見出し画像

【書評】山口真一『正義を振りかざす「極端な人」の正体』

 なぜ、ネット炎上は止まらないのだろう? 極端な人はいるのだろう?
 コロナの時代、そんな声はますます高まっています。なす術はないのか? ところが、どうもそうではないらしい。インターネット黎明期からこれだけ月日が経てば、対策も立てられるようになる。

 私もネット上では悪名高く、優しいはずのnoteなのに、早速罵詈雑言をぶつけられている。いっそ、“noteの奸雄”を目指したい! そんなわけで、武将ジャパンのコメント欄は毎回メラメラと燃える。そんな実体験と本書で得られた知見をもとに、今後について考えてみました。

正義を掲げる大賢者に捧ぐ

 武将ジャパンの私の記事に、毎回、おそるべき生真面目さでコメントをする、善良な方がいると把握しています。いくつか要素はある。

・『いだてん』以来、その方は粘着している。ファンなのでしょう!
・正義感が強い。自分は正義の側におり、不埒な歴史ライターを罰するという気持ちが強い!
・何かものすごい力に突き動かされているようだ!

 まさしく、正義を振りかざす「極端な人」です。その正体は、本書でもあります。その中身は是非とも読んでいただくとして。歴史サイトにしつこく粘着する心理、年齢、特徴をプロファイリングしてみることにしました。

 せっかくだから、卿には名前をつけましょう。ハンドルネームを名乗れないことを卑劣とは言いません。『正義を振りかざす「極端な人」の正体』には、実名制度にしようと、さしたる効果がなかった韓国の事例を紹介しています。
 ただ、文体から察するに、自分がアホみたいな名前で呼ばれるとショックは受けるとみた。そこで、八股殿と呼ぶことにいたそう。

 そんな八股殿から、こんな素晴らしいお言葉をいただきました。

◆『鬼滅の刃』が少年漫画を変えた!善逸・沼鬼・伊之助らで変えたのだ https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2020/09/20/150854

「歴史ライターの小檜山さんは、明治と大正とどちらが先か、ご存じなんでしょうか?」

 ははあ! こういう些細なことをつついて、勝ち誇った気分になられるとは! 自分は賢い、素晴らしい、そういう自意識がぷんぷんと臭ってきて圧巻ですね! 揚げ足取りと罵倒しません。かわりに、叩頭しつつ賞賛します。いざ!

 貴殿は高学歴なり、センスがいいなり褒められている、大賢者ではござらぬか? おそれながら申しあげますが、周囲の愚民裸虫どもはただ、あなたの肩書きだの学歴、そしてこのうえないめんどくささにおそれおののき、「ウザイっす」など、申せないだけでは? 無理もない。天地開闢以来の大天才、天上天下唯我独尊! 左様な方と論戦なぞ、とてもとても! どうか、そのことを配慮していただけませぬか?

 いやでも! そんなことを言ってはいけない! 私のようなアンチをしつこくねちこく攻撃する。そんな聖なる卿とその一党こそ、神の恩寵を受けた勇者! 愚民と異なり、世の真理を見出した方々なのでござろう? いわば、RPGで魔王を倒すパーティ。低視聴率? 関係ない! なぜなら我々こそ選ばれし勇者……そういう自覚があるのでござろう? あなたの未来には七色の彩雲がたなびく姿が見えます。これからも、それがしの記事にねちこく、しつこくコメントつければよろしいのでは? 学生時代は神武以来の大神童、そんな日本史好きだったのでしょう? 成人してからは、ネットで真実をたくさん見つけて、それで揚げ足取りをする快感に目覚めたのでござろう? 素晴らしい生涯とご趣味でございます。貴方様には誰も文句なぞ申せますまい。神に逆らうものがあれば、逆らうものこそ愚かなのですから!

 と、長ったらしい嫌味はさておきまして。罵詈雑言? いや、絶賛ですって。罵倒はしませんが、これまでの人生なり、性格なり、研究なり……『正義を振りかざす「極端な人」の正体』はじめ各種書籍等を分析しつつ、まとめてみましょう。

・『いだてん』が好きということは、2000年代に青年期を過ごしている。年齢はクドカンのプラスマイナス10歳前後と推察します。

・トーンポリシングへの警戒心か、そこまで自分を貶めたくないのか、やり過ぎたくらいの丁寧な言葉遣いをする。きっと善良で素直、表面的には良好な人間関係構築はできるのでしょう。結構なことではありませんか。

・学生時代の成績は優秀。なまじよい学歴なり、肩書きがあるからプライドは高い。

・そういう華麗な学歴や肩書きという鎧に守られているから、家族や周囲は「あなたは賢くて意見は正しい」と思ってくれる(内心はさておき)。

・真面目だから、初志貫徹しようと踏ん張ってしまう。ハマったドラマはずっとハマる!

・性格は極めて善良で、周囲からも人望がある!(少なくとも、私よりはずっとそう!)

・自分の知性なり、センスなり、界隈の空気に絶対的な自信がある。

・自分を褒めて欲しい! けど、それは言い出せない。ゆえに、自分の推しを褒めて欲しいと願うようになる。結果、自分自身と推しの境界が曖昧になる。しかも、そういう仲間同士でつながり合うので、無意識のうちにどんどん症状は重篤化する。ついでに言うと、組織ではなく個人名で活躍するクリエイターへの嫉妬心が半端ない。

・そういう自分のセンスを肯定するようなクドカンをともかく褒めたい、この世代特有のサブカルにどっぷり浸かっている。自己認識がいつまでも若い。だから皮肉屋で冷笑的。SNSではwwwを入れてしまう。

・でも、性格はそこまで極悪非道でもないから、嫌味にそこまでパンチがないのです。

・パンチ力がないから、ヒット数で稼ぐ。ホームランを打てるバッターは素振りの回数を自慢しないものですが。脳天を直撃する一撃を放つ勇気も嫌味も非道さもないから、ともかくヒット数でダメージを与えられると信じている。

・こういう行動をするからには、何か満たされないものがある。その満たされなさを推しで埋めたかったのに、邪魔する奴がいるから血祭りにあげたくなったと。

 昔、ある方と会話をしていまして。
「このアルバムはいまいちだな。前作の方が好きなんだ」
 と、私が言いました。するとその相手は、真面目な顔でこう反論してきたのです。

「そういうのはファンじゃないよ。ファンなら、ありがたい推しが新作を出しただけで、褒めてありがたがってこそ」

 批評の意味とは? 諫言の意義とは? そんな気持ちがよぎったのですが、八股殿のような模範的なファンとは、そういうものなのでしょう。

 じゃ、善良で真面目、関羽と上杉謙信も一目置くほど、正義の体現者である。そんな八股殿に質問ですが。

 オリンピックがこれだけ怨嗟と疑惑まみれになっているのに、そんなオリンピック礼賛を受信料でした『いだてん』は、無傷で十年後生き延びていると思えますか? そう思うのだとすれば、その理由はどのあたりにありますか? あなたのその素晴らしいセンスと仲間の声にあるのですか?

 そんな八股殿にこそ『正義を振りかざす「極端な人」の正体』がお勧めではあるのですが。コメントなりリプライを見ない自由も提唱されつつあるのです。
 貴殿が壁打ちをする未来は、既に形成されつつありますので。

ファンダムの有毒化に、海外は対処し始めた

 ネット全般にいる、正義を振りかざす「極端な人」の正体は明かされつつあるとは思います。本書を手に取りましょう。
 私は、せっかくなので、ドラマ評価やファンダムがどうして極端になるかを考えたいとは思います。日本特有でもありません。

 むしろ海外では、【有毒ファンダム】という概念がある。ファンだから、カネを落とすからありがたがられる。そういう時代は終わりに近づいています。日本でも早晩そうなることでしょう。

◆『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』監督、有毒ファンダム問題にコメント「僕もSWの全てを愛してはいない」 ─ 『最後のジェダイ』監督も回顧 https://theriver.jp/jj-rian-toxic-fandom/


激しい賛否両論を呼んだ『最後のジェダイ』には、公開直後から「正史から外せ」「エピソード8を作り直せ」との声が上がり、ライアン・ジョンソン監督やローズ役のケリー・マリー・トランにはバッシングや差別発言、脅迫の言葉が寄せられた。『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)ロン・ハワード監督にさえ、「抗議のために『ハン・ソロ』は観ません」とのコメントが送られる始末。『最後のジェダイ』をめぐる罵詈雑言があふれ、ケリーがInstagramから去った1年間について、マット・ミラー記者は「荒らしが勝利した1年」と記した。

 世界的ヒットを記録した『ゲーム・オブ・スローンズ』は。最終シーズンが気に入らないから作り直しを求める運動まで巻き起こりました。

◆ 『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン8をリメイクする嘆願書が100万超の署名を集める https://www.gizmodo.jp/2019/05/game-of-throwns-change-petition.html

 気持ちはわからなくもない。このシリーズは、ドラマが原作を追い越したシーズン後半は、伏線回収や展開に粗雑さが目立つようにはなった。推しが惨殺されて不愉快になる、あるいは嫌いな人物が安らかな退場を迎えていらっとする。そういう不快感はあっても仕方ないとは思いますが。
 とはいえ、署名をしたところで作り直しはない。もっと建設的なプッシュがあるとすれば、原作者のG・R・R・マーティンに「とっとと完結させろ! スティーブン・キングのダークタワーを見習え!」と迫ることだとは思います。とっとと”The Winds of Winter”出してよ!

 そういう嘆きはさておき。こうしたファンダムの署名は、ドラマ制作者を萎縮させてはおりまして。あれだけヒットを世に送り出しても、ファンにタコ殴りにされると思うと、そりゃ憂鬱にもなるというものです。
 ファンダムが制御を欠いてきているわけですな。

 そういうドラマ界隈に、対策をとっている元気いっぱいなチームも出てきました。Amazonプライムの『ザ・ボーイズ』です。

◆ The Boys boss explains why Stormfront has been gender-swapped for the series https://www.digitalspy.com/tv/a33546688/the-boys-boss-stormfront-gender-swapped/

 このドラマでは、シーズン2に登場するストームフロントが、原作では男性であったものが女性にされました。こういうジェンダースワップ(女体化あるいは男体化)に、当然批判はあった。そこが気に食わない人は別に見なくてよし! このドラマの制作者はそう開き直りました。

 ついでに、このドラマは内容ではなく、一気配信しないことへの批判がありまして。星一つレビューがつきまくったのです。ドラマそのものは好きなんですよ。好きの関心は無関心ですから、どうでもよければそもそも鑑賞しないし。好きの裏返しを憎悪に変えて、星一つをぼちぼちしまくる視聴者が出ちゃう。
 それを制作者は、ぬけぬけと茶化しました。

◆ 「ザ・ボーイズ」ホームランダー、星1つの低評価にブチ切れ寸前 https://theriver.jp/boys-homelander-1star-review/

 Amazonの売りって、レビューシステムじゃなかったっけ? それそのものを皮肉るとは、クソ度胸にもほどがあるというもの。

 ただ、作り手は心底うんざりしているとは思うのです。わけわかんねー星一個連打に。おまけに署名活動ってさ……。
 
 レビューの精密性を高める荒らし対処もできますが。

◆超解説『キャプテン・マーベル』米レビューサイトへの荒らし攻防戦 ─ 出演者らも呆れのコメント https://theriver.jp/cmarvel-review-war/

 ただ、そういうシステムだけではなくて、もっと人間としての対応を求められる時代になっているとは、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』を読んでいても思います。
 だからこそ、『ザ・ボーイズ』は迎撃システムを発動させたのだとは思います。星一個つける理由はわかるよ〜ネタにしちゃえ!

 そうです。この【理由】探求が、新時代の荒らし対策になるとは思います!

【集団浅慮】は判断を誤る

 チャーチルはかつてこう言いました。

 民主主義は最悪の政治体制だ。これまであった、民主主義以外の全ての政治体制を除けば――。

 つまり、彼が生きた20世紀までは、最善だったということ。
 じゃあ、21世紀は? アフターコロナの時代は? 民主主義の弊害を分析し、次のよりよい政治形態なり意見の伝え方を考えていくべきなのでしょう。20世紀末期以降のインターネットが、民主主義はほんとうに最悪の政治体制になりえると証明しました。

 それから月日が流れ、【集団浅慮】の分析によって解明はされてきています。『正義を振りかざす「極端な人」の正体』には、インターネットがいかにして人類の意識を変えたか、詳しく説明されています。是非とも読みましょう!

 そういう説明は、あの本に任せまして。ここはわかりやすく、【集団浅慮】の例を、『麒麟がくる』を題材にあげてみましょう。

◆麒麟がくる:今井宗久がたてた“お茶”に視聴者ザワつく 「胸騒ぎする」「無駄に怖い」…“毒なし”に安堵も https://mantan-web.jp/article/20201011dog00m200059000c.html

「お茶が出るだけでざザワつく視聴者たち」「お茶が出てくると何か入ってるんじゃないかと不安になる」「この大河はお茶のシーンが無駄に怖いw」「そんなにじっくりお茶たてないで、胸騒ぎするから……」「お茶シーン恐怖症」「お茶に不穏なBGM乗せるのやめぇええ」といった反応があったほか、光秀が無事、お茶を飲み干すと「あ、宗久のお茶には毒は入ってなかったのね」「この大河にして珍しい『飲んでも大丈夫お茶』か……」「とりあえずこのお茶は大丈夫だった」と安堵(あんど)の声がもれた。

 ネットでざわざわ盛り上がったファンに喧嘩を売りに行くようで申し訳ありませんけど。これぞまさしく、教科書に掲載したいくらい典型的な【集団浅慮】ですね。

 【集団浅慮】については、もう実験済み。ものすごく簡単で、正答率がほぼ100パーセントの問題がある。その正答率を下げるにはどうすればよいか?
 誤答を堂々と発表するサクラを集団内に送り込めばよいのです。迷いつつ、あの人がああも堂々と言うのなら……そう正解を捨て、誤答を選ぶ人が増え、正答率がぐっと下がります。

 今井宗久のお茶についていえば、目撃者もいるし、殺す動機もメリットもない。今井宗久がそんな馬鹿なことをする理由がないからには、安心してよいもの。
 でも、SNSの大河クラスタがお茶の話題をして、RTして、いいねを稼げれば、どんどん広まってネットニュースにもなる。有名なレビュアーだってブロガーだって取り上げる。

 これがドラマだったら無害ですけれども。実世界ではやめましょう。デマは流さないようにしましょうね。そのあたりの弊害は、藤野裕子『民衆暴力: 一揆・暴動・虐殺の日本近代』をお勧めします。

 【集団浅慮】は、ノリだの空気だの、そういう軽いものでもないのです。じゃ、なんで【集団浅慮】に人は乗っかるのか?
 気持ちがよいのです。皆で一体感を味わい、ワイワイ乗っかる。そういう気持ちがイイ。
 それに生々しい話をすると、アクセスも稼げるんですよ。放送後、ツイートを拾って加工すれば、ファンがそれなりにアクセスする記事ができると。

 人間みなそういうものですけれども。こと日本って、そういう空気を読むスキルがとても大事ですもんね。学校でそう仕込まれますもの。ファンはみんなでペンライトを振ってこそ。

 そういう「ネットで話題!」記事のからくりも、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』では解説されております。やはり読まなくちゃ!

【演繹】の世界に生きること

 さて、話を八股殿の解析にでも。
 八股殿の華麗なる教養や言葉遣いには、価値観がきっぱり見て取れます。
 なくよ(794)うぐいす平安京。
 いいくに(1192)つくろう、鎌倉幕府。あ、今は違ったっけ?
 徳川幕府には将軍が15人いる。
 日本の歴史のテストは、こういう演繹、ときどき帰納で片付く、点と点を結ぶ答えができれば割と点数が取れます。マークシート試験はまさにそれですね。

 けれども、これも日本らしいかも。海外だと、”Why“、理由を問うことを教える側も、教わる側もするのです。
「どうして明智光秀は織田信長に謀反を起こしたのでしょう?」
 いいから、信長の死後、誰が天下人になったか答えなさい! そうなりそうではありませんか? 歴史ファンの話しあいならまだしも、学校ではそうなりそう。むしろ、理由を聞くと“空気を読めないアホ”と笑われそうな空気すらあったりして。

◆科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会) https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2020/10/post-94726.php

ガリレオ 日本ではなぜ?と質問するということにもすごい抵抗がある。例えば学会で質問するとき、大御所の発表に対して「純粋に知りたいから聞くんですけど」とわざわざ前置きしたりする。つまり本当にフラットに「Why(なぜ)」と聞くことがものすごく難しい。

これはすごくまずい。欧米では「なぜ」を探ることを楽しんでいるカルチャーを感じるのに......。

 こういう教育をずーっと受けてきたら、揚げ足取りだけが大好きになりますって。私も学生時代、散々やられましたので。

 戦争経験者、被災者、性犯罪被害者。かれらの証言から矛盾や細かいミスをして、あげつらい「嘘つき!」と踊り出すのも、まさしくこういう心理です。そういう御自身は、今まで無謬かつ清廉潔白な人生を送ってこられたのか、甚だ疑問ですけれども。

 八股殿は、小鼻を膨らませつつ「こやつは歴史ライターなのに、明治と大正の区別もつかない!」と書き込んだわけですけど。まさか本気で信じていませんよね?
 どうしてじゃあ、こういう低劣な(低劣である自覚があるからこそ、罵詈雑言を期待しているんですね?)ことを書き込むのですか? くだらないことなのに、わざわざコピペまでして、高揚感と正義感とともに、ポチッと書き込む。
 ここはなぜ、こちらが間違ったか、理由を探してみませんか?
 この記事は『鬼滅の刃』をテーマにしていまして。あの作品は「大正」を頻繁に使っているからこそ、「大正時代」の規範として書いたわけですね。そういう【理由】という第三の点を推察すれば、想像できそうな話なのですが。
 あ、そうそう。八股殿はコピペ大好きですけど。あんまり本は読んでいないのではありませんか? 言動の端々にそんな兆候があります。

 でも、ご安心ください。
 何も、こういう演繹と帰納でドヤ顔しちゃうのは、何も八股殿だけでもありません。

 『麒麟がくる』の義輝殺害は、あえて史実として伝わっている最期とは異なる演出を用いました。そのことを得意げにSNS等で「ここがちがう! 歴史ファンの私にはわかる!」と指摘する方がたくさんおられたのですが。
 そこはむしろ、史実と異なる描写にした【理由】を探りたいところ。どういう演出の意図があるか、探るとより面白くなりますよ!
 知識マウンティングだけをしたくて、ドラマを見て感想をつぶやくって、あんまり楽しくないと思うんですけど。いかがかな?

ファンダムにいる極端な人たちの【理由】を探る

 こういう自分なりの分析と【理由】の解析をしつつ、朝ドラと大河ファンダムの謎解きでもしていきたいと思います。

◆『麒麟がくる』放映前、放映まもなくの頃、「どうせダメでつまらない大河だ」と言い切る記事が多かった心理は?

書き手が『いだてん』のファンである可能性はありませんか? 『いだてん』に自分がこんなにも夢中になったのは斬新であるから。その翌年は、自分ほどセンスがよい目線からすれば保守的でくだらないものになる……そういう悔しさの裏返しです。『平清盛』のあと、『八重の桜』放映前および初期でも見られた現象です。

◆『麒麟がくる』の駒や東庵は、制作側が意味を込めて出しているし、重要な役割。それなのに「いらない」と言い切る心理は?

正史重視、稗史軽視。そんなお受験対策の歴史学習時代のままならば、そりゃそうなるでしょう。

◆『まんぷく』放映前、放映まもなくの頃、「これぞ王道!」と言い切る記事が多い心理は

『半分、青い。』アンチの願望反映です。主人公モデル夫の国籍変更の時点で、王道どころか外道でしたが。

◆『半分、青い。』は「デリカシーがない!」と激怒している一方、『わろてんか』、『まんぷく』、『エール』の無神経極まりない幽霊描写は問題視しない心理は?

結局、自分の判断じゃないのでしょう。朝ドラ通界隈のローカルルールってやつ。空気読め! 戦争を挟んでおきながら、幽霊をホイホイ出すなんて無神経の極みなんですけどね。NHKには抗議の声が結構届いていると思いますが。私が探った限り、NHKのみなさまの声に届いた批判意見は、『半分、青い。』よりも『まんぷく』が多かったようですが。
でもいいんです。界隈の空気しか読まない人には届かないもん。
あとついでに言いますと、戦争がらみの無神経描写を問題視しない人って、端的に言えば近現代史知識がおざなりなのです。日本では学校教育で、近現代史をみっちりしないことがあまりに多い。そういう状態でも難関大学入れますからね……。

【悲報】実家に帰省したら親がネトウヨになってた…元凶の「ビジネス右翼」を生む歴史と構造。そして治療法はあるのか|古谷経衡(文筆家)|FINDERS https://finders.me/articles.php?id=306

古谷:本を読んで自分なりの世界観を構築するという訓練ができていなくても、この国ではそれが社会的な出世に関係のないことですから。国会議員がいい例ですね。片山さつき氏は東大、足立康史氏は京大を出ているけどメチャクチャなことばっかり言ってるじゃないですか。あといま「LGBTは生産性がない」で大問題になっている杉田水脈氏は地方国立大(鳥取大)出身ですが、なにかにつけて陰謀論でネトウヨを焚きつけるようなことばかり言っている。すごく話題になった「田母神論文」だって、アカデミックな意味での論文とは到底言えない、コミンテルン陰謀論を元にした感想文レベルですが、あれでも航空自衛隊のトップになれる。

なんでこんな人たちが議員になってしゃべっているのか。それは繰り返すように日本において近現代史のきちんとした知識がなくても、社会的に上に行けるから。会社の役員にもなれるんですよ。何かを読むとしたら、長文ではなくネットニュースの「ヘッドライン」だけですね。

◆『半分、青い。』から2年以上経過しても、同じ脚本家ドラマのタイトルだけで激怒する心理は?

これぞ極端な正義感です。でも、投稿している本人は、いい加減しつこいことも、己の正義中毒にも無自覚なのです。

◆やたらとハイテンションなアンチ心理は? 嫌いなら見なきゃいいでしょ。

そうなんですよ。私も『エール』は見てませんってば。
それなのに、北川悦吏子さんのドラマは、こういうことを言い出す人がもういる。
「あの脚本家の名前を見るだけでうんざり!」
「タイトルの時点で許せない!」
「でも見ます!」
いや、見なきゃええやんか。そう突っ込みたくはなるのですが。『半分、青い。』の時も、苦痛を堪えて見続けた自慢をされました。どういう苦行自慢心理なのか? そんなことをして何か悟りを開けるのですか? 登山なり滝行ならばまだしも理解できますが……。

 あ、ちなみに私は『ウチの娘は、彼氏ができない‼︎』は見ますよ。楽しみだな。感想も書きますので。

 あと現時点で、彼氏ができないのは「オタクだから」と断定されてませんよね。それなのにキレ散らかし始めた自称善良なるオタクの皆様は、ちょっと早合点しすぎではありませんか?

 ドラマ通からすれば、外道のドラマを外道がレビューする。曹操と手を組む司馬懿って感じでゾクゾクしません? って、流石にそれは自己評価高すぎるか!

◆菅野美穂×北川悦吏子で新ドラマ「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」1月放送 https://www.cinemacafe.net/article/2020/10/12/69385.html

 これぞまさに正義感。と、その弊害ですね。
 ネット以前は、プロのみが批評の中心でした。基本的なスキルとして、登場人物の好悪や正義感と、作品評は切り分けることを心がけてはいました(私も一応そこは考えています。全然そう言っても相手には通じないけど)。そういうスキルがない視聴者が今はレビューをつけられる。

 登場人物の性格が嫌い。性的なものも含めて魅力を感じない。出演者スタッフの言動が嫌い。嫌いな同僚が推してる。そういうわけのわからない理由で評価がつけられるからには、玉石混交、烏合の衆状態にはなります。

 ドラマのファンダムには、2020年になっても個人攻撃を、正義感からやらかす人がたくさんいる……作り手も気づいて、次の一歩を踏み出していることをお忘れなく。

極端なファンダムになっていませんか?

『正義を振りかざす「極端な人」の正体』を参照にしつつ、極端なファンダムの特徴でも。

◆偏った情報を飲み込んでいませんか?

アンチハッシュタグはまさしくこういう偏った情報の煮凝り。そういうものを見ていると公言できるあまりに明快な基準の方のコメントは、無視する権利が私にもあります。

◆自分の”正義感“に酔いしれていませんか?

だから、『半分、青い。』をそもそも見ていない、見るのをやめたのに「あの女のドラマはデリカシーに欠けて侮辱的だ!」とどうして言い切れるんですか?
”正義感“に酔いしれているから、ですよね?

◆客観視しましょう!

「あの脚本家だけはゆるさーーーん!」
「クズドラマめえーー!」
アンチハッシュタグを使い、そう朝から晩まで書き込んでいる。そういう自分の姿を客観視してみませんか?

◆距離を置きましょう!

なまじ朝ドラは、週5ですからね。煮詰まりやすくて辛いですね。気持ちはわかります。でも、忘れましょう。それに視聴者の大半はそうしているんですよ。朝ドラのことなんて忘れて、一日のスタートを切っているんです。大河ももちろんそう。

◆他人の意見だって尊重してもよろしいのでは?

一般的なファンに突っかかっていかないでくださいよ。だからこそのそれがし。ガンガン殴ってきてください。大歓迎ですよ〜。ただ、会話がそもそも苦手なので、返事には期待しないでください。できることなら、ドラマ作り手なり出演者の弾除けになりたいくらいですよ〜。

 私もいろいろイライラしたもんですが、朝ドラとは距離が置けたし。別にアンチ『半分、青い。』軍と合宿するわけでもないし。ま、今は吹っ切れました。

 それに今は、ドラマレビューをしてよかったと心の底から思えるんです。群集心理のよい勉強になりました。これからもいっぱい考えて観察します。ほんとうに皆様ありがとうございます。
 
 確かに炎上する世の中は怖い。けれども、これは有史以来のことではある。ドラマのことを思えば、『孫子』のことばかり考えてしまう。

 かつては一軍を率いる将でもなければ実感できなかった、流れるような人間心理。それをファンダムを見渡せば実感できる。私たちはそういう時代に生きているのです。そして時代は、激流のように流れ、変わり続けます。しがみついていきましょう。

親愛なる八股殿へ

 そうそう、「八股殿」の由来ですが。せっかくなのでここから有料で。ろくなこと書いていませんから、買わなくて結構ですよ。

続きをみるには

残り 278字

¥ 1,000

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が参加している募集

読書感想文

よろしければご支援よろしくお願いします。ライターとして、あなたの力が必要です!