックのビジネスは『やりようによっては』大きく羽ばたく可能性があるのでは?」
「単純にソフトウェアを作って・売る、のではなく、多くの企業が使いこなせるように提供したら生産性に関する大きな社会課題を解決できるぞ!」
という議論が始まり、最先端技術に明るいUTEC、SaaSビジネスに多くの知見を持つDNX、という最強タッグより出資いただく話がまとまりました。
新しいスキルを持つメンバーにも次々joinしてもらい、アダコテックは刻刻と生まれ変わりつつあります。
これからも、留まることなく進化し続けるAI解析技術を、他ではできない課題解決の方法で、モノづくりの進化と革新を支える会社であり続けます。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?