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『今ここにある危機とぼくの好感度について』第1回

  タイトルが長い! 意欲的なドラマ。見るつもりはなかったけれど、設定を知れば知るほど見るしかないと思いました。見て正解。NHKにもやる気がある。

広報に使う金がある大学、いいですねえ

 実際の大学関係者が本作を見てどう思うか? そういうことは気になりますが、とりあえず帝都大学はお金ありますね。広報なんてそこまでリッチじゃない大学は、それこそ非正規なんじゃないですか。それが元アナウンサーとは!

 とはいえ、荒唐無稽とも言えない。
 大学はカツカツだということを本作は描いています。少子化。国は予算を削る削る。きっちりセリフで皮肉ってますが、そもそも政府は研究が何かわかってない。何本か研究やれば当たるだろ。当たりそうな研究に絞ればいいだろ。そういうわけのわからんことを言い出す。それって全然効率化じゃないし、やってはいけないことなのに、知識や学問に興味がない誰かが首を突っ込むせいでメタメタになる。そういう現状をうまく皮肉ってます。
 となりゃ、儲かる花形をちやほやするまでだ! そういうところに大学すら突っ込むドツボ。それを顔よし、好感度高し! そんな軽薄主人公が盛り上げていくわけですが。

好感度とイケメンだけで世を渡る男の宿命

 松坂桃李さんが主演で、中身のないペラペラ男に扮しております。
「スポーツって体を動かすことだと思うんですよね」
 というセリフは最高。本当にくだらねー。でも政治家でもテレビに出てる研究者でも、こういうのいますよね。いや、それ別に、どうでもいい意見じゃない? そういうことをイケメンがカッコつけてスカした顔で言うと、なんか周りがうなずく。これをNHKがパロディにするあたり笑いが止まりません。
 この松坂さん、リメイク版『ゴーストバスターズ』のクリス・ヘムズワースを思い出しました。空っぽで顔だけいい枠。周りも露骨にそればっかり気にしているのですが、皮肉なことに、その美貌への過大評価をしているのはおっさんばっかりでして。総長秘書は「こんなアホが来るのかよ……」という態度を見せるし。元カノのみのりは、後輩イケメンに追い抜かれている動画を見せちゃうし。
 時代も変わったね。アナウンサーで見た目だけチヤホヤされる。でも30過ぎたら後輩の美形にその座を取られる。これ、ちょっと前ならモロに女子アナでやられる設定だったはず。それが男でもねえ。おもしろいなぁ。

ネタにマジレス学生新聞部

 時代の移り変わりといえば、新聞部と神崎の対比もそうなのかも。新聞部は不正疑惑に切り込んでいき、神崎がニヤニヤしながらそれを止めようとしますが。かえってその様子を動画で撮って脅しに屈しないんですね。
 
 神崎は「ネタにマジレスやめなよw」と草生やしてそうな、マジに生きるのがダルいみたいな。そういう雰囲気はどうしたってある。一方で新聞部には通じない。ITスキルも上。新聞買い占めてもネットにあがっているから無駄と言い放つ彼らはデジタルネイティブ世代。

 今の時代、皮肉なことがあります。
 人間って、老人の方が知識が豊富で、そのことで尊敬されることが当然でした。姥捨山説話なんか、老婆の知恵で危機を乗り越えるストーリーが多い。でも今の時代、どうしたってIT知識でむしろ逆転が起こるわけでして。神崎世代は「確かにネットであげられたら終わりだな」となるけど。その上司は知識としてはあってもピンとこないから、無駄な新聞買い占めを命じてしまう。こういうしょうもねえロスが今、日本全国で起きている。
 
 韓国あたりはそうならないよう、上の世代までスパルタ式でIT教育したそうですね。確かに韓流ドラマではお年寄りもスマホを使いこなしております。

 ちょっとした場面でも、そういうIT知識が不足するばかりに無駄が多い日本の現状をうまく切り取っていた。それと同時に、大手掲示板の「ネタにマジレスw」ノリがまだ残っている世代と、そんなもんない世代の対比もきっちり見せてくる。
 今の若い世代となれば、グレタ・トゥーンベリがアイコンだ。ネタにガンガンマジレスして、世の中変えていくのが最先端。そこに上の世代はついていけないのかもしれないし、なおかつカッコ悪い。そんなあがきが見えて面白かったですねぇ。

研究者地獄を体現するリケジョ・みのり

 研究不正を告発するみのりも秀逸でして。
 地味な彼女を見ていて思い出したのは、小保方さんだ。実績よりも、ヴィヴィアンウェストウッドの指輪だの、割烹着だの、しょうもないことが注目されていた彼女。キャラクター性を消費され尽くし、追い詰められた彼女。彼女が無罪とは言わないし、STAPは不正だと思うけれども、それでも彼女は気の毒でしたね。

 そういう派手なスターではない、地味なみのりを通して描くリアルリケジョ地獄。何がリケジョだ、女工哀史か! 彼女のセリフのひとつひとつが、日本の学問軽視をバカスカ叩いていて心強い。よいドラマです。
 これは理系だけでなくて、西村玲氏のような悲劇もあるわけでして。学問軽視がもたらす悲劇をうまく落とし込んでいると思えます。現実はもっとひどいんでしょうけど。

好感度だけで世の中渡れると思ってますか?

 本作にあえて苦言を呈するとすれば、今年大河とチェンジして欲しい要素が多すぎること。あの大河の話をして申し訳ありませんが、栄一は徹頭徹尾、周囲の好感度目当てで動いているように見える。主君にまで塩対応をしてしまう不器用な『麒麟がくる』の明智光秀とは正反対だ。
 そういう好感度だけの男が、チヤホヤされるうちに、時代の子として成功しちゃいました……と描いたら面白いと思うんですけどね。まぁ、あの脚本と演出だったら、むしろそれはよろしくないか。

 NHKは大河よりもっと別のものに力を入れているし、忖度にうんざりしていることもわかる。受信料を支払う意義がある良作です。


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