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『いだてん』の予言と答え合わせ、そして『青天を衝け』のこと

 どうやら東京オリンピックが1964年ではなく1940年に近づきつつある昨今。こんな意見もあります。
「でも、オリンピックを開催して、始まって終わったら、“よかった”ということにされるんじゃないの?」
 ええ、そうなるかと思います。どうしてそう思うか? 『いだてん』周辺を見ればおわかりいただけるかと思います。ではちょっと私の観察記録でも。

 2019年大河ドラマ『いだてん』――2桁を切っただけでもニュースになる大河ドラマ枠でありがなら、以下のような記録を残しました。

・最低視聴率3.9%を記録
・最低視聴率ワースト19まで記録
・年間平均8.2%、それまでの12.0%からマイナス3.8%を記録
・出演者不祥事が立て続けに起こる

 こうした数字は割とすぐに出てきますので、私から付け加えさせていただきます。

・『ポツンと一軒家』等、裏番組固定層を育て枠そのものを破壊した。翌年の『麒麟がくる』は迷惑を被った
・前半部主役の金栗四三は熊本出身。震災もあった熊本ご当地大河を遠ざけた。加藤清正大河が遠かったということ
・受信料を使って政治的イベントを盛り上げた。公共放送の理念を破壊しかねない暴挙
・インターネットニュース、インターネット世論誘導に疑念を持たせかねない報道ぶり
・観光イベントの参加者が一桁だけ、大河ドラマ館も集客に苦戦。大河といえば観光貢献というモデルを破壊した
・海外で「日本の公共放送がこんなドラマを作った」と判明したら恥ずかしい……

 と、ここまででも十二分に有害だと思っていたわけですが、今これを書くために『いだてん』と最低とかけて検索したところ、苦笑していました。
 視聴率は苦戦したけど!
 ファンや業界人にとっては最高! 神回しかないッ!
 そういう記事が出てきます。はぁ、そうですか。一番印象的であったのは「最低だけど最高じゃんね!」というフレーズです。興味ある方は調べてみましょう。
 ちなみに私はぼかされて修正されますが、放映前予想でも最低視聴率更新では当てました。ただ、その他諸々がここまで黒いとは流石に想像つきませんでしたよ。

 つまり、こうしたデータの上でも実質的にも大失敗だったにもかかわらず、成功したとするテクニックは『いだてん』で学習済みということ。
 あのドラマでむせかえるように漂っていて不愉快であったのは、評価する側にある謎の貴族意識でした。私も大河レビューをしていて、かつけちょんけちょんに貶したものだから、朝倉義景が織田信長を罵倒するような調子の話はいくらでもあります。あ、私が信長と言いたいわけじゃありませんけどね。
「不埒な! そちはドラマ通、オリンピック通でないからわからぬのじゃ!」
 こーゆーやつ。『柳生一族の陰謀』であったような話。これは私が特に極悪非道ってだけでもなくて(まあ私は極悪非道ですけど)、ちょっと軽く疑念を呈するような記事があがるだけで、ネットでは非難轟々でしたから。
 ファンダムが大好きな「ハッシュタグでトレンド制覇」ってやつも、アルゴリズムの仕掛けを知っていれば、割と簡単にできるとわかりますけどね。

 で……あのファンダムを見ていけば、ネットなりマスメディアがどう落とし前をつけるかも見えてくる。

「感動した!」
「号泣した!」
「それでもファンは高評価!」
「盛り上がるハッシュタグがワールドトレンドに乗っかった!」

 個人的にはオリンピックは中止しかないとは思っています。それでも開催のメリットがあるとすれば、メディアなりSNSユーザの踏み絵に使えるということ。しかもこの踏み絵は踏んでいる側も気づかないでしょうから。色々今後使えるといえばそう。。

 そしてここからは、答え合わせです。

なぜ朝日新聞記者が大河主役なのか?

 オリンピック絡みでメディアがだんまりという批判はつきまとう。そんなのわかりきってたんじゃないですか?
 特に朝日新聞。
 ネトウヨの定義のひとつに、朝日新聞を叩くかどうかが入るとされて久しい。そんな朝日新聞記者が、『いだてん』後半部・田畑政治です。
 田畑のことは調べた。そのうえで言い切ります。東京オリンピックの話で田畑を主役にする理由がわかりかねる。他に相応しい人物はいる。

 でも、物語の整合性でなくて政治がらみと考えれば腑に落ちる。朝日記者を主役にして、大河とオリンピックが成功したら? ネトウヨと言われる層もコロリと味方になるかも!
 馬鹿馬鹿しい邪推と言い切れればよいとは思います。大河とオリンピック両方成功させるという条件達成ができるかどうかもわからないというのに。そんな脇の甘さがあるとはいえ、人間とはそういう誘惑に弱いものですから。

 それに、朝日新聞記者が主役だったら、朝日系のメディアは『いだてん』を褒めますよね。むろん放送時は褒めてましたよ。なんだかんだで朝日の力はある。朝日やメディアがちぎれんばかりに尻尾を振って褒め称えたら、そりゃ人間心動きますよね。それが「業界人は高評価!」の仕掛けじゃないですか。

嘉納治五郎推しは?

 『いだてん』は前半部と後半部を繋ぐ人物として、嘉納治五郎が大きく取り上げられていました。ただ、柔道家としての側面よりもオリンピック招致者という位置付け。嘉納が1940年招致の途上で命を落としたからこそ、その遺志を継ぐかのように田畑が邁進する描写でした。
 これがなんともオカルトで、嘉納の亡霊が何かに取り憑いたような不気味な描写が出てきたものですが。柔道家よりもはや霊媒師のようなスピリチュアルな味わいでした。
 そこまで嘉納プッシュしながら、彼にとって悲願であったはずの柔道が正式協議として東京五輪採用される過程がすっ飛ばされていた。

 一体嘉納をどうしたいのか?
 答えは見えた! 引用してみましょうか。

JOC経理部長の飛び込み自殺で囁かれる「五輪招致買収」との関係…竹田恒和前会長、森喜朗前会長、菅首相も疑惑に関与 https://lite-ra.com/2021/06/post-5912.html
 このとき、里見会長は「そんな大きな額の裏金を作って渡せるようなご時世じゃないよ」と返したが、菅官房長官は「嘉納治五郎財団というのがある。そこに振り込んでくれれば会長にご迷惑はかからない。この財団はブラックボックスになっているから足はつきません。国税も絶対に大丈夫です」と発言。この「嘉納治五郎財団」とは、森喜朗・組織委前会長が代表理事・会長を務める組織だ。
 この菅官房長官からの言葉を受け、里見会長は「俺が3億〜4億、知り合いの社長が1億円用意して財団に入れた」とし、「菅長官は、『これでアフリカ票を持ってこられます』と喜んでいたよ」と言うのだ。
 なんとも衝撃的な証言だが、しかもこれは“酒席でのホラ話”ではなかった。というのも、「週刊新潮」の取材に対し、セガサミー広報部は「当社よりスポーツの発展、振興を目的に一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センターへの寄付実績がございます」と嘉納治五郎財団への寄付の事実を認め、さらに「週刊新潮」2020年3月5日号では嘉納治五郎財団の決算報告書を独自入手し、2012年から13年にかけて2億円も寄付金収入が増えていることを確認。関係者は「その2億円は里見会長が寄付したものでしょう」と語っている。

 嘉納治五郎が不穏な推し方をされているのは、『いだてん』に限った話でもない。そのカラクリが明かされたわけですね。

東洋の魔女推しは?

 『いだてん』では後半、東洋の魔女を推していました。あのドラマの不自然なところは、推す競技が理解できないこと。金栗のマラソンはわかる。そのあとは田畑がらみ水泳ね。まあ、これも理解できなくもない。それが最終ラップ突入したら女子バレーボールぅ?
 確かに東洋の魔女は快挙っちゃ快挙ですよ。でも、ロサンゼルス五輪金メダルのバロン西をまるごと消しておいて、メダルを取ったからという理由が成立しますかね。

 それに、私は東洋の魔女しごきの邪悪なパワハラとセクハラ気質を知っていたので、2019年にそれを賛美するセンスも理解できなかったのです。
 でも、答えは出ましたね!

東洋の魔女、ヘーシンク…菅首相 五輪強行リスク問われ64年思い出話 初の党首討論で6分45秒― スポニチ Sponichi Annex 社会 https://www.sponichi.co.jp/society/news/2021/06/10/kiji/20210610s00042000206000c.html

 なんかそういう層にはすごく響くということ。コーチ役が脱税して時間削られて残念でしたね。東洋の魔女のイメージがどんどん悪化させられて気の毒になるばかりです。

 それにしても、『いだてん』はパワハラ軽視も甚しかった。人見絹枝の夭折は無理なスケジュール管理、今ならばパワハラによる死という側面がありました。しかし、ドラマではそんなことを描くわけもありませんでした。

どうして業界人はプッシュしたのか?

 オリンピック絡みは「干す」だのなんだの脅迫が罷り通る。そりゃあの脚本家さんだってつらいですよね。彼は当初こそ自分の持ち込みだと言っていたものの、そのうちNHKからダンボールで資料が届いたと打ち明けています。彼が焦燥していたという目撃談がありますが、さもありなん。ついでに言えば朝ドラ『エール』の脚本がらみでごたついた意味も見えてきますよね。

 NHKだって、業界人だって、ドラマレビュアーだって、そりゃ干されたくなければ空気を読むでしょう。猟犬がただのお座敷犬になったらそりゃ気の毒だけど、少なくともそれで衣食住は保てますからね。仕方ない……のかな?

復興五輪は嘘だったと、わかっていたのでしょうか?

 2021年になると、嘘だとキッパリ言い切られた「復興五輪」の掛け声。コロナに勝った証? それとも? もう人のためなんて大嘘だとわかりましたよね。

 でも、とっくにそうでしたよ。東北では、オリンピックのせいで復興建築資材や人材をとられ、高騰し、かえって復興が停滞していた。

 『いだてん』では、関東大震災で亡くなった女性が、オリジナルキャラクター落語家・五りんの祖母という設定でした。彼女がオリンピックをめざしていたから、オリンピックは被災者のためだと思えるような誘導をしていた。

 復興五輪名目を後押しするようなドラマをNHKが作って流す。『あまちゃん』や『八重の桜』とスタッフとキャストでそれをさらに推す。
 ひどい話だと思いましたし、『あまちゃん』と『八重の桜』すら汚すような愚行そのものだと思いました。
 『いだてん』をやたらと褒める人って、結局、東日本大震災のことなんてどうでもよかったんじゃないかな。そういう疑念を感じましたし、当時は復興五輪の嘘っぱちについて言おうものなら、さんざんバカにされましたよね。

 自分たちがドラマを楽しむことだけが大事で、そのドラマが被災地を踏みつける現実なんて直視したくもない。そう指摘する声なんて冷笑するつもりなのかと、私はうんざりしました。せめてギルティー・プレジャーでも持って欲しかったけれども。

 私は『いだてん』批判をしたところ、ファンから「私たちの心を傷つけた!」と言われていたことは知っています。でも、あのドラマで傷つけられた人だっていた。

 改めて、復興五輪の嘘が何をどれだけ傷つけたか。そこも考えて欲しい。

プロパガンダに騙されたと認めない人々

 それでも前述のように、ファンは熱狂的でした。
 オリンピックそのものが政治イベントと判明し、人命すら脅かすとなった今、流石にあのドラマを褒めることは難しいだろう……と、思っていたこともありますが、そんなことはありません。
 “いだてん”と検索をかければ、SNSにはアカウント名にまで入れて推している方はおります。どんなにあのドラマ絡みの史実トリビアを集めたところで、歴史と現実をすりあわせて磨耗し、プロパガンダの手法でも学ばねば意味がないとは思うのですが。

 せめてものギルティー・プレジャーは欲しかった。私はタランティーノ映画を楽しんでいたのですけれども、あの作品に潜む差別意識を意識するようになってからは、心の底から褒めることはできなくなりました。作品としては良いけれど、でも……そういう気持ちはある。
 『いだてん』ファンダムはどうかというと、ともかく「最高じゃんね!」以外は認めない雰囲気があります。日本のファンダムはそういう傾向が強いのかもしれません。推しは何がなんでもプッシュする! それこそ正義! そういう姿勢に私は疲れました。ゆえにファンダムそのものに近寄りたくもない。歓迎されてもいないでしょうが。

 それと、『いだてん』については袋小路といいますか。もう、引き返せない雰囲気がありますよね。
 ファンダムがあまりにおかしいと思ったのは、あのドラマのファンが野党議員のアカウントに、
「人見絹枝もつけていた旭日旗を敵視するあなたの党はなんなんですか!」
 とリプライしているのをみた時です。これはまずい。プロパガンダとして立派に機能していると痛感しました。

 しかし、そのあとも、感想投稿なり大河ブログをみると、うれしそうにこういう趣旨のことがある。
「今までオリンピックに興味がなかったけれど、『いだてん』のおかげで意義がわかりました!」
 うーん、それって洗脳完了じゃないですか。案の定、同一人物がSNSで雑なあ野党批判やフェミニスト揶揄をネチネチとしていたりして。流されているなと。ま、人の意見は尊重しますけれども。
 それでいいんでしょうか? ドラマ経由で、歴史経緯を丸呑みしてお勉強って。あまりに危ういのでは?

 とはいえ、なまじ大河ファンなり、サブカル通やドラマ通を自覚している方って、自信がありますから。敗因分析をするよりも、ファン同士で盛り上がっていた方がよいのです。

「最低だけど最高じゃんね!」
 この文言はしみじみとつくづくと危険だと思った。どんなことであれ、まず失敗した、敗戦したと認めなければ何も始まらない。いかに酷い結果であろうと、まず病名を知らねば対処すらできないのです。
 けれども、「最低だけど最高じゃんね!」という文言からは現実逃避をしているだけの姿勢が伺える。
 一番危険な姿勢です。

 ではここから先は投げ銭追記。『いだてん』でなくて『青天を衝け』です。

歴史に詳しいはずのあの人はなぜ間違いだらけの『青天を衝け』を推すのか?

 ミスをあげたらきりがありませんが。
 防具なしで木刀で撃ち合うとか。
 池田屋で土方が即座に到着して永倉が見当たらないとか。
 禁門の変から会津藩が消失するとか。
 戦国大河でこれをしたら批判必至、幕末だって『花燃ゆ』と『西郷どん』ではバレたレベルのしょうもないミスが見逃され、ほめそやされるのか?
 これも政治案件なんですね!

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『いだてん』の予言と答え合わせ、そして『青天を衝け』のこと

小檜山青 Sei KOBIYAMA

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